百三話
「え? これは……」
フィリンが声を出している。
「ユキカズさん?」
「みたいだな。で、そっちの魔獣兵はバルトが俺の操縦を参考に動かすってことか? 俺がナンバースキルを使って戦う練習であり、同時にデータ収集をすると同時にフィリンの更なる訓練と」
「ギャウ(肯定)」
「なるほど……じゃあユキカズさん。お願いします」
「ああ……」
と言う訳で俺は最悪の状況を想定した白兵戦でフィリンとバルトを相手にした戦闘を行う事にした。
手にはバルトが情報から模倣したあの武器とナンバースキル。
……ボス側での戦闘って感じだな。
という訳で腰を低くしてライラ教官に教わった戦い方とこれまでの戦闘経験を元にフィリンとバルトに近づいて棒を剣モードにして斬りつける。
ちなみに魔導兵はオーバーブースト状態を発動させている。
あと先考えての戦闘は度外視じゃないと無理との判断だ。
ラルオンの魔導兵のコアも戦闘補佐性能はかなり良いそうで、フィリンの意識した動きをしっかりと反映させている。
「はぁ!」
バッとフィリンが魔導兵のバーニアを吹かして緊急回避を行いながら主砲を放ってきた。
もちろん合わせてバルトが俺の戦闘データから竜騎兵用の剣で叩き伏せようとしてくる。
それを見切って懐に入り込み、バルト目掛けてハンドレッドダガーを叩き込む。
これで行ける……訳は無いか。
その動きを読んで居たとばかりに魔獣兵は地面を強く蹴りサイドステップして避ける。
逃すか! っと流れ様に魔獣兵に追撃をしようとした所でフィリンが剣で叩きつけを行ってきたので弾く……いや、フィリンの持っていた剣が鍔迫り合いをするとスパッと切れて飛んで行ってしまった。
おおう……とんでもない性能をしてるな異世界の戦士側。
「ギャウ」
バルトがサイドステップで生まれた遠心力で剣を一回転させ、フィリンの剣を斬って隙だらけの俺に切りつけつつ羽と口からそれぞれ狙撃をしてきやがった。
一斉攻撃って奴だな。
で、フィリンの操縦する魔導兵が予想外の攻撃、蹴りを放ってくる。
なんて猛攻をしてきやがる……。
ただ、それでも速度が間に合ってしまった。
主砲を剣で弾きながら懐に入り込んでトルネードエアを炸裂――。
と言う所でフィリンの魔導兵の主砲が勢いよく放たれて俺に命中……するが大きく吹き飛ぶだけに留まった。
ふむ……特に意識せずとも連携出来てはいるみたいだ。
むしろ俺の方が攻撃が単調だな……。
そもそも現状だと初期のナンバースキルL:チャージだけでこの状態なんだ。
L:ドライブまで使用するとフィリン達は対応出来る……のか?
「よっと」
着地しながら流れ様に牽制のハンドレッドダガーを放ってフィリンとバルトの機体の動きを止めようと試みる。
無数に飛んで行く光の剣をフィリンもバルトも飛び上がって避けたが隙だらけだ。
と思ったらフィリンもバルトも空中でこっち目掛けて狙撃して攻撃すると同時に反動で器用に動いている。
だが……俺を相手にしている事を忘れては困るな。
「はぁ!」
素早く駆けて跳躍し、力の限り異世界の戦士の武器を振り被る。
スパンとフィリンの魔導兵の片腕と片足を切断。
「あ!」
よし! このままトドメ!
と思った直後にバシュッとフィリンの機体のバーニアが噴射されると同時に俺に突撃、そのまま俺を抱きかかえると――。
「ってまさか――」
魔導兵が光を放ちながらはじけ飛ぶ。
「自爆――」
爆発音と共に魔導兵が爆発し、遥か後方にフィリンが乗っているコックピットが射出されているのを俺は自爆して爆炎放つ地で見ていた。
「ギャウ!」
で、バルトは自爆してダメージを受けた俺へのトドメとばかりに主砲と剣での波状攻撃を行って来た。
ここで負けるのは良くないと咄嗟にLチャージがオートで作動して藤平と戦った時の状態となってスローモーションの中を素早く動いてバルトに肉薄。
ああ、バルトも分かってるのか顔が笑ってる。
そのまま俺が剣で横に切ると魔獣兵を一刀両断してしまった。
あとは……と言う所で戦闘終了の表示が出た。
「あう……負けですね」
「そうだけど、咄嗟にここまで出来るのは中々難しいんじゃない?」
いきなり戦闘継続が出来ない機体を特攻させて自爆、本人は脱出済とか意外な行動だ。
「ですが、これではダメだと思います。現にユキカズさんを倒しきれませんでした」
「改めて異世界の戦士側としての性能がおかしいって断言出来るよ……」
データ蓄積中……貴殿の因子戦闘行動の効率化を提案。
ってバルトからのダメ出しを俺はされてしまった。
お前はどっちの味方なんだよ。
まあ……俺がナンバースキルを使用しないといけない事も前提にしているんだろうけどさ。
俺は操縦とナンバースキルの効率的な使い方……フィリンは魔導兵での異世界の戦士の力を使う奴を前提にした戦い方をってね。
ただ、やっぱりなんて言うかフィリンの操縦って卒なく上手で強いと感じる。
ライラ教官も卒がないけど、フィリンだけでも問題なく戦えると俺は思った。
「そうですね……ただ、一人で、じゃなくてこの子とだけと練習するより有意義な練習が出来ています、もっと操縦が上手になれる気がしました」
「それは良かった。俺も……もっと効率よく戦えるようにならないと……」
体を鍛えるだけではなく、いざという時の行動の練習を頭に叩き込むのにコレは非常に良い。
暇つぶしの戦闘シミュレーションではなく、これから起こりうる戦いを前提とした練習だと……俺も意識せざるを得なかった。
「はい。ユキカズさん。次こそ負けません!」
「こっちだって色々と覚えて行かないとね! 負けないぞ!」
そうして俺達は毎日朝方まで模擬戦闘を繰り返し続けたのだった。
でだ……異世界の戦士と連絡を取るまでの日々の雑務の事……周囲で出てくる魔物とかを仕留めて燃料にするのが仕事だ。
もう魔獣兵が自分の体の様な錯覚を覚え始めている。
バルト、フュージョンモードって奴を使ってないよな? 最近じゃ俺が乗っていると魔獣兵の顔に締まりがないから個性的だとか言われてきているんだぞ。
それで二日程経過した頃の事。
「伝令兵の消息が途切れた? 最前線基地からの補給部隊は?」
「えー……今の所、帰路のオイルタイマーによる脱出者は中継基地からしか確認出来ておりません。それも20階まででして……」
不穏な空気が解消されない。
くそ……なんとなく腹立たしい。
「ライラ教官」
「なんだ?」
「自惚れも入るのですが、もう調査部隊として自分たちがダンジョンに潜って行く必要がある様な気がするのですが……」
「ふむ……貴様や異世界の戦士たちを利用する存在の懸念があるから出来れば私達の国が責務を果たさねばならないが……元々貴様が交渉役をする手前、そちらの方が早いか」
「いざという時には対処出来るようにします」
「あまり無茶をするなよ?」
「もちろんですよ。俺も死にたくは無いですからね」
「わかった……では、ダンジョン内の調査のため、私達が向かうとしよう」
そんな訳で俺達はダンジョンの深層に挑む事が決定してしまった。
で、ラスティ達はここで待機をして貰う事になった。
道中でさえもそこそこ危険だった手前、最も危険なダンジョン内にまで連れて行くのは、ラスティ達は元より俺たち自身も身を守れるか怪しい為だ。
「わかったわ。んじゃ、ここの基地の設備に残っている異世界の戦士たちのデータとかを洗うのと、基地の竜騎兵と魔導兵のメンテナンスをしてるからクッキーとエロ達は頑張りなさい」
「これまでの道中、色々と手助けしてくれてありがとうございます」
「気にしなくて良いわ。私は好きに協力してデータを取っているんだもの。それより約束を忘れちゃダメだからね」
「はーい」
と俺が魔獣兵に乗って頷くと、ラスティが研究者の目を浮かべた。
「これまでの道中でも調べていたけど、魔獣兵でそこまで感情表現が出来るのって想定外なのよね。羽の目に関しても気になるけど、しっかりと……生きて戻って来るのよ?」
「もちろんですよ。ね? フィリン」
「ええ!」
フィリンはラスティの助手として色々と教わっていて、今ではかなりの知識を吸収してきているとか。
俺が謎の菓子職人の腕前が上がっているのとは異なり、フィリンは望んで技術が向上しているね。
いずれラスティみたいな竜騎兵や魔導兵……魔獣兵の第一人者になるのも時間の問題かもしれない。
「ブ!」
「アサモルト、貴様は何かあった際にダンジョンに潜っている私達にすぐに連絡が取れるようにラスティと共に基地に残っていてくれ、地上での連絡が取れたらすぐに駆けつけるように」
「やれやれ……人使いが荒い事で……」
って事で俺達はダンジョンに入って行くのだった。





