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〈9〉敵を知れ

 意識を失ったアーディとレノーレはどこかに運ばれているようだ。どういうルートを使って他の生徒の目を掻い潜ったのかはわからないけれど。

 アーディの方が薬の効き方は弱かったようだ。目を覚ましかけた場所はでっかいヤツの背中だった。どうやら校舎から離れているということだけはわかった。川沿いを歩いていた。


 用があるのはアーディで、レノーレまで連れて来る必要はない。騒がれると面倒だからだろうか。

 川沿いの小さな水車小屋。その軋む蝶番の扉を開いた。中は真っ暗だった。アーディはまだ意識のないフリをしておいた。体をどすりと乱暴に降ろされてムッとしつつも様子を窺う。

 ぽうっと明りが灯った。

 そばでそっと丁寧にレノーレを降ろす気配があった。いくつかのため息が漏れる。


「レノ先輩、改めて見ても可愛いなぁ」

「頬っぺたスベスベで――ちょ、ちょっと触ってみてもいいよな?」

「お前ずっと先輩のこと運んでただろ! 俺なんてずっとヤツを運んで、重たいだけでなんにも楽しくなかったんだぞ!」

「おいコラ、どこ触ろうとしてる!」


 気に食わないアーディをシメるために連れて来たはずなのに、アーディのことなどそっちのけで盛り上がっている。狸寝入りにも飽きたので、アーディはむくりと起き上がった。


「お前ら、帰ってテスト勉強しろよ」


 平然とそう言い放つアーディに、彼らはぎゃっと叫んだ後でプリプリ怒り出した。


「この状況で言いたいことはそれか!? 泣いて謝って、今後エーベルハルト様たちのような方々に自分だけ近づいていい思いをしませんって誓え!」

「……いい思いなのか、あれ?」


 疑問を残しつつ、アーディは嘆息した。

 良家の子女というと、家柄に見合うように厳しく躾けられているか、裕福で何不自由なく甘やかされて育ったかによって正反対の人種になる。彼らは後者だろう。


 アーディが軽く埃を払って立ち上がると、彼らは身構えた。この人数差である。不利は不利だった。


「バーゼルト家はまあそれなりの家柄だけどな、学園の中で身分や家柄なんて関係ない。お前、生意気なんだよ」


 小さいヤツがそんなことを言った。自分の家柄がバーゼルト家に劣るらしい。逆だったら言い分も百八十度違って小馬鹿にして来ただろうに。


「顔は殴るなよ、見えないところにするんだ」


 誰かがそんなことを言った。アーディもうなずく。


「わかった。顔は避けてやる」

「へ?」


 軽く身を屈めてアーディは動いた。素早く足払いを仕掛けると、太いヤツが呆気なく転がった。その図体が後ろにいた眼鏡小僧を潰す。


「ぐえ」


 怯んだ小さいヤツの頭を抱え込み、アーディは腕で首を締め上げて意識を飛ばした。加減はもちろんしてあるので数分で目を覚ますだろう。そのまま小さいヤツをぽい、と投げ捨てると、今度は殴りかかって来た出っ歯をかわしてカウンターで回し蹴りを叩き込んだ。続けて迫って来たでっかいヤツの腕をしっかりとつかんでねじり上げる。


「いだだだだ!」


 痛いようにしているんだ、とアーディは真顔で思った。

 でっかいヤツがうるさくしたせいか、レノーレも目が覚めたようだった。言葉は発さず、ただ驚いて目を瞬かせている。

 アーディはでっかいヤツの腕を更に捻る。でっかいヤツは空中で回転するようにして転がった。そのまま小さいヤツの上に落ちたから、小さいヤツはぐう、と呻く。

 眼鏡のヤツなんかは向かって来る気概もないようで、アーディが顔を向けると怯えた目をして下がって行った。


「うちは厳しくて、小さい頃から護身術はみっちり仕込まれてるんだ」


 顔が地味だろうと愛想がなかろうと、それと能力は無関係である。


「だってだってだってお前が悪いんだ!」


 太めのヤツが泣きながら言った。

 知るか、とアーディは嘆息する。そうして、レノーレに向かって手を差し出した。


「帰るぞ。テスト勉強しないと」


 二年生だってテストのはずだ。レノーレはためらいがちにうなずいてその手を取った。レノーレを立ち上がらせると、小屋の入り口にかけてあったカンテラの灯りがフッと消えた。そのカンテラは旧型だ。油でも切れたのだろうか。


 小屋の中は暗くなった。けれどその暗さは、黒い布切れをかぶせられたかのように深く暗い闇であった。アーディが違和感を感じた瞬間に、その高笑いは聞こえて来た。

 

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