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〈11〉血

 アーディは食事をやっとの思いで平らげると、エーベルたちを探した。幸い、ピペルがいるので匂いでエーベルを辿れる。こうしていると、犬っぽい外見に変えた方がいいんじゃないかと思うくらいだ。

 フンフン、とピペルが鼻を動かしながら言った。


「いましたにゃー。エーベル様とレノしゃん、それから余分な匂いがしますにゃん」


 ヴィルがついて来たから、ピペルは猫かぶりである。

 しかし、ピペルが言うところの『余分』とやらが厄介だ。アーディはまだこの状態でも自分の考えを否定したがっていた。

 けれど、その場に近づくと、いたのだ。そこに。

 面倒極まりないヤツが。


 やって来たアーディの姿を、エーベルとレノーレ越しに認めると、彼はパァッと顔を輝かせた。もう、他の誰も目に入っていないらしく、アーディだけを見据えている。

 それに気づいたレノーレは、振り返って、げ、とつぶやいた。エーベルはただ不機嫌にヤツを睨んでいる。一体何だろうこの状況は、とアーディは正直泣きたくなった。

 そんな中、レノーレがふとヤツに向け、目を細めつつ言ったのだった。


「……眼鏡外すと、ちょっとアーディと……似てる?」


 その一言に、アーディはぞわ、と肌が粟立った。けれど、ヤツはそれはそれは嬉しそうに頬を染めて言うのであった。


「そりゃあねぇ。血が繋がっているからねぇ。僕はカイ=バーゼルト。アーディの()だよ」

「えええええ!!!」


 誰よりも大声を出したのは、意外なことにヴィルだった。よほど驚いたらしく、放心状態である。

 エーベルはすごく嫌な顔をした。


「アーディの? ほんとかあぁ?」


 と、アーディに疑惑の目を向ける。その視線に耐えられなくなったアーディは、深々と嘆息して項垂れた。血を吐くような思いで答える。


「……ほんとだ」

「そっか、それで似てるのね。こんなところまで来るなんて、過保護ね」


 レノーレの目が呆れているように感じられた。この場で誰も、アーディの苦悩を知るはずもないのだから仕方がない。仕方はないけれど、カイには苛立ちしか感じない。勝手にこんなところへ来るヤツがあるかと。

 アーディは勢いよく踏み込み、カイの首根っこをつかんで駆け出した。


「ぐ、ぐ、くび、しま――っ」


 苦しそうだけれど、こんなところに来たから悪いのだ。アーディは誰にも話を聞かれずに済むところ――学園長室にカイを引っ張り込むことにした。なるべく人の目に触れたくはない。アーディにも多少高度な魔術を駆使し、人目につかないようにカイを連れ込んだ。

 ぜぇぜぇと荒く息をしながらなだれ込んで来た二人から学園長は目をそらした。


「殿下。それと、カイ=バーゼルト君……」


 アーディはガクガクとカイの胸倉を揺すった。


「どういうわけで学園にいる?」


 年相応とは言えないアーディのすごみ方にもカイは幸せそうであった。


「殿下がちっとも手紙の返事を下さらないので、思いきってやって来ました」

「思いきるな!」


 アーディが怒ったところで、カイはヘラヘラするばかりである。エーベルとは違う意味で疲れる。


「じゃあ、手紙の返事を下さい。そしたら大人しくしてます」

「……」

「あ、くれないつもりですね? それなのに、わかったって答えようとして、嘘が下手だからためらいましたね?」

「心を読むな!」


 そもそも、アーディとカイとはさほどの接点もない。学園に入る前にバーゼルト家に数日滞在し、それで話したくらいである。それなのに、何故こうも気持ちが悪いのかというと、それは王子であるアーディがカイと少しばかり似た容姿をしていたせいである。


 母方の遠戚だ。似ていても不思議はないのだが、カイはそれにいたく感動したのであった。

 で、自分に似ているアーディにやたらと構いたがった。アーディは――非常に迷惑である。学園に通う間、設定上は兄であるけれど、事実は違うのだ。兄貴面なんてされたくない。

 そんなやり取りをしていた二人に、学園長はふむ、と言った。


「殿下、実は私が一時入園を許可してしまいました。申し訳ありません。今後、このようなことはないように致しますが、手紙の一通くらいは返してもよいのではないでしょうか?」


 嫌だ、と顔に出してみた。けれど、カイは学園長の意見に乗っかった。


「そうですよ。王様たちにはお手紙も書かれるのでしょう? ついででいいんです」

「誰にも書いてない。ついでなんてない」


 ――のである。大体、王城の家族はアーディの様子を知ろうとしていないように思う。それは学園長が報告しているからだろうけれど。

 えー、とぼやくカイに、アーディは渋々、本当に渋々言った。


「わかった。じゃあ、一年に一度書く。だから来るな」

「一年に! せめて五回!」

「嫌だ」

「じゃあ、三回!」

「……」

「二回……」

「わかった」


 そう嘆息してみるものの、よくよく考えたら、自分はどうしてこんな苦労をしているのだろうという気にもなる。ただ、アーディはふとひとつだけカイの使い道を思いついた。


「そういえば、カイ。お前の――」


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