幸せを運ぶのは
「ねえママ。赤ちゃんてさ、どっから来るの?」
4歳になった息子が、私の顔を覗き込んでしきりとそんなことを訊いてくるようになった。
「うーんそれはねえ。コウノトリさんが空から運んでくるの」
私は息子を抱え上げて、笑顔でそう答える。
本当はもっとこう色々プロセスというモノがあるのだが、息子よ……君にはまだ早い。
「え! じゃあユウも空飛んで来たの? 凄い!」
「ははは。そうよユウくん」
私は、少しこわばった声でそう答える。
リビングの夫の視線が背中に刺さってくるのを感じたのだ。
息子のユウがこんなことを訊いてくるのも、夫が最近これ見よがしに納戸から引っ張り出して読み返している昔の『ひよっこクラブ』の紙面に感化されての事だろう。
「二人目は、女の子がいいなあ……」
夫が口癖のようにしきりに繰り返していたこの言葉を聞かなくなって、もうどれくらいになるだろう。
『Jungle』のECサイトで彼が勝手に取り寄せた「妊娠米」とかいう怪しい商品で、私と口論になった頃からか。
仕方ないじゃない。私は頭を振って、心の中でそう呟く。
息子のユウを授かるのだって、結婚してから5年かかったのだ。
二人で随分がんばったし、根気よく治療にも通ったし。
それに、何も私が悪いというわけでは……ないのだ。
子供は授かりもの。思うように行かないことだってある。
夫だって、それは十分わかっているはずなのに。
私は胸のモヤモヤを吐き出すように溜息をつくと、今週の献立を組み立てるため『Jungle』の食料品コーナーのページを開く。
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でもそれから数日して、私は思い知ることになる。
夫は「何もわかっていなかった」んだって。
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「ママ! 本当に来たよ! 赤ちゃんが! 空から!」
日曜日の朝だった。
息子の上げる歓声で目を覚ました私は、玄関先で愕然と立ち尽くすしかなかった。
こんなことが、日本で許されていいのだろうか。
夫はいったい、「どこ」に「いくら」支払ったのだろうか。
たった今配達されてきたらしいJungleのドローン配送サービス『Prime Storks』の物々しい専用ドローンから、夫が受け取っていたのは……
小さな白いおくるみに包まれて静かな寝息を立てる、玉のような女の子だったのだ!
「ほーらユウ。お前の妹だよ。さあユスラ。新しい家族の名前を、一緒に考えないと……」
夫が、心底満足そうな顔で、息子と私にそう笑いかける。
こんな日がくるとは思わなかった。
私は怒りで肩を震わせながら、心の中でそう呟く。
まさか、本当に空から赤ん坊を授かることになるなんて。




