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アーティストROKUTOと魔女セレナ  作者: アヤネ
第1章~時代が生んだ魔女セレナ~
2/8

絵の少女

 ライブが終わり、ステージを後にする禄人。2・3時間歌ったことにより、肌から汗がにじみ出ていた。

「禄人、お疲れさん」

禄人に声をかけたのは癖のある髪の毛をもつたれ目の男。禄人のマネージャー、上田智則(うえだとものり)だ。

「上田さん!どうでしたか!?」

「よかったぞ!お客さんも満足してる」

「よかった~」

「しかし!お前、もうちょっと考えてから行動しろよ!いきなりステージから飛び降りたもんだから、スタッフが困ってたからな!!」

「でも、盛り上がりましたよ」

「盛り上がったけどよ~」

深いため息と共に肩が下がる。

「せめて事前に言ってくれよ~」

話しながら控室に入る二人。すると、禄人の視線が宙に集中した。智則の目には誰もいないただの控室に見えた。

「居るのか?」

まるで、何かを察したかのように問いかける。

「はい!」

「それじゃあ、俺は誰かに見られないように見張っているから、少しの間話して来いよ。その代り、着替えは済ましておけ」

「ありがとうございます!!」

智則は部屋から出ていく。彼には視えているのだ。ほとんどの人間が視覚できない存在・・・妖怪が・・・。

 今、禄人の目には小さな羽が生えた白熊と草で覆われた巨体、着物を着た双子の雪童、そして、青い鱗で輝く竜だった。

「よお!マシロ!モサリケ!こうせつそう!」

「禄人――――――!!」

大勢の妖怪達が、禄人へと向かう。

「モサリケ!マシロ!氷!雪!北海道からよく来たな!遠かったろ!」

「大丈夫!!マシロが頑張ってくれたから!」

竜の蒼以外は皆北の地方からきているのだ。彼の故郷、北海道から。おそらく、マシロが氷、雪を乗っけてはるばるやってきたのだ。モサリケも自力で。

「そうか…頑張ったな。マシロ」

禄人はマシロの頭をなでる。対して、マシロは何も言わず頷き、そして優しく抱き着いた。

「マシロ!!」

暖かい毛に包み込まれる。

「ずるーい!僕もギュってしたーい!!」

マシロが離した後、モサリケが禄人に抱き着く。草の感触が肌を包む。

「ありがとな!みんな!そういえば蒼、お前、人間社会にいていいのか?主の子なのに」

蒼は湖に住む主、いわば土地神の子供。偉い妖怪がここにいていいものなのか疑問に思った。

「大丈夫!母様が“人間を知るいい機会だから、社会勉強してこい”って言ってたから」

「え?神様って社会勉強するのか?」

「人間を知って損はないからね!」

笑いが飛び交う空間が、智則が声をかけるまで続いた。



 満月が目立つ夜。だが、ビルやマンションの明かりが街を照らしていた。ライブが終わり、今日の仕事が終わった禄人は帰路を歩く。ファンはいっぱい来てくれ、ライブも成功したこともあり、禄人は上機嫌だった。しかし、数秒後には禄人の顔色が変わる。

 突如、寒気が起こった。純粋な寒さではない。肌は刺すような、または、体にまとわりつくような寒さが襲う。今は5月、このような寒さは来ないし、自然現状ではあり得ない。だが、禄人には心当たりがあった。幽霊や妖怪を視ることができる彼だからこそ、感知できる異常。

(これは・・・悲しみ?・・・いや、憎しみか?なんか混ざってる感じがする)

禄人の身を強張らせたのは、ただの感情。しかし、その感情が強ければ強いほど、この様に感知しやすくなる。肉体を持たない幽霊や妖怪なら尚更、感知しやすいのだ。意識を集中する。これの元凶はどこなのか探る。

(見つけた!!)

禄人は勢い良く走った。不自然に淀んでいる場所へ。帰路から外れ、明るいビル街から住宅街に入る。走った先には、住宅街にひっそりと建つ古物商店があった。

(ここだ!)

古物商店のドアには“Open”と書かれた看板が下げられている。幸い、まだ閉店していないようだ。禄人はゆっくりとドアを開ける。ドアにかけられている鐘の音が店内に響く。中は古物商店らしく、古いものが多く置かれていた。

 ゆっくりと足を踏み入れる。悪寒がより一層強くなるのを感じた。異常な空気、悪寒が発する方向へと目を向けると、そこにあったのは・・・


 眠る少女を描いた肖像画だった。


 日本人と違った印象を感じることから、外国人だとわかる。長い茶髪、外国人ならではの容姿。はたから見たら普通の肖像画だ。しかし、禄人は違った。肖像画から黒い靄のようなものがあふれ出していた。その黒い靄が異常な空気の原因だった。

「あれ?もしかして歌手の“ROKUTO”さん?」

後ろから声をかけられ、振り向くと中年の男が立っていた。(ちなみに”ROKUTO”は禄人の芸名である)

「その絵、気に入ったんですか?ちょうどよかった!その絵、残ってて困ってたんです。よかったら貰ってください!」

「え?」

「今包むのでちょっと待ってください」

「え!?」

淡々と進んでいく状況に、禄人はただ流されていった。




 古物商店の店主から貰った肖像画を持って、自宅へと帰る。マンションの5階、そこが禄人の自宅だ。生活に必要な部分とリビング、1人部屋を兼ね備えた1DKの部屋である。一人暮らしには広すぎると禄人は感じているが、それでもこの部屋を選んだのは、歌手として人気が出て、そこそこお金が入ったから立派な部屋に住もうと思った結果だった。

 自宅に帰った禄人はソファーに腰かけ、肖像画を包んでいる布を取った。中から黒い靄があふれ出す。

(この黒い靄は何だ?)

黒い靄におそるおそる触れた・・・瞬間だった。

 突如、青白い光があたりを包み込んだ。あまりの眩しさに思わず目をつぶる。


 憎い・・・


少女の声が頭に響いたと同時に、ノイズが入った映像が頭の中に浮かんでくる。

広場に大勢の人が集まっていた。その中心には10~15人の人たちが木の棒に縛り付けられていた。そして、十字架を胸に掲げた男達が、足元に大量に置かれている麻に火をつける。火は瞬く間に上へと伝わり、全身を飲み込んでいく。炎の中で苦しむ人たち。しかし、それとは対照に、周りの人たちは歓喜の声を上げていた。もはや、広場は歓喜の声で埋まっていた。そんな中、数本の火柱のうち一本が異様に揺れる。それは徐々に広がり・・・そして・・・広場を・・・いや・・・街を飲み込んだ。

あっという間の出来事。家も人も炎に包まれている。その中心に一人の女が立っていた。茶色い長髪を持った少女だった。


復讐してやる!!


その声によって禄人は一気に現実に引き戻される。手から絵は離れている。しかし、絵の近くに飾り気のない紫色のドレスを着た少女が立っていた。

(あの子は!)

頭の中に流れた映像に出ていた少女だった。少女の赤い目が合った・・・瞬間。

 見えない何かが禄人を壁にたたきつける。壁に激突したことにより、背中に激痛が走り、そのまま床に座り込んだ。

「お前は・・・一体・・・」

最後まで言葉が続かないまま、禄人の意識は落ちていった。


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