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〈6〉気になるところ

 取り巻きたちは、エーベルにばかり構っていると自分の素材が集められないことにようやく気づいたらしい。それ以上ついては来なかった。


 その代わり、少し進むとヴィルがいた。女友達と一緒にいて、それからそんなヴィルに話しかけているのはフィデリオだった。隣のクラスとはいえ、クラス長同士で何かと接点のある二人ではある。けれど、最近こういうところによく遭遇する。


 よく遭遇するのだとするのなら、遭遇していない時もあると考えると、すべての回数はかなり多いということなのだろうか。

 ヴィルは特に何も思っていないのだろう。ごく自然に話しているふうに見えた。ヴィルの友達の女生徒も楽しげに会話に混ざっている。


「へぇ。ヴィルフリーデ君は末っ子なんだ? しっかりしてるからお姉さんだと思ってたよ」


 などと爽やかに微笑んでいる。ヴィルはびっくりしてかぶりを振った。


「そんな、全然だよ。お兄様もお姉様もわたしよりずっと出来がいいし」


 なんとなくアーディがヴィルに親近感を覚えてしまうのは、優秀な兄弟を持つ者同士だからだったのだろうか。

 フィデリオは謙遜するヴィルを優しく見つめている。


「それは君が自分のことをよく知らないだけだよ。君は自分で思っているよりもずっと素敵なんだから」


 少し離れた位置で、アーディはその言葉を聞いた。面と向かって言われたヴィルは目を瞬かせている。

 しかしその時、アーディは横から耳を引っ張られ、至近距離でわわわわー、と叫ばれた。


「!!!」


 ビクッと肩が跳ねた。そんなアーディの耳を引っ張りながらエーベルがぼやく。


「アーディ、またボクの話、全然聞いてなかったナァ?」


 聞いてなかったし、いるのも忘れていた。ぷぅ、とエーベルが頬を膨らませてみせても、アーディには腹立たしさしかない。


「うるさい!」


 両手の拳でエーベルの頭を締めつけてやっても、エーベルはへらへらするばかりであった。ただ、そんなアーディたちにフィデリオが気づいたらしく、それじゃあとヴィルに告げて去っていった。使い魔の尻尾がなびく様が後ろ髪を引かれるという気持ちの表れに見えた。


 フィデリオはエーベルが苦手なのだ。顔を見るとすぐに去っていく。エーベルに対して曇りない評価ができる数少ない生徒であるとは思う。


 ――でも、何かこの頃は気に入らない。

 あんなセリフ、アーディが吐いたらこっ恥ずかしさで一カ月はヴィルと目が合わせられない。だから、あんなことは絶対に言わない。思っていても、言わない。


 ヴィルは先ほどのフィデリオとの会話のことなどアーディたちには関係がないと思ったのか、こちらに向けて微笑んだ。


「アーディ、エーベル君、素材は見つかった?」


 隣にいたヴィルの友達はエーベルが近づくと、条件反射のようにはるか後方に逃げた。彼女が逃げたのはフィデリオとは真逆の理由だろう。近づきすぎると卒倒してしまいそうだから逃げたのだ。


「うにゃん? 探してナイ」

「探せよ」


 思わず突っ込んでしまった。そうしたら、ヴィルはクスクスと声を立てて笑った。


「そうなの? でもまだ時間はあるし。あれ? ピペル、寝てるの?」


 魔方陣の上で丸くなり、鼻がプープー鳴っている。寝ているようにしか見えない。


「魔族だから、この森の空気と相性が悪いらしい」

「ああ、なるほど……」


 この時まで、ヴィルはピペルが魔族だということを忘れ、ただの猫だと思っていたのではないだろうか。少しハッとしていた。


「じゃあ、いいのが見つかるといいね。わたし、おじい様とおばあ様の分もあるから数が多いの。頑張らないと」

「そっか。頑張れ」


 と、アーディは返した。この時にはフィデリオのことなど忘れた。


 ヴィルなら家族感謝しつつ、思いを込めてメッセージを贈るのだろう。

 それがわかるから、いいものが探せるように心から応援した。ヴィルの邪魔にならないようにエーベルを連れてアーディはさらにその奥へと向かった。

 

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