百六話
よし……発動って……なんだこれ!? 起動しただけでみるみる内にエネルギーが減っていくぞ!?
とにかく、手短に終わらせよう。
ミミックの弱点は蓋の裏側にある心臓と脳を合わせた部分だ。
それ以外に貝柱みたいな部位も弱点だと言われている。
ちなみにミミックの種類によっては箱の装飾だと思われる金属の紐みたいな所が手足だったりするのだが、今回のミミックにはそれらしいものは無い。
俺が習得している投擲修練は7、それとライラ教官の元で稽古したお陰で自力習得したレラリア国流剣修練が4となっている。
思えば日々の雑務の合間に色々と覚えたもんだ。
とにかく、この攻撃技能と魔導竜剣が反応を起こして特殊な剣技へと変換される。
この辺りが異世界の戦士に持たされる武器と似ているな。
バルトのシミュレーションで使えると判断された剣技を意識しよう。特殊武装名が表示された。
「魔導竜剣・三日月!」
勢いよく縦切りを行うとその軌跡から三日月の斬撃が形となり、シルバービッグミミックに向かって高速で飛んで行く。
ザシュッ! っと狙い澄ました蓋と箱の間に命中して血飛沫が散る。
「――!?」
声にならない叫びをあげながらミミックが正体を現し、僅かに悶えながら牙を出して飛びかかって来る。
口の中は血まみれで大ダメージを受けているのが一目でわかるぞ。
これ以上苦しませない様に一気に仕留める。
「はぁ!」
一気に詰め寄って魔導竜剣で口の中を突いて貫通させる。
ビクンとミミックは痙攣をしてから動かなくなった。
ズルッと剣を抜く。
シューっと……魔導竜剣に着いた血が剣のエネルギーで気化する。
敵の殲滅を確認。
とのバルトのメッセージの後、魔導竜剣の光が消える。
「戦闘終了だな。シミュレーション通りに使えるようになったな」
フー……っと深呼吸をする。
「ええ」
正直、ずっと魔獣兵に乗って居る所為かもはや体の一部の様に操作できるようになってしまった。
「随分と威力が高くて燃費の悪い武器ですね」
「大容量のエネルギーを持ち込める戦闘前提の武装だからな。ただ、その魔獣兵とやらの運用はしやすい分類だと思うぞ。ラスティもそれを見越して調整させたのだろう」
まあ、この魔獣兵は倒した魔物の肉などを捕食する事でエネルギー補充を出来るようにしている。
赤字になっても盛り返す手段がある限り、弾数を使いきったブレスよりも有用性は高いのかもしれない。
しかも使うスキルによってエネルギー消費も抑えられる。ただ……それでも燃費は激しく悪い。バルトが出来る限り低燃費にしているみたいだけど二振りで20%もエネルギー消費をしてしまった。
これを小型化させたと思われる異世界の戦士用の武器は想定外なんだろう。
「ブ!」
ブルが俺にやったな! って感じで肩に乗って親指を立てている。
うん。やったぜ! ブルも良く魔獣兵にしがみついていてくれるね。安全のためにコックピット、俺の膝の上とかに腰かけて貰うのはどうだろう?
「ブ……」
ブルがなんか身をかがめて少し俺からすり足で下がる。
一体どうしたんだ?
「ユキカズさんかバルトさんか知りませんが……魔獣兵の表情がブルさんを獲物として狙っているような目ですよ」
「ギャウ!」
バルトがここで首を横に振って鳴きやがる。
「トツカ……お前、ブルトレクスを見て何を考えた」
「外は危険だろうからブルを膝の上に乗せるのはどうかと思いました!」
「貴様の魔獣兵は一人乗りだ。操縦に問題が出るから許可せん!」
おう……ライラ教官に注意されちまったよ。
「さて、ミミックを仕留めたのだから何か持っていなかったか調べるぞ」
ミミックの死体から内臓部分を掻きだして内部を確認する。
もちろん内蔵に含まれる魔石は魔獣兵が摂取してエネルギー変換を行う。
魔導竜剣はあくまで切り札としての運用だ。しかも異世界の戦士用の武器に比べて大型で威力もそこまでは無い。
例えばライラ教官とフィリンが搭乗している魔導兵を一刀両断は無理だが、異世界の戦士の武器は出来ている。
それくらい出力が異なる武器なんだろう。
……いや、最大出力なら出来るんだったか?
ともかくミミックの中にある武器を確認っと。
「大型の弓が出てきたな。解析するぞ……」
「あ、自分も合わせて行います。バルト」
「ギャウ」
魔導兵と魔獣兵に内蔵されるライブラリーから照合を行い、この大型の……竜騎兵が運用するであろう弓の解析を行う。
解析完了――ショットストームタイタンボウ+6
「ふむ……中々高性能な武器が出たな。かなり良い品だぞ」
えーっと……登録された情報を確認すると、どうやら矢で射ると拡散する大型弓……らしいな。
「拡散弓ってどういう事でしたっけ?」
「ああ、これは特殊な魔道具に該当する武器でな、矢をこうして番えて、フィリン……」
「はい。こうですね」
フィリンがこの辺りの慣性制御をしているそうで、魔導兵が弓を構えて近くの木に矢を放つ。
弓から放たれた矢が光を放って幾重にも分かれて飛んで行った。
おお……。
「しかもこれは矢の特性が全て反映される。命中補正も働くから数を相手にした場合は非常に便利だな」
なんとも便利なアイテムを所持していたものだ。
「運が良かったな。あのミミックにコレを口の隙間から矢で放たれていたら苦戦したぞ」
ミミックって腹に入れた武器とかをそのまま使って来る事があるらしい。
うへぇ……そりゃあ幸運だった 。
ちなみに箱の中にはご丁寧に大型の矢筒も入っていた。
「これは私達の方で使わせて貰うとしよう。トツカ、お前の方の武装は十分であるのは分かっているな?」
「当然です」
むしろ俺の方は武装過剰なんじゃないかってぐらいゴチャゴチャして来てる。
バルトが制御して整頓してくれていなかったら色々と混乱する事は間違いない。
「本音で言えば貴様には管制火器を扱わせた方が適していると思うのだがな……中々思う通りに行かんものだ……」
ライラ教官が判断に困った様に呟いている。
「ユキカズさんは狙い撃ちが得意ですからねー……」
まあ、確かに当てる事に関して困った事は今の所ない。
異世界に来てから自覚している点だ。
俺と同じような技能構築をした兵士であっても俺程の命中精度は持たない。
これも……何か理由があるのだろう。
バルトが俺から得られたエネルギーで変化させた魔獣兵、特に翼に関しては如実に反映している。
広げるだけで敵に命中させるのが格段に楽になるもんな。
ただ、それもあるのだろうけど俺は白兵戦だとブルのサポートである事が多い。
「ブルのお陰でもありますかね」
「確かにお前とブルトクレスのペアは厄介な組み合わせなのは事実であろうな。息が合った戦いであるのは否定せん」
「ブー!」
「あまり肩に力を入れずに行くぞ!」
「はい!」
こんな調子で進んで行く途中で手にした武具で装備の増強を図っていく。
「お? これはブルが扱うには中々良さそうな装備じゃないか?」
見つけた宝箱から竜騎兵用じゃない白兵戦用の武器を発見した。
サイクロンアックス+5と言うヘルファイアとよく似ているけれど力を込めると風を纏う戦斧が見つかった。
「ブウ!」
ブルも気に入ったのかサイクロンアックスを持って軽く素振りをしている。
戦斧……バトルアックス故にオーク姿のブルと殆ど同じくらい大ぶりの斧なのだけど、ブルは何事も無いかのように振っているなー……。
「一定クラスの魔法属性が入った武具類は所持者に魔力が無いと使えないと言う物があるのだが、ブルトクレスは問題なく扱えそうだな」
「マジックシードで魔法が使えますからね」
ブルは魔法は得意じゃないが資質開花はしている。
より高みへ行くには力だけではダメって事だね。
「ブ、ブー!」
ブルがサイクロンアックスをかざすと……風が螺旋を描いて盾みたいになったりしている。
「ほう……その斧の応用的な使い方を即座に閃いた様だな。上手く制御すれば魔獣兵の急な動きに問題なく一緒に動けるようになるかもしれん。武器とは別に所持するだけでも効果はありそうだ」
なんか便利な斧って事になってそうだなー。
ちなみにライラ教官の話ではブルなら水属性でも雷属性でも似た様に俺の戦闘に貢献できる応用が出来るって話だ。
ともかく、ダンジョンで見つかった物資のお陰で装備は潤沢だ。
このまま異世界の戦士達であるクラスメイト達に問題なく再会出来ればいいのだが……。
なんて調子で……俺達は20階層の中継基地に到着した…………いや、そこには中継基地が広がっているはずだった。
階段を下りた先にあったのは黒煙を上げて廃墟と化した……基地だった。





