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百一話




 そうこうしている内に基地での日が暮れて行った。

 俺は魔獣兵から降りてブルやライラ教官との稽古を行った後、基地内の雑務の手伝い……またも菓子作りをさせられた。


 どこからか……いや、アサモルトがベラベラと俺が菓子作りが出来るって話を基地の連中に言いふらした所為で厨房に呼ばれて携帯食の菓子作りを命じられてしまったのだ。

 嗜好品ではあるが、基地の兵士たちの士気向上に一役買えるし、俺自身の顔を覚えてもらうためって事でやらされたんだけどさ。

 まあ……戦うとかより疲れないのが良いのだろうけど……。


「お前も異世界の戦士なんだって?」


 基地の糧食担当の兵士が俺に尋ねてくる。


「あ、はい。危険な魔物との戦いやダンジョンの探索をする事になる国の頼みを断って、比較的安全な兵士になりましたよ」

「随分と変わり者なんだな。お前。国抱えの戦士で、あんな化け物みたいに敵と戦える癖に後方で兵士とかよ」


 まあ、言わんとしている事は分からなくもない。

 だが、その前提が現状揺らいでいるのだから間違っているとも言い難いのも事実だ。


「幾ら平和とか言っても国内の騒動とかあるだろ」

「魔物との死線と比べたらまだマシだと思いますが?」


 俺の返事に兵士は頷いた。


「違いないな。強力な竜騎兵や魔導兵であろうともへたすりゃ簡単にやられる様な戦地での戦いよりは安全だろうさ……魔物どもに奪われた地を取り返すって大義があっても危険なもんは危険だしな」

「そう言う訳ですよ。それで……異世界の戦士とは話はしなかったので?」

「俺達は後ろに引っ付いて基地の建設とか見回りとかしてるだけで全然話をして無かったから……あんまり話はしなかったな」

「話はしなかった?」

「少しはするさ。ただ、国のお偉いさん達のガードが堅かったからな。そりゃアレだけ強けりゃ機嫌を損ねない様に専用の奴が接するんだろうって思ってたさ」


 国から優遇されていた訳だしな。

 出来る限り行動しやすいようにお付きの人ってのが常時近くに居て、なんでも聞けば教えてくれる環境だったそうだ。

 至れり尽くせりで悪くは無い環境だったんだろうなー。


「それでも声を掛けりゃ話くらいはしてくれたぜ? 戦いは任せてくれってよ。俺達の常識を覆す様なすげぇ様だったよ。あれなら大義も叶うし危険な化け物を倒す事が出来るって思えたぜ」


 なんとなく兵士から見た勇者とかそう言った感じで兵士たちが異世界の戦士達の勇ましい様を各々話してくれる。


「それに比べたらお前はなんつーか……」


 言葉を選ぶ印象と……微妙に悲しくなってきた。

 俺ってそんなに変なのか?


「まあ、俺は兵士をしていた訳ですからね」

「ギャウ!」


 バルトが俺の肩に頭を乗せて鳴く。


「いや、兵士ともなんか雰囲気違うだろ」


 どうしてこうも俺は周囲に変な人物として見られてしまうのだろうか。

 ちょっと自信無くなってきた。

 俺と他の連中との違いは何なんだ?


「むしろ菓子職人……いや、城の使用人か」


 だーかーらーなんで俺はそっち方面の印象にシフトするんだ?

 異世界に来てからの日々で体も結構鍛えたし、かなり筋肉質にはなってきてるんだぞ!

 ブルとの楽しい鍛錬の成果が全く評価されないのは納得がいかない。


「変わり者と言われるよりもクルものがありますね……はぁ」

「ギャウギャウギャウ!」


 バルトが笑い出した。

 コラ! 主人を笑うんじゃない!


「まあいいや……菓子はこれくらい作っておけば問題ないですよね」

「ああ、助かったぜ。ここまでしっかりと保存の効く物をアッサリと作るって所を見ると、異世界の戦士ってのは戦い以外でもなんでも出来るんだろうさ」

「そう言う認識はどうなんでしょうね。なんでも特別ってのは……」


 一応、俺も異世界の戦士として見て貰えたって事で良いのかな。

 とにかく、厨房での菓子作りの注文を終えて俺は魔獣兵を休ませている格納庫へと向かう。


 その途中……魔導兵の格納庫に通りかかった所で誰かが操縦訓練をしている音に気付く。

 そっと格納庫を覗くとライラ教官とフィリンが搭乗している魔導兵から明かりが漏れている。

 何をしてるんだろう?

 と、思って魔導兵に近づいていくと、魔導兵のコックピットでフィリンが何かしている様だ。


「あ……あー……はぁ……」


 ビーっと赤い表示がした後、フィリンがコックピットを開いてため息をつきながら外に出てきた所で視線が合う。


「ユキカズさん、こんな時間にどうしたんですか?」

「俺の部屋になりつつある魔獣兵の所に戻ろうとしている途中で、格納庫から声が聞こえたからさ」

「そうだったんですか」

「フィリンは操縦訓練?」

「はい……」


 なんか歯切れ悪そうに視線をそらしながらフィリンは頷く。

 一体どうしたのだろうか?


「フィリンって結構操縦も出来る方じゃない?」


 少なくともここまでの道中でライラ教官の代わりにサブパイロットをしても問題は無いほど操縦は上手だ。

 俺がバルトに操縦訓練をして貰っている間にフィリンはラスティの元でパーツのシミュレーション等を通じて操縦方法を学んでいた。


「そうなのですけど……私、大事な戦いなのに見ているだけでしたから……出来る事をしたくて」


 ああ……もしかしてフィリンは藤平との戦いで殆ど見ていただけだったのを気にしているのだろうか?

 藤平が異世界の戦士としての力を解放して、ナンバースキルを放ってきたのだからフィリンが戦いに参加出来なかったのはしょうがないとも言えるのに……。

 本当、フィリンは誰かの為に頑張れる人なんだな……。

 なんとなく心に来る……。


「フィリンが戦力じゃないなんて事は無いさ。現にバルトに指示を出して主砲を当てさせたじゃないか」


 藤平への奇襲として十分に効果があったのは否定のしようがない。


「それも私が居なくてもバルトさん自身で考えて出来たはずです……」


 う、うーん……否定し難い。

 バルトも居心地の悪さを感じて余所見してやがる。

 空気を読むドラゴンだ。

 確かにフィリンは最近、ライラ教官とアサモルトの影に隠れて地味になっているのは否定し難い。

 だからと言って戦力になっていないと言う訳でもない。

 焦っているんだろうと言うのが伝わってくる。


「……だから操縦訓練をしていたって事だね。せめて与えられた魔導兵の操縦をライラ教官よりも上手になる様に」

「はい……もちろんライラ上官がメインパイロットなのは変わりませんけれど、いざという時に備えて……」


 ……ラスティが道中も付いてきているのがフィリンの劣等感を持たせる原因になってしまっているのは想像に容易い。

 魔獣兵や魔導兵のメンテナンスをしてもらえるから、フィリンの出来る事が被るんだ。


「なるほどね……それで、操縦訓練をしてたって言うけど、どんな訓練してるわけ?」

「見ますか?」


 ピョコっとラルオンの魔導兵のコアと目が合う。

 特に何かある訳じゃないけど、アレに人格が宿っているんだよな。

 自己主張を全然しない奴だよな。

 で、魔導兵のコックピットの画面を確認。


「ギャウ」


 バルトもコア同士でやり取りをするっぽい。

 お? フィリンのやっているシチュエーションが出てる。

 って……。


「異世界の戦士と交戦した場合の魔導兵での戦闘ね」


 これ、俺も最近バルトにして貰っている藤平との戦闘データで得たシミュレーションと同じ代物だ。


「魔導兵の情報とバルトさんの分析をもとに作ったデータで戦っているのですけど……」


 ……そりゃあね。

 俺だって全然勝ちの目が出てない模擬戦闘をフィリンもやっていたのか。

 だけどこの戦いが上手く出来るようになったらこれからの戦いが上手く行くのも確かだろう。


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