5話 ギルド
でかい建物が目に入った。
王城。それは城下町から見えるほど圧倒的な存在感を放ち、まるで別世界にあるかのような建物だ。
そして俺は今エリンとその城下町にいる。
ちょうど昼の12時を過ぎたところで人が溢れかえっている。
道の両端は露店のようなお店がずらりと並んでいて見たこともないようなものが売っていたり、美味しそうな匂いが漂う食べ物を売っている。
実はあれから暫く、森の中を彷徨っていて、何度か灰色狼に緑色の2足歩行する化け物らしきものに襲われたが成長したエリンが瞬殺し、運良く森から抜けることができたのだ。
そしてエリンが襲われたと言った馬車を見つけることができたが、残念ながら御者1人と護衛2人の遺体は肉体が完全に失われていたため俺の恩恵でも治せることができなかった。
彼らの鎧から所々牙を突き立てたような跡に加えそこかしこに血が飛び散っていることから狼の餌になったのだろうと推測した。
俺は唇を噛み締め、左手で拳を強く握り体が震えていたがそのことに気づいたエリンがそっと俺の左手を両手で包み込んだ。
気持ちを落ち着かせた俺は、何か使えるものがないか探してみたら運良く彼らの鎧の下や壊れされた馬車の近くで何枚かの銀貨と銅貨が散らばっているのを見つけた。
俺は失った右腕の代わりに左腕でそれを拾い集めようとすると、それを見てエリンは「私がやります」と言って俺に拾わせようとしなかったが2人でやったほうが早いと言ったら渋々納得して一緒に集め始めた。
合計銀貨13枚に銅貨28枚を集め終わり、その他には特に使えるものなど無かったためエリンが来たという方角に向かって暫く歩き始めた。
草木が生え、塗装もされてないような道は思った以上に俺の体力を削り、そろそろ休憩しようとしたとこで運良く御者が通りかかった。
街に向かうとのことで俺は御者の人に乗せてもらえるように頼み、一人銅貨8枚で(エリンに高いか聞いてもわからないらしい)と言われたので悩んでも仕方がないと思い銅貨16枚を払って乗せてもらい街までやってきたというわけだ。
この街はヘレンズ王国と呼ばれている大国の商店街らしい。
どうやらこの国は商国と呼ばれているほど商人の人が多く、さらに品揃えも豊富でほとんどの物がこの国で手に入るといわれている。
人でさえもこの国ではお金さえあれば簡単に買うことができてしまう。
この国に限ってではないのだが、奴隷というのはこの世界では常識らしい。
人族では奴隷がいない国から滅ぶと言われているほど奴隷には需要がある。
需要があるから供給も増え、奴隷産業がますます発展する。
異世界から来た俺からしたらどうしても奴隷という言葉には慣れないが、この世界に来る前の世界でも似たような人たちがいた。
ある記事によると政府は犯罪者を奴隷のように働かせているというのを読んだことがある。
法というのも万能ではなく特に殺人ともなると、政府は簡単に死刑宣告が出せない(人権法によって)らしいため無期懲役を言い渡し、一生を労働に従事させるとのことだ。
奴隷とどう違うのかと問われればあまり大差がない気がする。犯罪者の為擁護することができないためだ。
それにしても犯罪も犯していない子供たちが奴隷として売られているのには慣れることができそうにないのも事実である。
とりあえず、昨日から何も口にしていなかったためエリンとその辺の屋台で適当に腹ごしらえをし終えると、ギルドに向かうことにする。
ギルドとは謂わゆる派遣業者みたいなところらしい。
住人や国からギルドへ様々な依頼をする。
そして冒険者と呼ばれている、ギルドに登録している人たちに仕事が割り振られる。腕っ節に自信がある人たちは戦争にも参加するそうだ。
*****
カラン、カラン
音を立てて、ヘレンズ王国のギルドの扉が開いた。
そこはオフィスというよりはヨーロッパにあるようなバーみたいな感じのところでまだ昼過ぎだというのにプロレスラーのような人たちが酒を飲んでいる。
その他にも何人かの人が受付に並んでいるのを見かける。俺とエリンも受付らしきところに並び順番待ちをすることにする。
並んでいる間、壁に貼られている依頼のようなものを読んでいると俺たちの順番になったのでカウンターに近づいた。
「今日はどうしましたか?」
カウンターには、30過ぎぐらい女の人が営業スマイルを浮かべながら要件を聞いてくる。
「えと、ここで登録をすると仕事を受けられると聞いて来たのですが...」
人助けをしようと決めたはいいが、今俺たちには圧倒的に足りないものがある。
そう金だ。
金がなければ人を助ける前に自分が餓死してしまう。
「はい。それでは身分を証明するような何かをお持ちでしょうか?」
え...そんなのいるの?
異世界から来たと言ったら信じてもらえるのだろうか?
どうしようか少し逡巡していたが、エリンに意見を求めてみると「奴隷の時の私は主人の身分が証明されれば特に証明する必要がなかったのでわからない」とのことだ。
「えと、何も証明するものを持っていないのですが...」
仕方ないので俺は正直に話すことにした。
悩んだ末、余計なトラブルを避けるため異世界から来たというのをぼやかしながら。
「そうですか...そうなりますと戦闘依頼しか受けることができなくなりますがよろしいですか?」
「えと、何でですか?」
「ギルドでは依頼主さんから依頼を受けそれをギルド登録なさった方に割り振るという形を取っています。中には個人的にお願いすることのある依頼などもありますので、そういった依頼の場合ある程度ギルドで登録している方々の情報を把握しておくことで後々のトラブルを避けるための処置となっております。ただし戦闘依頼...魔物退治や傭兵などはその限りではありません。そして身分証明ができないほとんどの方が傭兵になります。魔物退治はリスクと報酬があまり釣り合いませんので。」
受付嬢が俺達に丁寧に説明してくれる。
なるほど。俺は死ぬことに関しては特に何も思わないため、傭兵でもいいがエリンが気がかりである。
エリンにも聞いてみると「私は英二様の剣です。死地だろうとどこにでも付いていきます。」とのことなので俺は受付嬢に「大丈夫です。お願いします。」と言い、登録料の銀貨1枚を払う。
ちなみに傭兵の依頼はほとんどが国からの依頼なので報酬がそれなりにいい。さらに活躍すれば特別褒賞も出るそうだ。
俺達は登録を済ませ、傭兵の仕事を受けてギルドから出ようとしたところでプロレスラーのような人たちに絡まれた。
「おいおい、兄ちゃん。そんなヒョロイのに傭兵の仕事を受けるとか死にてーのか?悪いことは言わねーその嬢ちゃんを大事に思うならやめとけ。」
どうやら、絡まれたのではなく俺たちを心配して話しかけてきたみたいだ。
見た目と違って、めちゃくちゃ親切な人じゃねーか。
「えと、忠告ありがとうございます。でも大「英二様は私が守りますので死ぬことはありません。」」
「..........」
俺は思わず黙り込んでしまう。
想像してみてくれ15歳くらいの女の子に守られる男の姿を....穴があったらはいりたい気持ちでいっぱいになってしまう。
「ハハハハハ、そうか嬢ちゃんがそいつを守るのか。こりゃ一本取られたな。」
男は笑いながらごつい手でエリンの頭を撫でた。俺は何も言えずに顔を真っ赤にして左手でエリンの手を取り、そそくさとギルドを出た。
日が沈んできたので、明日に備えてその日は適当な宿に二人で泊まりさすがに疲れたのか二人とも朝まで泥のように眠った。