3話 自称神様とこの世界
俺は夢を見ていた。不思議な夢だ。
夢の中でそいつは俺に声をかけた。
「やあ」
「誰だお前」
気づくと目の前には子供の影のような奴がいた。こんな全身真っ黒でもし街で見かけようならば、即通報されるような怪しい見た目の奴が。
「ひどいなあ、せっかく君の願いを叶えてあげたのに....まあ代償はもらったけどね。」
「願い?代償...お前があの時俺に声をかけてくれたやつか...いや、もっと前...メールをくれたのもお前か?」
「うん。頭のいい人は話が早くて助かるね。そうだよ。僕が君にメールをしてこの世界に連れてきた神様だよ。」
昔はそれなりに勉強をしていたつもりだが、この5年何もしてこなかったので頭がいいとはお世辞にも言えない俺だが。
そんな俺でもこんな急展開は予想できない。
え...神様?
神様なんかいるわけないと思ってたから。
いたらなんであの時助けてくれなかったのか。
どうして俺の親は亡くなって、幼馴染のえっちゃんも...いろんな感情が溢れだしそうになったが俺はぐっとこらえて、そいつに質問をする。
「どうして俺を?」
どうして俺なんかを選んだ?もし本当に神様だっていうならどうしてあの時助けてくれなかったんだ!そんな意味を含んだ俺の質問に対し、自称神様は悩んだそぶりをしつつ答えた。
「んー、話すと長くなるんだけどね。君たちのいる地球では毎年何人の人が自ら命を絶ってるか知っているかい?」
とそいつが俺の質問に対し、質問に返してくる。
医者を目指していた頃、ふと何かの記事で読んだのを思い出す。
「確か、10万人以上だった...か?」
「正解だよ。」
うろ覚えだったのであまり自信がなかったがどうやら正解だったらしい。
「そんなにたくさんもの人が毎年、自ら命を絶っているんだ。僕は違う世界の神様だけどさすがに見過ごせないよね。そして君たちの世界はほとんどの人が心に傷を負った程度で命を絶っているんだよ。君みたいに親しい人が亡くなったり、学校でひどいいじめを受けていたり、会社で不当な扱いを受けていたりね。僕はそんな人たちに声をかけてこの世界に連れてくるのさ。死んでしまった人は連れてこれないけどね。ただ残念なことに、ほとんどの人が心に深い傷を負ってるものだからこっちに来ても数日で死んじゃう人が多いんだ。中には、偉業を達成する人もいるけどね。300年ほど前にも魔王を倒した異世界人がいたよ。」
「は?魔王?なんだそれゲームの話.......じゃないよな?」
「違う違う。少しだけこの世界について話をしようか。」
と言って、自称神様は語り出した。
要約すると、昔この世界には人族、獣人族、エルフ族、龍族、魔族がいた。
獣人族、エルフ族、龍族等は他種族とは積極的に交流しようとは思わないため基本的には自分たちの隠れ里にてひっそりと暮らしているらしい。
だけど、人族と魔族は違った。両者の仲はどうやら最悪で、人族は自分たちとは全く姿形が異なるものを受け入れることができなかった。
獣人やエルフ、龍(龍族は人に近い姿に姿を変えることができる)等は比較的人間に近い姿をしているが魔族は一部の例外を除いてその他はほとんど魔物と変わらないらしい。
それに対し魔族は人など下等生物の以下の存在だと思っている。
獣人族身体能力が高く魔族ともひけをとらない。
エルフもその膨大な知識量から賢者と呼ばれている。
龍族は言わずもがな...奴らが暴れたら世界が終わるといわれている。
それに比べ人間は、家畜以下の存在であると思われている。
家畜は育てれば腹を満たすことができる。
すぐれた身体能力もなければ卓越した頭脳もない。
まさに家畜以下の存在というわけだ。
両者は争いが絶えなかったが約400年ほど前魔族の国に力の強い魔族が生まれた。魔族は基本的に生まれた時から力を持ち成長することはないが、長い時間を掛けて技に磨きをかけて強くなる。
やがて、一際強い力を持つ魔族が王になると今までなんとか人族が拮抗していた戦いが魔族の方に戦況が傾き始めた。
それから約100年が経ち、10以上もあった人間の国が僅か大国3つに小国が1つとなってしまい、そろそろ人間が滅びるかもしれないというとこで逆に魔族が滅んだ。
召喚させられた異世界人によって。
どうやらこっちの世界に召喚される異世界人には体の一部を代償に何かの恩恵が得られるようだ。
俺の場合は、すべての項目にチェックした人は珍しく、体の一部さえあれば死者すら蘇らせることができるという恩恵を手に入れたらしい。
ただし、右目左目右腕左腕右足左足心臓の計7箇所が全てなくなれば俺は死ぬそうだ。言い換えると1箇所でも残っていれば、生きることができるらしい.....たとえ心臓がなくなっても。
ふざけた能力だと思う。
医者を目指していた俺からすれば死者すら蘇らせるというこんな魅力的な恩恵は他にない。そして魔王が倒されてからしばらく人族と魔族も停戦状態なんだと。
ただし、今度は人族同士で争ってるんだとか…ほとんどの国が滅びて残った土地をどう分配するかで三百年も同じ人同士で戦争が続いているらしい…全くくだらないな。
「だいたい、この世界についてはわかった。俺はこれからどうすれば良い?この恩恵で魔王を倒せばいいのか?」
この恩恵で魔王が倒せるかどうかはわからないが自称神様に聞いてみた。
「いやいや、好きに生きればいいよ。だいたい300年前も僕は魔王討伐なんか頼んでないし。あの魔王を倒した人はちょっと変わった人でね。自分の死に場所を探して魔王に挑んだら倒しちゃったみたいなんだ。たまにいるでしょ?何をやらしてもすぐにできてしまう人が。」
俺はすぐに答えることができなかった。
いや確かにそのような人もいることにはいる。
例えば、学生時代俺のルームメイトは俺が毎日必死に勉強している横で1日中ゲームをして過ごしいたがテストでは毎回俺と僅差で2位だった。
いわゆる’天才’と呼ばれる人達である。
だがたとえ、そんな天才だとしても、果たして魔王すら倒せるという人がいるのだろうかと言われると返答に困ってしまう。それはもう人ではないのではないか.....魔王の強さ知らないけど。
「わかった。じゃあ、好きにしようかな。」
とりあえず、自称神様に言った。
実はもうどう生きるか決めていた。
生きる意味など何も持たなかった俺だが、話を聞いて思いつきどう生きるかを決めたのだ。
あの時、親が亡くなって学校でもいじめられていた俺を救ってくれたえっちゃんの存在。
いつか返そうと思ってた恩だが、それは叶わないためその恩を別の誰かを救うことで返そう。本で読んだが、戦場では1人10殺と言われているらしい。
1人で10人殺すまで死ぬことは許されないというものだ。
なら俺は10人は救おうと。
たとえ俺の体全部を失ったとしても。それがえっちゃんに救ってもらった俺流の恩返しだ。
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