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一話

 日差しは麗らか良い天気……いや、天気が良すぎて暑いか。

 いい加減、早く曇りにでもならないかな?

 授業中、教室の窓から校庭の方を見ていると思わずそう思うほどに、天気は良かった。

 季節は6月の中旬……そろそろ梅雨だというのに、空模様は快晴だ。

 俺の名前は兎束雪一とつか ゆきかず、紺碧奥高校に通っている学生だ。

 親の血筋なんだろうか、寒いのは割と平気なんだけど暑いのは苦手で、季節や天気のことを考えると大体涼しくならないかなーってことばかり考えている様な気がする。


「で、この数式の応用で――」


 おっと、授業に身を入れなきゃ遅れる。

 赤点でも取ろうものなら親にこっぴどく怒られて小遣いを減らされかねん。

 将来のこととか今の所なんも考えてないけど大学くらいは出た方が良いのは漠然としたことで分かっている。

 ……遊びたいけど将来の楽のために苦を受け入れるべきなのか?

 ま、しっかりと勉強してりゃあ悪い点は取らないはず。

 ちょっとFPSゲームとかやって銃器から軍隊に関して独自に調べるのが最近のマイブームだな。

 軍隊が舞台の漫画とか読んだ事あるし、階級とか出世を考えると会社員も似た感じだよなー……なんて思っていたりもする。

 ま、友人とかクラスメイトはアニメや漫画、ゲームに最近夢中になっている話をするけどね。

 小学生くらいの頃はラブコメが流行っていたけど、最近はファンタジーが多い。

 ……異世界の兵士とかってモブであることが多いけど、実際はどんな仕事なんだろう。

 でー……だ。そんな感じで考えを巡らせていた休み時間のこと。

 それは起こった。


 妙な体の浮遊感と共に……一瞬で視界が暗くなる。

 その瞬間、教室に居た17人の学生は世界から突如、消えた。


 か、体が動かない!

 首すらも動かないそんな状況で視線だけで辺りを見渡す。


『ほう……今回は随分と居るみたいだな』

『誰が誰を担当する?』


 誰だ!?

 妙な何とも言えない感触を受けたような気がした。

 アレだ。かなり違うけど焚き火のそばに近づいた時みたいな熱が一番近いかもしれない。


『誰でも良いではないか。できれば……長く生き残ることを祈るしかない。それこそが我らの娯楽なのだから』

『因果なものよ……そういった現象でしかないのだから』

『そう、だな……とは言え面白ければその限りでは無い』

『うむ……できれば良い娯楽が続いてくれれば良い』

『哀れなものたちよ。我等の加護で少しでもその生が幸に満ちていることを願っている』


 キラキラと俺達に何か光が降りかかる。


『我はコイツ』

『我はお前等が選んだ後の最後の者を指名する』

『汝らしいな』

『では我はコレに』


 と、声がどんどんと続いていく。

 そして……俺の番になった。


『さあ、お前の番だぞ。しかし最後とは……』

『分かっている。それが我だろ』

『そうだったな』


 誰だ!?


『お? この空間で意識を保っておるぞ』

『最後に気付くとは因果なものだな』


 声が出せない俺の意識を見抜いたのか声の主達は驚きの声をあげた。


『それは面白い。適性があったのか、はたまた体質か、どちらにしてもだ。意識があるのならば、我等の願いを叶えておくれ、我等はお前達が少しでも長く生きる事を願っている』

『時に人は何よりも冷酷であり、何よりも慈悲深い。我らよりもな』

『無駄に力を振るい、その命を散らさぬようにな』


 と言う声がしたかと思うと……。



「あいた!」


 突如椅子が消えて尻もちを搗いた人が俺を含めて何人か居る。


「つー……」


 痛みを堪えながら瞬きをすると、辺りが薄暗いことに気付き、同時に床が淡く光っているのを理解した。

 と、同時に僅かに破裂音が響いた。


「お、おお! どうにか成功したようだな」

「はい!」


 声の方角を見ると、ローブを羽織った謎の集団と王冠を被った初老の爺さん達?


「ですが機材は破損してしまっているようです。修復の見込みは……」

「よい。これだけの人員を招くことができればどうとでもなるだろう」


 何やら壊れた物を見てうろたえるローブの連中と爺さん達が何かを話している。


「こ、これはいったい!?」

「何が起こっているのよ!?」


 驚きの声をクラスのみんなは発する。

 俺だってそうだ。いったい何が起こっているのか理解が追いついていない。


「俺達、さっきまで教室に居たよな? それがどうしてこんな所に居るんだよ?」

「つーか……」


 尻もちを搗いた生徒の方にみんなの視線が行く。

 それは俺も含まれている。


「これはこれは説明が遅れた。異世界の戦士たちよ」


 初老の爺さんが仰々しいポーズを取ってから俺達に声を掛ける。

 それに合わせてボッと室内が明るくなる。

 石造りの壁にタペストリーが掛けられていて……なんだろう、変わった場所だ。

 さっきの声は何だったんだ?

 少なくとも偉そうな初老の人とは声が違う。

 こう……妙にエコーが掛った仰々しい、地獄の底から響く声だったし。


「異世界の戦士?」


 クラスメイトが初老の人に返事をする。


「そうだ。異世界の戦士達よ」


 クラスのみんなが各々見合って首を傾げる。


「ここはいったいどこなのよ! 私たちを連れてきて何をしたっていうの!?」

「落ちついて、さっき私達……尻もちを搗いたわよね? どうやって連れてきたの?」

「……」


 そうだ。教室から俺達を昏倒させて何処からか連れ込み、投げ飛ばして起こしたにしてはおかしい。

 立っていた人は転んだわけでもないし、座っていた生徒が突如椅子が無くなって転んだに過ぎない。

 ほぼみんな同じタイミングで……一瞬で移動させられたかのようだ。

 それと……あの謎の声はなんだったんだ?


「ふむ……どうやら異世界の戦士たちは状況を把握し切れていない様子だ」



 すると初老の人の隣で本をめくりながら何か記述を探しているローブの男が答える。


「えー……君達の同郷の者達が過去に残した記述を拝借すると、異世界召喚と言う状況であると思って欲しい。だそうだ」

「異世界召喚? って」

「マジ?」

「ふざけないでよ! 悪ふざけにしたって笑えないわ」

「何かの冗談なんじゃないの?」


 クラスのみんなが各々不満を述べる。

 状況証拠だけを纏めると確かに、物語とかにありそうなシチュエーション。

 俺達を驚かせるにしたって、あまりにも大がかりなドッキリだろ。


「冗談や嘘だと思うのだったら、どうか付いて来てくれ、異世界の戦士達にこの世界を見せようではないか」


 と初老の人が指示した先には扉がある。

 で、案内を始めた。


「どこへ行く気だ?」


 親しいクラスメイト達はそれぞれ雑談をしながら案内に従って付いて行く。

 石造りの壁に赤いどこまでも延びていく絨毯……有名なゲームのお城みたいだなとしか感想が出てこない。

 で、初老の人が案内してくれたのは見晴らしの良いテラスと言うか城の塀だった。

 その先は俺達は絶句と言う言葉しか言えない物が映し出されていた。

 まずは城下町……なんて言うか中世ヨーロッパ風建築の建物がどこまでも広がっていて、空が高い。

 目を凝らすと見たことも無い鳥が飛んでいるし、空気が何か違う。

 空飛ぶ岩とかあって、何かの冗談にしか思えない状況だ。

 で、城内の敷地になんか……ドラゴンっぽい生き物が三匹、行儀よく座っていた。

 玩具やオブジェにしては妙にリアルに見えるなぁ。


「これで信じてもらえただろうか?」


 驚きの声にみんなして初老の人へと視線が向く。


「私はレラリア国の王、ストロア=クロン=レラリアである。異世界の戦士たちよ。戸惑うことも多いだろうが、どうか話を聞いてくれ」


 否定のしようがない証拠をマジマジと見せつけられて俺達は王様とやらの話を聞かねばならないようだ。


あけましておめでとうございます。

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