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圧力掛かって異世界へ。

 それは、とある日常の一風景。


「ったく…」


 全てに諦観(ていかん)有象無象(うぞうむぞう)を破壊し尽くさんとする魔王のようなオーラを放ちながら年齢詐欺の少年–––天使ミカエラは言った。溜息を吐きながら、床でゴロゴロと和む同じく年齢詐欺の少女に冷たい視線を送る。


「今までみたいにデカいプリン作るとか、そういう我が儘なら付き合ってやってた。だけど…自分の世界が欲しいってのはね。飛躍し過ぎて付き合い切れない。」


 完全に見放したミカエラの威圧を受け、少女はポテチにがっついていた手を止めると、瞳を潤ませながら返した。


「…ミカぁ、おかわり」


 涙を浮かべながら、ポテチの袋をずいっと目の前の少年に突き付ける。…その中身は空だ。


「聞いてねえな…」


 何だかんだで断れないミカエラは死んだ目で微笑を浮かべつつ、少女–––女神メルリスの手から袋を奪い取り、クッキーの袋をその手の中に押し込んだ。押し込まれた袋を開けてはむはむと食べながらメルリスは言った。


「…ミカエラは分かってないですね。これは今までのワガママとは違うのですよ?」

「…ほう?」

「神たるもの一神一世界がもう常識!これを機に私も神としての力を発揮するのです!」

「それは実力のある神の話だろ?僕があんたに仕えて幾百年が過ぎたけど、その間あんたは碌に修行すらしてない。真祖神の孫だからってタカ括ってんだか知らないけど、そんなんじゃ世界貰えて統治出来るレベルには到底及ばない。」


 ミカエラの棘のある、しかし全てが正しい諫言を聞いて耳が痛くなっていると思いきや、メルリスは得意気な顔をして言った。


「ちっちっちっ。おばかさんなのです、ミカエラ。本当におばかさんなのです。私ったらとっても優秀な女神様なのです。だからもう掛け合って来ちゃったのですよ。」

「掛け合ってあんたのレベルが上がるわけでも…」

「まあ、よく聞くのですよミカエラ。確かに私ったらとっても優秀な女神様だけれど、実践経験はからっきしなのです。そ、こ、で、…練習用にとお祖父様が世界を丸々一個貸してくれたのですよ!」


 そこまで言うと女神メルリスは袋を置いて何かを抱くようにした。するとそこに青い海と緑と茶と白の陸で出来た一つの星が浮かび上がる。


「これが…世界フレルベランス。この世界では既に人間による文明が発達しているのです。そして、この世界に干渉してより良い世界にした暁には、私に改めて新しい世界を一つくれるということなのです。」

「ちょ、ちょっと待て。練習用…とか言ったってそれは本物の一つの世界だろ?あんたみたいな未熟な神が弄っていいものじゃない筈だ!」

「まあ…それはそうなんです。けど、この世界は神々に本当に人気が無くて、誰も統治したがらないらしいのですよ。だから特別にお祖父様が練習用として貸してくれたのです!」


 ありとあらゆる性質の揃った神々が統治を拒否するなんてどれほど酷い世界なんだと思いつつ、いやそういう問題ではないとミカエラは切り替えて言った。


「だ、だがその一つの世界だけでも何億何兆の魂が存在していて…」

「そ、れ、に!お祖父様が言っていたのです。現在、私の下で休暇を取っているとある天使はそこそこ優秀だ、と。手伝って貰うのも…いいのではないか、と!」

「…」


 メルリスが被せ気味に言った言葉がミカエラを困惑させる。

 ミカエラはかつてメルリスがお祖父様、と呼ぶ最高神である真祖神に仕えていた。幾千年か仕えた後、移動を願い出たミカエラは真祖神に一つの職場を提供された。それが真祖神の実孫であるメルリスの所だった。

 なんでも祖父に似た日を照らすとよく輝く白にも近い銀髪、桃色の瞳を持った幼い女神は未だ未熟。神としての仕事にも就ていない彼女に仕えるので、主な仕事内容はメルリスの世話全般のみだった。

 真祖神に仕えた以前より余程楽な仕事にありつけ、休養代わりにすらなると思った日もあったのが懐かしい。

 ある時は祖父を見習い立派な神になると言っては様々な事にチャレンジし、その尻拭いを全てミカエラに任せ、またある時は形から一人前の神になろうとするメルリスに別の仕事を増やされる。そしてそのどちらも相談された時には既に全てが決まっている。…そう、丁度今のように。そして毎度キレてボイコットするのは認められない。


 …話が逸れた。


 兎に角、今、ミカエラは現在主人である女神メルリスにも、前の主人であり今の主の祖父である真祖神にも逆らえない状態だ。そんな状況で厚かましいこの言い様。

 つまり。


「まさか、、お前、お前ら試練の世界干渉を僕に丸投げする、と?」

 メルリスはただ頷く。

 そして袋からクッキーを出しながら言った。

「ミカエラ!がんばなのです!」


 口も減らなければ悪びれる様子もない、純正で巧妙なメルリスにミカエラは据わった目で溜息を吐いた。

「よし。表出ろ、沈めてくれる」


 こうして、半ば強制的に天使ミカエラの休暇は終わったのであった。ミカエラが幾百年ぶりに手にした仕事場は神に圧倒的な不人気を誇る世界フレルベランス。何年掛かるかも分からない、案外サクッと終わってしまうかもしれない世界干渉が始まったのであった。


2000字らへんでいきたいと思います。

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