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望まれぬ英雄 ~虫も殺せない僕が魔王になった理由(わけ)~  作者: 牧田紗矢乃
〈Episode2〉

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20/53

-11 ユラの出した答え

 アルフォンソは回想を終えると、ぬるくなった残り少ないコーヒーを飲み干した。


「後になって聞いた話なんですけどね。親父、オレと兄貴が病気になった時に跡取りがいなくなったら困るっていうんで養子を探そうとしてたらしいんですよ」

「へぇ……。それがユラなの」

「はい」

「でも、おかしいわね」


 クレハの鋭い瞳がアルフォンソを捉える。

 視線を向けられただけで背筋が伸びたのは、初めての体験だった。


「坊やの話だと、ユラはご両親に大切に育てられていたんじゃないの?」

「それが……、どうも、お袋さんの調子が思わしくなかったみたいで。親父さんとしては拾ってきた子供よりも連れ添った奥さんが大切だったんじゃないですかね?

 ユラのことを……――うちの親父に売ったんです」


 吐き出して、アルフォンソは頭を抱えた。

 ユラ本人ですら知らないことを、素性もよくわからないクレハに次々と明かしてしまっている。

 クレハはといえば難しい顔をして頬杖をついていた。


「ユラは売られた? 坊やのお父さんは買った子供を養子にしたの?」


 クレハの追及に、アルフォンソは困り顔で肩をすくめた。


「詳しいことはわかりません。当時はオレも子供でしたし。

 ユラの親父さんは親父の会社へ出稼ぎに来ていたっていうから、その間の賃金にいくらか上乗せしたのかもしれません。

 どちらにせよ、ユラたちが待つ村に辿り着く前に襲撃に遭っている。ユラは孤児同然だったんです。だからこそうちの家族に迎え入れたってこともあると思うんですけどね」


 記憶を辿りながら、ぽつぽつと言葉を紡いでいく。

 そして、言いにくそうに先を続けた。


「……それに、ユラが養子に来た翌年に、オレたちが住んでいた町も魔族の襲撃に遭ったんです。そこで両親は死にました。

 だから、オレが話を聞いたのは親父じゃなくて親父と親しかった人たちなんです」


 契約を交わした当人たちはすでに故人となり、伝え聞いた情報から当時のことを推察するしかない。

 クレハの表情は、アルフォンソの説明を完全に受け入れている時のそれではなかった。


「坊やのお父さん、有名な商人だったんでしょう? 大きな会社も持って。そんな人なら契約書の一つでも作ってるんじゃなくて?」

「オレもそう思って探しましたよ。でも、家は魔族の襲撃で焼け果ててまして……。契約書を家で保管してたなら、もう灰になってます」

「そんな話、ユラから聞いてないけど?」


 クレハに問われ、アルフォンソは一瞬返答に詰まった。


「ユラは……。ユラはその時のショックがとても大きかったようで、オレの家に養子に来た時から魔族の襲撃を受けるまでの記憶を全て失ってます」

「そう」


 ため息まじりに零して、クレハはコーヒーと紅茶のおかわりを注文した。

 これまでの会話を頭の中で反芻していたアルフォンソは、眉をひそめて疑問を口にした。


「ところで、ユラから聞いてないっていうのはどういうことなんですか?」

「クレハさ……っん!」


 喫茶店の扉を開けて顔をのぞかせた青年が目を丸くして、大慌てで扉を閉めた。

 扉に掛けられたベルが振り回されて大きな音を鳴らす。


「ユラ!」


 ほんの一瞬の出来事だったが、その人物の姿をアルフォンソはしっかりと捉えていた。

 目を伏せていたクレハは深々と頭を下げた。


「ごめんなさい。黙っていて」


 すっと席を立ったと思うと、カウンターに何かを告げて店を出て行ってしまった。

 一人取り残されたアルフォンソの元へコーヒーと紅茶が運ばれてくる。

 深淵を湛えたような暗い色のコーヒーに視線を落とし、大きく息を吐いた。


 会社の寮を飛び出したユラはなぜかクレハと行動を共にしていた。

 これはユラが自分の意思ではなく、クレハに何かを吹き込まれて寮を出るよう差し向けられたと考えるのが妥当ではなかろうか。

 だとしたら、クレハはなぜユラを連れ出そうと考えたのだろう。


 ――ユラの頭の瘤。


 アルフォンソは自分の脳裏をかすめた一つの可能性を必死で否定した。

 クレハがユラの頭に触れる機会などなかったのだから、彼女がそれを知っているはずがない。

 知っていた所で、それがなんだというのだ。

 そこへ、クレハがユラを連れて帰ってきた。


「……アル、すまない」


 ユラは視線を合わせようとせず、アルフォンソのはす向かいの席に腰を下ろした。

 アルフォンソの正面には先ほどと同じようにクレハが座る。


 そこへ追加でコーヒーが運ばれてきて、クレハはウエイトレスに礼を言う。

 そこからは重苦しい空気が卓を支配した。


「ユラは今、私のアシスタントをしてくれてるの」


 口火を切ったのはクレハだった。


「アシスタント? それは……」

「酒場で弾き語りをした時、坊やたちも見に来てくれたでしょう。あれの支度とかを手伝ってもらってるのよ」


 アルフォンソの言葉を遮るようにクレハが答えた。

 その後もアルフォンソの疑問にはクレハが答え続け、ユラは居心地悪そうにミルクを入れたコーヒーをちびちびと飲んでいる。


「なあ、ユラ。今ならまだ間に合う。戻ってこないか」

「駄目よ。ユラは私と契約したもの」


 鋭い眼差しがアルフォンソを見据える。

 アルフォンソはクレハを睨み返し、ユラの口から言葉を引き出そうとした。

 その空気を察して、ずっと口を閉ざしていたユラがアルフォンソと視線を合わせた。


「――……そういうことだから、僕のことは気にしないでくれ」


 それ以上口を挟む隙を与えず、二人は連れ立って店を出てしまった。

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