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ストーム ~学園の謎~  作者: 五十鈴 りく
✤5章✤

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〈10〉呪われたお姫様

 にゃしししし、というエーベル以外の誰のものでもない高笑いが聞こえて、アーディは人混みの中で足を止めた。アーディと一緒にヴィルを探しに出たピペルも立ち止まる。踏まれそうになりながらなんとか避けていたが、どさくさに紛れて女生徒のスカートの中を見上げていたかも知れない。


「おい、お前のご主人様がこんな時に高笑いしてるぞ」


 この妙な笑い、生徒たちはあまり気に留めた風でもなく廊下を通り過ぎる。


「知らんわい。そんなことより――ととと、ヴィル嬢ちゃんも一緒におるな」


 フンフン、とピペルが鼻を鳴らした。犬みたいだが、そもそも猫でもない。じゃあなんだと言われると困るのでこの際そんなことはどうでもいい。


「……上か?」


 階段の先を見上げ、そうして段を飛ばして駆け上がる。着替えを済ませて、衣装の神様の格好だったらできない動きだ。制服のままでよかった。

 上へ向かうと、更にエーベルの笑い声が近づいた。その笑い声にヴィルの声がかすかに混ざる。


「え? 何? 何が起こったの?」


 戸惑いの強い声だ。アーディは急いで階段を上りきった。そうして、その先にいたのは狩人姿の得意げなエーベルと――。

 銀髪の姫だった。


 長くまっすぐに伸びた髪が肩から滑り落ちる。抜けるような白さの肌の頬だけが薔薇色で、憂いを含んだ淡い瞳を縁取る睫毛の影が濃く落ちる。青いドレスに身を包み、艶やかな唇を奮わせている。

 その姫はアーディを見つけると、目を瞬かせた。


「あ、アーディ。捜させてしまったみたいでごめんなさい」


 ぽかんと口を開けたままのアーディに、姫はそう言った。階段を飛び跳ねて姫に飛びついた黒い影はピペルだった。


「ヴィルしゃん! ヴィルしゃん! すんごく綺麗ですにゃ! 惚れ直しましたにゃ!!」


 しかし、ピペルは姫に飛びつく前にエーベルにキャッチされてしまった。


「ピペル、爪がドレスに引っかかるだろ?」

「あ、あうぅ」


 この姫はヴィルなのだ。しかし、いつもと様子が違う。カツラや化粧でこんなに変わるものなのかとアーディも驚いた。

 人の美醜には無頓着なアーディだけれど、ヴィルのあまりの変化に戸惑ったのも無理はない。面影はもちろんある。けれど、どうしたっていつもと違う。幼さが薄れて、色香と呼べるようなものまである。


 アーディが固まっていると、ヴィルは悲しそうに表情を曇らせた。今、いつも以上にそういう顔をされたくない。心臓がドクリと鳴った。


「私、何か変?」

「変――じゃないけど、その、なんか違う……」


 自分でも何を言っているのかよくわからなかった。変な緊張に汗ばんでいると、エーベルが得意げに言った。


「そりゃあ違うダロ。ボクが三歳老け込むように呪いをかけてやったから」


 呪い。

 呪いなのかあれは。


「ええ! そうなの!? それで急に髪の毛が伸びたの!」


 と、ヴィルは初めて知ったらしい。慌てて髪に触れていた。


「三年後、伸ばすつもりになってたんじゃないのか?」


 エーベルは適当なことを言った。


「三年後のことなんてわからないよっ」


 そう、三年後。

 三年後といえば卒業を控えた頃である。ヴィルは卒業前にこんな姿でいるのだ。

 卒業後は結婚という道を進む女子もいる。女子は早熟だ。

 その時、アーディはどうなっているのだろう。そんなことをぼんやりと思った。


「これ、戻るの?」

「解呪すればナ」


 それを聞いてほっとしたのか、ヴィルはようやくアーディに落ち着いた顔を見せた。中身は何も変わらないヴィルだというのに、それでも別人のようで緊張してしまう。そのよそよそしさを察知されたのか、ヴィルは不安げにつぶやいた。


「アーディ、私、その……」


 なんと言えばいいのか、アーディにはさっぱりわからなかった。ただ固まってしまった。

 そうしていると、エーベルがあっさりと首を回しながら言った。


「ボチボチ行かないとマズいんじゃないか?」


 劇が始まってしまう。主役二人はここにいるのに。


「あ、ああ、ほんとだ。急がないと……」


 そんな当たり障りのないことをアーディもつぶやく。視線が泳いだ。

 すると、ヴィルは自分の頬をパシンと両手で挟むようにして叩いた。そうして大きくうなずく。立ち上がったヴィルはそれほど背は伸びていなかった。けれど、背筋を伸ばして姿勢正しく前を向いたせいか、いつもよりも大きく見える。


「もう悩んだって仕方ないよね。私がんばる!」


 何か吹っ切れたらしい。


「ヴィルしゃん、その意気ですにゃー」


 ピペルはエーベルにブランブラン吊るされながらもそう言った。ヴィルがいた場所にオモチャのティアラが落ちている。アーディはなんとなくそれを拾った。


「あ、忘れるところだった。ありがとう、アーディ」


 ヴィルの頭にアーディはそのティアラを載せた。その途端、ヴィルはにこりと微笑んだ。

 感情が読まれにくい自分で得をしたとこの時ばかりは思う――。


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