百子再びそして再会ー最終回ー
この物語は全て創作です。モデルはありません、
ジュンが芸能界を惜しまれて引退した。
WO3はもうとうの昔に盛りを過ぎだが、それぞれのメンバーは俳優にモデルにテレビのMCにと、安定した道を歩んだ。
ジュンも例外では無かったが、芸能人としての後半、あまりラッキーは続かなかった。
まず1人息子が、生まれついての難病で亡くなった。3歳だったそうだ。
それから若い夫婦はお互いを傷つけ合うようになった。
誰のせいでも無い、それは生まれて来た息子と、夫婦2人の宿命だったのだ、2人でこの山を乗り越えなくちゃいけないのだ、と悟るには2人は若過ぎた。苦労無し過ぎた。
ジュンも妻も、今までの人生があまりにもトントン拍子に来過ぎた。
しかも有名人の2人に、とても息子の不治の病など背負う事は到底出来なかった。
そして残念な事にあんなにお似合いだった2人は離婚してしまう。
ジュンはその後、俳優として随分活躍していたのだが、星の巡りが悪かったのだろう、交通事故に巻き込まれ少し足を引くようになった。
そもそもジュンの魅力と言うのが、やはりビジュアルが武器だ。もちろん演技力も買われていたが、足が多少悪いとなると、どうしても選ばれる役柄の限界があった。
本人も随分悩んだようだが、結局引退して、ジュンの母が趣味でやっていた品のある穏やかな喫茶店をやる事になった。
そこそこ顧客も付いており、ジュンの店だってだけで、今もって日本からのお客も途切れず、ジュンは完全な客寄せパンダだった。
百子は、そんなジュンの噂話を聞いて、1人のジュンのファンとしてその店に行って見る事にした。
百子49歳。ジュンとの出会いから14年の歳月が流れていた。
最後に別れてからもう何年経つのだろうか?
その店は教大駅と江南駅の真ん中ぐらいにあるビルの中にあった。
ソウルの冬はとても寒い。吐く息が真っ白だ。耳が痛い。なので、暖かい店に入って座ると、挽いたコーヒーの匂いで幸せな気持ちになる。
店内にはジュンの写真やサインがあちこちに貼ってあり、百子はふんわりと笑ってしまう。
店内はちょうど空いたらしく、
百子以外には1人の老人が本を読んでいるだけだった。
百子もコーヒーを飲みながらぼんやりしていると、懐かしい匂いがフワリとしたような気がした。ほんの一瞬。
ドラマの中のジュンが笑っていた。
老けたんだろう、多分、ジュンだって、39歳のはずだ。でも百子には最初にフレンチレストランに行った時の25歳のジュンとの全く同じように見えた。
百子は何も言えずにただ黙っていた。言葉が出ないのだ。久しぶり、オレガンマネ、何って事言うのだ....
ジュンは百子の前の席に座って優しく言った。
『百子、いつの日かきっと来てくれると思っていたよ』
2人はそれから、別れてからのいろんな話をした。
ジュンは相変わらず日本語が達者だった。いや昔より上手くなった。
『百子、まだ1人なの?これからソウルに住まない?また僕がいろんな話、提供するよ。
百子と一緒にいたいんだ、これ見て』
ジュンはそう言いながら棚に飾ってある百子の本になった作品を何冊か指差した。
あのフレンチレストランを紹介した本もあった。
『でも、私と関わるとみんな運が落ちるの。ジュンには幸せでいて欲しい....』
『馬鹿だなぁ。僕が息子を亡くして離婚したのは僕が弱かったからさ。交通事故はお互いの不注意だよ。あの頃疲れてたし』
外を見ると雪がパラパラ降っていた。
これは夢?
私があんまり寂しかったから神様が少しだけ夢を見させてくれたんだろうか?
『明日、明洞に遊びに行こうよ。イルミネーション、綺麗だよ』
百子はジュンの気まぐれと、物好きが恐ろしかった....昔の年増女が金持ってのこのこ飛んで来たとほくそ笑んでるんだろうか?
が、ジュンには騙されてもいいと思った。いや騙されたかった。
どうせ今まで散々人の誠意を踏みにじって作品を作って稼いだんだから....
この歳だし、どこかに売り飛ばされる事も無いだろう。日本に帰ってもどうせ1人ぼっちだし....
百子は急に明るくなり、
『ね、私、貴女といつか韓国に行こうとして、ハングル語勉強したのよ。これから毎日特訓してくれる?』
とジュンの頬を触った。あの時のように。
ジュンと再会して、どうやら付き合いが復活しそうな百子。人生そうそう捨てたものでもありません。