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くず、ときどき先生  作者: 綾瀬
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押しつけ

始業式が終わり、生徒たちが下校していく。空になった教室の戸締りをすると、新しいクラスや生徒たちに僅かな不安を抱えて俺は職員室に戻った。不安なんか感じたところで、担任としての俺が出る幕はないと思っているし、何がどうあれ生徒たち次第だと俺は思う。


「はーあ」


職員室に戻るなり、盛大なため息がすぐ近くから聞こえてきた。


「疲れてんすか」


「んー?お、遅かったじゃん。園原先生」


「そうすか?鈴木先生が早いだけじゃないすか」


爽やかに微笑を浮かべるこの人は鈴木金造先生。俺の3つ年上で、数学を教えている。

男子バスケ部の顧問をしていて、男の俺から見てもかっこいいというか、勇ましいというか、頼りがいがある。

生徒たちや教職員からも頼りにされていて、俺もこの人を近くで3年以上見てきたが、この人の嫌な部分を見たことがない。

多少、一生懸命すぎるというか、熱血すぎるというか、そういった部分はあるにしても、生徒にしても同じ教職員にしても人に嫌悪感を抱かれているのは見たことも聞いたこともない。

職員室では俺の隣の机だ。

真っ正面には先ほどの霧島先生の机がある。


「いやー、なんか1人不登校の生徒がいてな」


ふと、一人の生徒の名前が浮かんだ。


「…別に気にしなくていいじゃないすか。気にしすぎっすよ」


「園原先生は気にしなさすぎなんですけどね」


うしろの席に座っている白石 (せい)先生だ。担当教科は英語で小柄で中性的な男の先生だ。

俺よりも1つ年下で、なんともまあ純粋でからかい甲斐がある。

霧島先生のことが好きなのは本人である霧島先生以外は大体気が付いている。


「白石先生じゃーん、初担任おめでとう♡」


「っ!気持ち悪いやめてください!」


白石先生に肩を組むと、分かりやすく顔を引きつらせて離れようと肩を竦める。


「いやー隣のクラスだしねー?先輩のお願いならなんでも聞いてくれるよねー?」


「…そうやって去年副担だった時も関係のない仕事まで押し付けて…!」


「園原先生、やめてあげな」


苦笑しながらも鈴木先生が止めに入る。


「鈴木先生が言うなら仕方ないですね~」


最後に白石先生の肩をポン、と叩くとビクッ!となり顔だけ振り向き怪訝そうな顔で睨んできたが俺は見て見ぬふりをした。


「それでな、さっきの話なんだけど」


「えーもう終わったじゃないすか」


「終わってない。その不登校の生徒は佐藤なんだけど、元担任だよな?」


やっぱり調査済みか。仕事ができる男は違うなあ。


「マア、ハイ、ソーッスネ」


「それでだな。よかったら、こ」


「お断りします!」


鈴木先生の話を遮るように俺は言い放った。


「話くらい最後まで聞いてくれよ!」


「よかったらって俺は全然よくないです!無理です面倒ですごめんなさいすみません心の中で超応援してるのでどうか頑張ってください!」


「何言ってるんだ?!」


「わからなくて大丈夫ですおやすみなさい」


「おやすまない!…週末でもいいからさぁ…頼むよ」


眉を下げて心底困ったように言う。鈴木先生が頼み事なんて珍しい。しかも、俺なんかに。


「週末は別のお仕事があるのでなおさら難しいですね」


「パチンコだろ」


「な、なにを?!家でしーんとした空間がさみしい時にがしゃがしゃと騒がしい店内でつぎ込めばつぎ込むほど後に引けなくなる神々の…あそb」


「パチンコだろ」


「新台が入るんすよおおおおお!」


「頼むよ、園原先生」


「…俺なんかが行って来るように説得させたところで、鈴木先生みたいな真面目な先生が行って話した方が効果あるんじゃないすか」


「そうかもしれないけど」


「そうかもしれないけど!?」


なんて失礼なんだこの人は。


「俺は模範解答しかできないんだよ」


「なにかっこつけてるんすか」


「佐藤…あきら、って読むのかな。晃くん?やっぱり園原先生みたいなぶっ飛んだ先生の方が効果あると思うんだよ…」


「…褒めてんすかそれ」


「頼む!この通りだ!実家にあるAVあげるから…」


顔の前で手を合わせて頭を下げる鈴木先生。


「その任務お受けしましょう」


最後の付け加えられた一言に俺は即答した。


「本当か?!」


「ただし!家に行ってみるだけですよ。出なければ知りません」


「あぁ、ありがとう!頼んだ!」


っていってもなあ。俺が担任していた時から来てなかったし。なのに進級できていた。

しかも成績はオール5なのだ。校長に佐藤の成績は校長直々で管理すると言われてこうなった。

一度校長に聞いたことがあったが、話を逸らされたのでそれ以上踏み込むのはしなかった。


「じゃあ、早速、行ってくれ」


「今からですか?!」


「あぁ、ここから歩いて行ける距離だ。住所はこれ」


1枚の紙きれを渡され、鈴木先生はニコニコと眩しい笑顔が浮かんでいるようなのだが、今だけは俺にはひどく黒い笑顔に見える。

今すぐに帰りたい気持ちを抑えながらも、鞄と紙切れと佐藤への配布物を持って学校を出た。


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