百四話
フレーディン迷宮、ダンジョン内がどうなっているかと言うと……樹木の壁に覆い尽くされた自然溢れる遺跡みたいなダンジョンと言う印象だろうか。
ムーフリス大迷宮と同じく竜騎兵などの大型兵器が通れるほどの大きな道がある迷宮だ。
実はダンジョンの中には竜騎兵や魔獣兵が入れない小さな通路ばかりのダンジョンなんかが多いらしい。
地上は竜騎兵で通れるが潜って行くのは無理なフィールド型ダンジョンもこれまでの道中であると、聞いていた。
ズシンズシンと俺達はフレーディン迷宮を進んで行く。
幸いにして中継基地の兵士たちや異世界の戦士達が色々と調査した結果、道中のマップは大体埋まっているので行程はかなり順調だ。
割とアッサリ、15階層に到着……不思議なくらい何も無くて拍子抜けをしてしまうくらいだ。
攻略本片手に進む様な物でバルトのコアにもそのデータが入れられているので迷う事は無い。
問題はこの先の階層で、ムーフリス大迷宮と同じく空間が安定しない。
「驚くくらい順調ですね」
フィリンが魔導兵からの通信で俺に話してくる。
「そうだね。ただ……ここが異世界の戦士の活躍で危険な魔物の数が減ったダンジョンなんだよね?」
これまでの道中を見ると、普通の迷宮と言うか……戦えない程の相手は見受けられそうになかった。
「はい。本来は人が入るのは危険なくらい、魔物があふれ出る地だったそうです。今回の作戦のお陰でこの辺りの地も人の手に取り戻す目処が立ったとの話ですね」
「それだけ異世界の戦士の活躍が目覚ましい事の現れなのだがな……まさか、あのような末路があるのならば非人道にも程がある」
会話にライラ教官も入って来た。
確かに、あの武器を振りまわした際の強さは間違いなく強力だった。
アレを当然の様に振りまわすのに代償が無いなんて言うのは間違いだろう。
「一番の問題はそうですね……儀式を行うと変貌をしないと言うのが事実か否かと言うのもありますよね」
「ああ……トツカは儀式に関して懐疑的なのだろう?」
「ええ、そもそも儀式に関する責任者と連絡が取れないなんて怪しさ爆発してるじゃないですか」
そう……城に王女様と一緒に行った際に調査した所、儀式に関する責任者は異世界の戦士達の補佐を行うと共に行動していて会えないと来たものだ。
既に儀式に関して国は懐疑的に見ている。
資料にはさも昔から異世界の戦士達に施すと問題なく戦えるようになるとあるらしいのだが、調べるとその資料の出元が奇妙であるのが発覚している。
どこぞの遺跡、ダンジョンで複数見つかった文献だとあるのだけど、それ以外のダンジョンや遺跡等で見つかった例が存在しないとの話だ。
いや……正確には異世界の戦士に関する記述は稀にそれらしい代物があるのだけど浸蝕率や儀式に関する記述だけ描き足した様に都合よくあるのだとか。
「……過去の記述に存在する異世界の戦士には長く生きた者も居るとの話がある。悲観するなよ」
何か、生き残る方法が存在するかもしれないと言う希望を抱かねばみんなパニックになりかねないぞ。
でも、これ以上の犠牲者を出させる訳にもいかない。
幸いにして俺達が到着するまでは連絡が取れていたのだから、最前線に向かうのが良いだろう。
「とにかく、行きましょう」
と言う訳で地下16階を進んで行く。
この辺りは既に空間が歪んで階層移動をするたびに別の場所に出かねない。
マップを開いて調査済みか調べる事になるのだが……どうやら今回の空間は別の場所に繋がってしまったようだ。
いや……中途半端に調査済みマップがある。
既にダンジョン内で空間のシャッフルが行われて調査済み範囲が異なる状況になっている様だ。
他の分岐を探しても同様の事になるだろう。
はあ……急いでいると言うのに。
「行くぞ」
「はい!」
こうして踏みだした空間は……密林だ。
どうもフレーディン迷宮は緑があふれる空間が多い印象だな。
「ふむ……魔導兵や竜騎兵では進みづらい道が散見されるな」
「そうですね……っと、敵影感知。交戦します」
魔獣兵のレーダーに敵が引っかかる。
翼を広げてターゲット確認をするとカバ型の魔物がこちらに向かって猛突進をしてくる。
カバ型の魔物……見た目でバカには出来ないぞ。
なんでもカバと言うのは日本人がぼんやりと思う鈍重で水に潜っているってイメージとは実は違うらしい。
走ればそれなりに早く、それでありながら巨体で皮膚は分厚い、しかも噛み砕く力は強い。
元の世界基準でもゾウには敵わないがサイと同じくらいには強い……そうだ。ヘタをするとライオンさえも返り討ちにするとか何とか。
で、この異世界だとカバ系の魔物はタフでしかも口から火等の魔法弾なんかを吐いたりして厄介極まりないそうだ。
パンサー系の魔物なんかを返り討ちにするタフさと機敏さを持っているとか。
そんなカバの魔物がこっち目掛けて二匹敵意を持って突撃してくる。
ピピっと魔物名が俺の目視で表示される。
「オーキッドピッポだそうですよ」
「解析が随分と早いな……いや、トツカは名前だけ即座に分かるんだったか?」
「ええ……そうですね。名前が上に浮かんで見えるんですよ」
この名前が分かる現象はターミナルなどで技能を習得しても出来るようになる代物ではないらしい。
異世界の戦士としての力なんだろうと言うが……他の戦士たちからの証言には無いとの話だ。
どうも異世界の戦士には各々、共通項目の技能と特徴がそれぞれあるのだとか何とか。
ただ……俺の特徴って魔物の名前を一発で分かるとか良くわからない能力をしてる。
けれど、ブルにターゲットが行って登録完了って出たのも気になるよな。
あの声もそうだけど……俺は俺自身の能力に関してよくわかっていない。
よくわかると逆に寿命が縮みかねないけどさ。
藤平の能力はなんだったんだろうな?
あの末路から見て性欲とかじゃない事を祈るばかりだ。
「思えばあの時点で確信すべき出来事でしたね。ユキカズさんが異世界の戦士だったって」
「ごめんね」
「良いんですよ。あの時、それを知ったからって何かが変わる訳ではありませんでしたし、知っても結果は変わりませんから」
諦めとかそんな口調ではなく、信じていると感じる声音でフィリンが言ってくれる。
こんな些細な所でもフィリンの人格の良さを感じてしまうな。
藤平の最後にあんな台詞を言ってしまう俺からすると出来た人だ。
「助かるよ」
「ブ!」
ブルが魔獣兵の背中で鳴いて答える。
ああ、余所見は程々に行くか。
「トツカ、ブルトクレス。左は任せたぞ。私とフィリンは右を叩く」
「承知しました。ブル、振り落とされない様にしっかりと掴まっていてくれよ」
「ブー!」
「バアアァアアア!」
突っ込んで来るオーキッドピッポが走りながら鳴いて口を開き……光弾を放ってきた。
おっと……弾速が思ったよりも早いな。
横にステップして交わし、翼を広げて牽制の魔眼を発動させる。
カッと魔眼が発動し、視線が合っていた二匹のオーキッドピッポがフラフラと目を回して動きが鈍くなる。
「非常に便利な武装をしているな、その翼は……」
ライラ教官の操縦する魔導兵が右側のオーキッドピッポに向かい、飛びかかって連続で切りつける。
おお……その流れる様な動作は何時もの稽古の動きと違いが無い。
「さすがは最前線か……中継基地から借り受けたこの武装でこの程度のダメージしか与えられないのか」
中継基地には異世界の戦士達のお陰で確保出来たダンジョン内で見つかった武器が複数保管されていた。
ライラ教官が今回持ってきたのは魔導兵が装備できる対大型長剣ブラスファルシオンL+10と言う武装だ。





