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〈6〉ストーキング?

 レノーレが背後に近づいても気づかないほど、その人物は熱心に一点を見つめている。

 生徒でも先生でもなさそうなこの人物は一体誰だろう。学園に呼び出された誰かの保護者だろうか。

 それにしては行動がおかしい。レノーレは思いきって声をかけることにした。

 ストーキングされるような対象として可能性が高いのはエーベルである。性格はあれだが、外見だけならば十分にあり得るというか、実際に多いのだ。この人物にエーベルを害することができるとは思えないけれど、気にはなる。


「あの」


 あまりにも無防備な背中は、びくりと飛び上がりそうなほどに肩を跳ねた。

 その青年が振り向いた瞬間、レノーレは何か懐かしいようなそんな感覚を覚えた。何故だろう、何かが引っかかる。

 顔立ちは至って平凡、茶色の髪や瞳も珍しくはない。だからどこかで見た顔だと思ってしまうに過ぎないのかも知れない。レノーレはそう思うことにした。


「気になる生徒がいるとしても、そう物陰から視線を送るのは不躾ですわよ」


 そう言ってやった。

 青年は最初、寝不足なのか少しショボショボした目でじぃっとレノーレの顔を眺めた。そのまま値踏みするように全身を眺め、そうしてふぅんと言った。


「これにはちゃんとした理由があるのさ。君のような子供にはわからないかも知れないけれど」


 そう言った。

 レノーレはその瞬間に違和感を覚えた。エーベルの外見に浮かれている手合いとは明らかに違う。

 生徒でも先生でもないこの青年。

 エーベルの素性を知った誰かにより、彼を学園から追い払うために雇われた人間なのではないだろうか。そんなことをふと思ってしまった。


 いつもうるさく騒いで、誰よりも目立っている。だから素性が知れ渡るのも時間の問題だとは思った。本人があまり隠す気もないのだから。

 エーベル自身がもっと気をつけるべきだったのだ。あんなにも楽しげにしている学園生活が音を立てて崩れてしまう。追い出されたら、少なくとも学園を卒業するまでアーディたちにも会えなくなるというのに。


 子供の頃、ピペルだけを引き連れて好き放題だったエーベル。けれど、ふとした拍子にじいっと一点を見つめるような癖があった。その時のエーベルの顔が嫌だった。虚無にも似た、子供のレノーレにも理解できない何かがエーベルの奥底に潜んでいるような感覚だった。


 アーディに懐いてはしゃいでいるエーベルからはそうしたものを感じることがない。あんなにも楽しそうにしているのなら、面倒だけれどエーベルは学園に来てよかったのかも知れないと今は思える。

 レノーレなりにこの青年を何とかしなければと内心焦りつつ考えた。


「ちゃんとした理由ですか? それは先生方もご存じなのですね?」

「もちろんじゃないか」


 なんて堂々とした受け答えをするストーカーだろうかと、レノーレは呆れた。


「あなたは拝見した限り、生徒でも先生でもなさそうですが、どういった方なのですか?」

「うん? 僕は用務員さ」


 普通に答えたけれど、多分嘘だろうと直感で思った。

 けれどその時、青年はレノーレをじっと見つめ、眼鏡を押し上げた。その仕草にうすら寒くなる。

 青年は不気味に笑った。


「君、学園を出たらどうするんだい? 進路はもう考えているの?」

「え?」


 いきなりすぎる内容の飛躍に戸惑いを隠せなかった。

 レノーレはまだ二年生だ。三年生の後半になったら動き出さねばならないことではあるけれど、今は目先の勉学で手一杯である。将来、自分がどうなっているのかはまだ見えていなかった。

 口ごもったレノーレに、彼は微笑む。


「君ほどの容姿だったら、かなりの家柄と縁を結べるだろうね」


 縁とは、つまり位の高い家に嫁げるというのだ。レノーレにはまだ幼いけれど弟が二人いる。上の弟の花嫁は然るべき家柄からもらい受けるだろうけれど、レノーレに関してはそう厳しいことは言われていない。家柄だけを重視して結婚したいとは正直なところ思っていないのだ。

 それなのに、青年は得意げに言った。


「王家だって夢じゃないよ」

「は?」


 さすがにそれはない。レノーレの実家の力は、王家に娘を押し上げるほどに強くはない。伝手つてもなく、容姿ひとつで王子に見初められるとはさすがに思わない。この人、頭がおかしいのかな、と正直に思った。

 けれど、青年は薄気味悪く笑っている。


「伝手ならあるよ。ねえ、その代わり、しばらく僕に協力してくれるかな?」


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