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〈12〉家族

 素材探しから作成まで、長い一日だった。


 やっと今日の授業が終わり、早く帰ってゆっくりしようと思ったアーディにいつものごとくエーベルがつきまとう。ヴィルが何か話したそうにしていたけれど、エーベルが間に入るからろくに話せない。


 校舎の前でエーベルを押し退けようとするアーディと、抵抗するエーベルが競り合っているところを他の生徒たちが通り過ぎていく。


「あ、レノしゃん!」


 ピペルの可愛い子ぶった声に振り向くと、レノーレがアーディに気づいて小走りに駆け寄ってきた。ふわふわの髪が揺れる。


「アーディ! 家族への贈り物はできた?」


 にこやかにそう問われ、アーディは軽くうなずいた。


「まあ、なんとか」

「そう? 二年生は山の方に素材探しに行ったから、会えなくて寂しかったわ」


 すると、ヴィルとの間にいたエーベルが今度はレノーレとの間に立った。


「お前のオトートにはそこらの石で十分ダ」

「あんた、いたの?」


 イラッとした表情を隠しつつ、レノーレは微笑む。それがかえって怖かった。

 ぎゃあぎゃあと言い争いになった二人を放って、アーディはうろたえるヴィルに目を向けた。


「ヴィルは家族多いから大変だったな。お疲れさん」


 すると、ヴィルはとんでもないとばかりに首を振った。


「ううん。家族のことを考えながら探したり作ったり、すごく楽しかったよ。日頃は照れちゃって言えない感謝もあるから、こういう日があってよかったのかも」


 家族のことが本当に好きなんだな、とそれが伝わる笑顔だった。それをアーディは微笑ましく思い、ぎゃあぎゃあうるさい背景の中でも癒される思いであった。



    ☆



 その日の夜。

 すっかり疲れたアーディは早く休みたかったというのに、窓辺に張りついた黒猫がいた。窓ガラスをキキキと引っ掻く。


「やめろ。うるさい」

「ならさっさと開けんかい」


 態度がでかい。皆の前でぶりっ子するあの態度もどうかと思うけれど、素のジジ臭さも似合わないピペルである。

 またエーベルが何かをやらかして、そのことをぼやきに来たのだろうか。それがいつものパターンなのだが、どうやら違った。


 ピペルはふぃぃとオッサンらしい声を上げてベッドの上でくつろいだ。


「なんとも今日はスッキリしておってな、あまり眠くないので話し相手を探しておるのだ」

「……」


 森の中、ずっと寝ていた。そりゃあそうだろう。


「僕は眠い」


 はっきりそう言ってやった。


「なんと! こんな時くらい相手をしてやろうという優しさもないのか!」


 しょっちゅう相手をしているように思うのは、アーディの気のせいだろうか。


「しっかしまあ、エーベル様も母上様のことに関しては必死よの。あのメッセージ、あれはメッセージなんぞではなく、魔術の式よ。こんなものを考えついたと伝えたかったんだろうよ。母上様はそれをエーベル様の成長とお喜びになるような方なのでな」


 それを聞いただけでわかる。似た者親子だ。


「あいつの母親はどこにいるんだ?」

「さあのう。最後に会ったのはいつだったやら。エーベル様もたまにしか会わんもんだから、母上様の呼び名が一向に安定せん」


 そう言われてみれば、めちゃくちゃだった気がする。


「しかしまあ、あの母上様の放浪癖がなく家にいたとすると、エーベル様と二人そろって部屋を散らかしにかかるのでな、ワシには悪夢よ」


 それは確かに悪夢かもしれない。ピペルの苦労がしのばれる。

 放浪癖があるというエーベルの母親だ。息子のエーベルでさえたまにしか会えないのなら、アーディが遭遇する確率はないとは思う。


「でも、どこにいるのかわからなかったら、あのメッセージは届くのか?」


 届かなかったらさすがに気の毒だ。そう思った時、小さな光の玉がアーディの部屋の中を漂ってきた。妖精の光とは違う。青い光であった。


 身に覚えのないアーディは身構えたけれど、それはピペルの目の前、ベッドの上にぽとりと落ちた。


「な、なな、なんだこれは」


 ピペルが警戒して飛びずさると、光は薄れて消えた。ただ、その光が消えた時、最後に光が文字になって浮かんだ。


 『ピペルへ』の文字。

 その光の中から出てきたのは、あのカプセルである。青が基調で、その中に金が溶け込んだシックな色合いであった。


「ああ――」


 エーベルが、家族は二人だと言い張ったわけだ。

 アーディは納得してしまった。


「にゃにゃにゃにゃっ!?」


 うろたえるピペルの前でカプセルは孵化した卵のようにパックリと割れた。

 ふわりと浮き出たメッセージカードには――


 アーディはそれを覗き込もうとしてやめた。

 あれは、エーベルがピペルだけに向けたメッセージだ。それをアーディが勝手に見てはいけないだろう。


 ただ、そのメッセージを眺めた時、ピペルの大きな瞳がうるっと滲んだ。


「……やっぱり、今日はもう寝るわい。じゃあの」


 ピペルは両手をパタパタと動かし――爪先から出ている念力か何かで――カプセルにカードを元通り戻した。そうして、それを浮かせて持ち帰る。いつも窓を閉めることなく出ていくけれど、今日ばかりは文句を言う気はなかった。


 普段は言えない家族への気持ち。

 アーディもぼんやりと家族を思った。



 ――ただ、その翌日。


「くわぁーっ! エーベル様ときたら、エーベル様ときたら!!」


 散らかし放題、わがまま放題、いつものエーベルである。

 ピペルの鬱憤は相変わらずであったという。

 ただ、そのわがまま坊ちゃんの心の奥底には、幾ばくかの感謝があるのかもしれない。



 【 7章End *To be continued* 】


 レノの出番がほぼない章でした……|д゜)

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