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百話


「なーバルトーシミュレーションで対戦モードとか出来ない?」

「ギャウ」


 ふむふむ……コアがあれば出来るっぽいんだ。


「ラスティさん。事が終わったらシミュレーションでブルと対戦させて貰って良い?」

「クッキーの頼みだから別に良いわよ。データも取れるし」

「……あの、ライラ上官……ユキカズさんが遊びに誘おうとしている様に私には感じるのですが……」

「む? そうなのか? 真面目に訓練に打ち込み、ブルトクレスに操縦訓練として対戦をしようとしているだけではないか?」


 ギク……フィリンは俺がどんな感覚でシミュレーションをしているのか感づいてしまったっぽい。

 ライラ教官の方は特に疑問に思っていないと言うのに……何故気づいたんだ?


「良い感じに怠けてんねー嫌いじゃないぜ。だけどもっと怠けるのが良いと思うぜ」


 アサモルト、アザラシモードで魔導兵の荷台で寝るな! つーか、その姿にポンポンなれるものなのかよ!


「……フィリン。あれと比べたら真面目に訓練している方に入るトツカの方がはるかにマシだと思わんか?」

「そうですね。私の気のせいだったのでしょう。むしろ何故私を誘わないのでしょうか?」


 えー? まあ、フィリンって操縦凄く上手そうだからかな?


「フィリンも一緒に訓練しよう」

「ええ、その為には頑張ってユキカズさんの問題を解決しましょう」


 そうフィリンに言われて俺も考える。

 この問題って……どうしたら解決するのだろうか。

 クラスのみんなと合流して武器を使わない様に説得、真実を告げて……藤平の様にならないために、安静にする。


 ……どう考えたってそれで解決なんて言えない。

 最終的には浸蝕率が100%になって自我を喪失して別の生き物に変質してしまうんだ。

 この浸蝕率は日々増加していくし……バルトであっても止められはしない。

 元の世界に戻ったら無くなるのか?


 ……答えは出ない。

 けれど、やらねばならない事はある。

 それはあのローブを着た奴を捕まえて報いを受けさせ、二度と俺達を利用できない様にする事だ。


 まずはそれを解決する事を優先して行こう。

 それからでも遅くは無い。

 今は残された時間を有意義に過ごして行かねばならない。

 ナンバースキルに頼らない戦いが求められる。


 魔獣兵の力を十分に活用しなくちゃ。

 強い相手でもナンバースキルに頼らずに……やっていけるはず。

 任せたぞ。バルト!

 なんて様子で俺達は一週間程、密林を進んで行き、道中のフィールド型ダンジョンを何度か通過する。


「この辺りにもフィールド型のダンジョンがあるんですね」

「ああ」


 一応ダンジョンに形式があって時々構造が変わる。

 けれど上下に行く謎の階段等を使用しなければ大幅に地図をショートカット出来る仕組みだ。

 空飛ぶエイとかはフィールド型のダンジョンに入ったら見なくなったので安心と言えば安心か。


 その代わりにサーベルウルフの群れとか、ソードマンティス、ハンマーヘッドイノシシとかの魔物とよく遭遇する様になった。

 他にパンチングビッグラビットなる大型の兎の魔物とも戦闘になった。大きいくせに動きが良くて対処が大変だった。


 ブルの地元って結構危険なんだな……ここまでは来ないらしいけどさ。

 ライラ教官やフィリンがそれぞれ操縦する魔導兵と時に連携しながら俺達は進んで行ったのだった。


「いや……魔獣兵の戦闘データが取れて良いわね! まだまだパーツには謎が秘められていて次に作る魔獣兵のアイデアがどんどん湧いてくるわ!」


 ラスティが俺のデータを取る事に集中していて楽しげに話すのが非常に印象的だった。


「クッキー、事が解決したら大型の魔獣兵を作るから協力しなさいよ」

「あー……はい」

「いえ、異世界の戦士達に協力を頼んだ方が良いのかしら?」


 俺はともかくアイツらを実験に使うのは避けた方が良いんじゃないじゃないかな……あの武器を知らずに振りかざしているって言うのは俺より浸食が進んでいるって事になると思うし。


「ラスティ、研究者として道徳を無視する様な真似は避けてくれよ」

「研究のために新鮮な死体を要求するマッシュ程じゃないんだから良いじゃない」

「アイツと比べるな……それに奴は緊急時の蘇生処置の第一人者だぞ」


 ぶー……とラスティが不満で唇を突きだしているけど、なんか会いたくない人っぽい名前を聞いたな。


「でも異世界の戦士に関しちゃマッシュに預けるのも手って事でフジダイラのデータを預けたんだろ? 騎士様」

「うむ……ラスティの分析とマッシュの分析を合わせれば何か切り口があると思えたのでな。とにかく先を急ぐぞ」


 そうして……異世界の戦士達が潜っていると言われるダンジョン前に到着した。


「ここが中継基地ですね」

「うむ……思いのほか順調だったな。これも一応……異世界の戦士たちの活躍らしいのだがな」


 前に行った遠征の基地より規模が大分小さいけれど、レラリア国の派遣兵たちが警備を固めている。


「止まれ! 所属と階級を言え!」


 基地の前で見張りの魔導兵と竜騎兵が近づく俺達の方へ声を掛ける。

 ここでライラ教官が前に出て通信をする。


「レラリア国所属、王族近衛騎士隊、ライラ=エル=ローレシアだ。故あって異世界の戦士達に伝達をする為に王と王女の直々の伝令を持ってやって来た。確認をしてくれ」


 ライラ教官が操縦する魔導兵から所属の信号が出ている。

 やがて認証が通ったのか派遣兵たちが武装を解いた。


「伝令を承認、よくぞ来てくれたローレシア様とその所属の方々」


 そんな訳で俺達はダンジョン前の中継基地に厄介になった。ここまでくれば異世界の戦士達に直接連絡が取れるだろうとの話だ。

 ムーフリス大迷宮と似た感じで連絡すればどうにかなるはず。

 俺達は魔獣兵から降りてライラ教官達と作戦司令部に乗り込み、司令官に指示書を見せた。


「えー……上級近衛騎士様がお運びになった指示に関して、当基地は全面的に協力をする所存です。ただ……現在、異世界の戦士の方々はダンジョン内の攻略……大作戦をしている最中でして緊急な連絡を届けるのが難しい状況です」

「ふむ……異世界の戦士たちは今、何処まで潜っているのだ?」

「現在……このフレーディン迷宮において過去の情報でも未確認とされている地下43階層を超えたとの話が来ております。ダンジョンから溢れる危険な魔物共の主を討伐するのも時間の問題でしょう」

「最前線基地は?」

「地下35階で国の兵士達がサポートの為の物資を確保して基地を守っている状況です」

「つまり地下35階に行けば最低限、警備をしている異世界の戦士たちとコンタクトが取れるのだな?」


 さすがに異世界の戦士……みんな揃って最前線に送るなんてバカな作戦はありえないだろう。

 何かあった際の守りの為に最前線のキャンプ地の警護はしているはず。

 そこで合流し、事情を説明すればどうにかなるはずだ。


「連絡をして、異世界の戦士達を呼んでほしい」

「ハ! 承知しました! ダンジョン内に居る異世界の戦士たちへとコンタクトを取りましょう」

「ライラ教官。俺達が直接行かなくて良いのですか?」

「ああ、ここまでくれば連絡も容易いはずだ。むしろ行き違いになる事を警戒すべきだろう。何時でも異世界の戦士たちと話が出来るようにしておけ」


 って事で急いで最前線基地に伝令が向かった……のだけど。

 しばらくの間時間が必要との事で俺達は基地で休ませてもらえる事になった。

 とはいっても俺は魔獣兵の中で休んでいるのだけど……まあ、何もせずにいるのは良くない。

 近隣で出てくる魔物の討伐を俺達はする事になった。


 アレだ……基地周辺のパトロール業務って感じだな。

 ついでに白兵戦でのLv上げなども併用して行う事になったぞ。

 何が起こるかわからないってのが理由だそうだ。


 とは言いつつ……この基地周辺は少し前に異世界の戦士達の部隊が強力な魔物を仕留めて回ったお陰で大分平和になっているって話だけどさ。

 確かに……言ってはなんだが魔獣兵や魔導兵で対処出来る程度の魔物しか見つかっていない。

 話によると燃費の悪い強力な竜騎兵じゃないと苦戦する魔物がこの辺りに蔓延っていたそうだ。

 それをアッサリと倒せる異世界の戦士ってのは規格外の存在って事なんだろうけどさ。


 ちなみにその強力な魔物の素材などをこの基地では加工している。

 竜騎兵や魔導兵の装甲とかに使われているとの話だ。

 ライラ教官とフィリンの乗る魔導兵の装甲に換装が行われていて、それだけで随分と性能が向上しているとか何とか。


 俺が乗る魔獣兵はラスティの監修で一部プロテクターを着用する事になったけれど、それ以外はあまり変化は無い。

 精々、竜騎兵用の長剣がその強力な魔物の素材を使った代物に変わったくらいか?

 魔獣兵の独自進化部位の所為で色々と汎用性が低下しているのが難点と言えば難点だよな……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ハンマーヘッドイノシシ なんでこいつだけイノシシとか日本名?
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