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〈6〉開かずの部屋

 朝、起き抜けにアーディの部屋の扉をコツコツと叩く音がした。


「バーゼルト君、入るよ」


 そう断って、寮長に借りたらしき鍵を使って中に入ってきたのはディルク先生だった。


「殿下、お加減はいかがでしょうか? このたびの原因は、私どもの不手際にございます。平にご容赦くださいませ」


 他に生徒が誰もいないから、ディルク先生は畏まる。アーディは上半身を起こした。昨日よりは随分と楽になった。


「僕もただの人間ですから、風邪くらいひきます。それだけのことです。先生、いつも通りお願いします」


 学園(ここ)にいる以上、教師と生徒である。少なくともアーディはそのつもりだ。

 ディルク先生は苦笑しつつ、では――とつぶやいた。


「お言葉に甘えて。――ええと、その、今回バーゼルト君たちがかかった魔風レーテルンなんだけれど、校医のカティ先生によると、十八年前に流行った型と同じだそうだ。この国ではそれ以降検出されていない菌だし、死滅したと記録されていたんだけれど、この学園で再び出たわけなんだ」


 カティ先生もそう言っていた。十八年も出なかったのに、今さらである。


「それで、国王陛下にご報告させて頂いたところ、御典医のティルピッツ様によると、学園にある結界を病原菌が通り越すことはないって。だから、学園内で収めるようにとのことだ。先生も実は小さい頃にかかったんだけれど、命に関わるようなことはないから、そこは安心してくれて大丈夫だよ」

「菌が完全に消えるまで、この学園は外部と接触禁止ということですね?」


 うぐ、とディルク先生は唸った。別に、怒っているわけではない。

 それを決めたのはアーディの父であるのだ。父は国中に菌をばら撒かないことを優先する決断をした。

 普通の風邪と症状はそう変わるわけではない。ただ、魔力が強い者ほど症状が強く出るだけのこと。

 薬も効くわけだから、山さえ越えればすぐによくなる。そう問題もないだろう。


「国中に菌をばら撒くことは避けたいですから、仕方のない判断です」


 すると、ディルク先生は複雑な面持ちで眼鏡を押し上げた。


「バーゼルト君も熱が下がったらすぐによくなるから。今日から三日間は学園閉鎖だし、授業はしないからね。学園長からもくれぐれも安静にと言つかっているんだ」


 全学年、全クラス、授業をしないようだ。休むと授業の内容がわからなくなるという心配はしなくて済む。それはありがたかった。


「はい、ゆっくり休ませて頂きます」


 ほっとして言うと、ディルク先生もうなずいた。

 アーディはなんとなく訊ねる。


「うちのクラスでは何人くらいかかってるんですか?」


 すると、ディルク先生は指折り数え出した。


「今朝で十人。バーゼルト君を入れてだね」


 そこでようやく、アーディは思い出した。

 寒気がする、と言っていたあのエーベルのことを。


「先生、エーベルもそこに含まれているんですか?」


 よく考えたら、あの強力な魔力を持つエーベルがかかった場合、アーディどころではなく大変なことになっているのではないだろうか。

 ディルク先生は顔を強張らせた。


「シュレーゲル君もかな……。昨日はピペルから具合が悪いから休むとだけ届けが来たんだけど、状態がまだわからなくて」

「寒気がするって言っていました。それから顔を見てないです」

「さっき、様子を見に行ったんだけれど、いくら呼んでも返事がないんだ。鍵を使っても扉が開かなくて……。寮長に頼んで扉を開けてもらっているところだ」

「鍵を使っても扉が開かない?」


 エーベルのことだから、無断で部屋の鍵の術式を組み替えた可能性がある。あいつはどうしてこう、余計なことばっかりするんだ、とアーディはため息を漏らした。


「……ピペルも出てこないんですか?」

「うん、多分部屋の中だと思うよ」


 状況がよくわからないけれど、嫌な予感しかしない。


「魔風だとしたら、早く薬を飲ませてあげないと……。シュレーゲル君の魔力では相当苦しんでいるだろうから」


 あのエーベルが身動きも取れないほど弱っている姿は想像できないけれど、アーディですら寝込んだのだ。エーベルも苦しいのは間違いないだろう。


「……そろそろ扉は開いたかな? 先生が様子を見に行って、ちゃんと薬を飲ませるから、バーゼルト君は安静にしているようにね」

「ありがとうございます」


 そう答えたものの、やはり嫌な予感がつきまとう。

 命に関わることはないとは言うけれど――


 眉間に皺を寄せてしまっていることに気づき、アーディは意識して力を抜いた。自分も病人なのだ。まずは自分が回復しなければ。


 きっと、ディルク先生がなんとかしてくれる。ああ見えて頼りになるのだから。

 多分、きっと――


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