置き土産
この物語はすべて創作です。モデルはありません。
フレンチレストランが閉店すると言う。
百子のいわば物書きとしての出発点となった店。
ケイとその仲間と行ってそのコラムを書いて、シェフから感謝され他の老舗も紹介して本になり、百子が注目されるようになったきっかけの店。
ジュンと2人きりで食事して奥の個室で初めてキスされた店。
そんな百子にとっての一番な思い出の店の閉店パーティ。それは貸切であり、そのフレンチ店を心から愛したお客だけの集まりであった。
百子のような、世の中に名前が知られているお客も何人か見かけた。
老シェフは最後まで毅然としていたが、百子はお気に入りのワインを一口飲んだ途端に泣いてしまい、他のお客も何人かは涙ぐんでいた。
これで、ジュンとの思い出も、いや微かなケイとの思い出もみんな終わりだ....
百子はこの閉店パーティの記事を、夫人雑誌の載せる事になっており、気になった事や調べる事をちょこちょこメモしていた。
そして終わる頃シェフが1人1人に挨拶して回り、最後の百子のところで、そっと耳打ちした。
『貴女宛に預かっているものがあるのですよ。やっと渡す事が出来ました』
と、嬉しそうに言い、封をしたDVDを帰り際に持って来た。
ジュンがある日1人で来て、
『自分はこれから結婚して、もう日本に1人で来る事はできません。恋人だった百子にこれを渡して下さい』
と置いて行ったと言う。
シェフが渡してもいいと思った時に渡して下さい....っと。
シェフがもし百子がその後来なかったらどうしたら良いのか?と聞いたら百子はきっといつの日かこの店へ来る....
と、言ったそう。
って事は、ジュンが結婚したのが5年前だからその頃か....
DVDをパソコンに入れる。
2人が代わる代わるスマホで撮った写真。お忍びのお付き合いだったからもちろん大した写真は無い。
全部ホテルの部屋で抱き合ったり笑ったり、中にはちょっと恥ずかしい写真もあった。
忘れていたが、一枚だけ、最初にフレンチ店の個室で撮った写真もあった。
一体いつの間に編集したんだろ。全く子供なんだから。奥さんに見られないように消しとかなきゃダメじゃないの!
それとも完全に消すのが惜しくて残したんだろうか?まさかね?
それに私にこんな画像渡してゆすられたらどうするのよ?小説にあげられたらどうするのよ?
いや、百子がジュンに対しては牙を剥かない事をジュンは分かっていた....
全く甘ちゃんなんだからぁ。
百子は2人で笑ってるその画像を見て泣いた。号泣した。何でこんな事するの?残酷だよ、酷過ぎる。
これじゃ、私、何年たっても貴女の事忘れられないじゃないの?前に進めないじゃないの?
百子は、ネットのニュースで、ジュンの百想芸能賞で表彰された鮮やかなスーツ姿を見ながら、本当に自分はこの男と関係してたんだろうか?全て私の妄想だったのだろうか?と危ぶんで見るのだった。
ジュンが残した愛の残り香に苦しむ百子。これからも苦しみ続けるのか?