表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/133

〈12〉保護者代表

 コツンコツン、と学園長室の扉が上品にノックされた。ディルクは不思議に思って振り返る。アーディが戻って来たとは考え難かったのだ。

 学園長はため息混じりに額を押えつつ客を迎え入れる。


「どうぞお入り下さい」

「では、お邪魔します」


 よく通る青年の声が室内に響いた。ディルクにはまるで聞き覚えのない声だ。

 入って来たのは、まっすぐな髪に澄んだ瞳をした細身の青年。それはこの学園の教員でも生徒でもない。ディルクはぽかんと口を開けてしまった。


「許可なく学園に進入されては困ります」


 学園長がぼやくと、青年は楽しげに笑ってみせた。


「いや、門番に入れてほしいと頼んで入って来ましたよ」

「そういう意味ではありません。そもそも、断れないような言い方を頼むとは言いませんよ」

「それは困りましたね」


 クスクス、と青年は声を立てた。けれど、あまり悪びれた様子もない。優雅な仕草で眼鏡を押し上げてみせる。


「だってね、入学してから一度も音沙汰がないんですよ。気になって当然でしょう? だから私が代表してやって来たのです」


 とは言うものの、その明らかなダテ眼鏡越しの瞳には好奇心がありありと見えた。


「それはまあ、そうですが、殿下はマメに手紙を書かれる性質ではございませんでしょうに。そう思ってこちらから報告はさせて頂いているはずですよ」


 学園長がぼやくも、彼はまるで気にした様子ではない。


「報告をもらったからこそ気になったんですよ。でも、なかなか楽しそうにしているじゃないですか」

「そうですね。成績も優秀ですし、生活態度も真面目ですし、順応はされていると思います」


 そんな無難なことを報告したところで、彼は満足しなかったのだ。かといって、王族とはいえ、多感な年頃の少年を掘り下げて報告するのも気が引けたのである。

 報告になかった部分が知りたくて、結局こうしてやって来てしまったのだが。


「可愛い子に好かれているみたいだし、ツヴィーベルの子孫とやらもさほど害はなさそうだし、とりあえずはひと安心です。戻ったらそう報告させて頂きますよ」

「まったく、様子を見にいらっしゃっただなどとアーデルベルト殿下に知られたら大変ですよ。鉢合わせしないうちにお戻り下さい」

「ハハハ、そうですねぇ。照れ隠しに殴られそうです。実はさっき、危ないところだったのですが、間一髪で隠れました」

「……」


 青年は黒縁の眼鏡をさっと外してポケットにしまうと、そうしてそばにいたディルクににこりと微笑む。同じ年頃なのだが、どうにも圧倒されてしまう。不遜とはこのことかというような気になるのだ。そういう意味ではエーベルと近いものがあるのだろうか。

 アーディにはそうした人間を引き寄せるものがあるのかも知れない。などと当人に言ったらとんでもなく嫌がりそうだが。


「それではまた。彼をよろしくお願いしますね」


 と、青年は艶やかに微笑むと学園長室を去った。その後もしばらく、室内に彼の存在感が残っているような気がした。


「あ、あの、学園長?」


 ディルクが思わず声をかけると、学園長は学園の長としての顔ではなく、不意に祖父の顔に戻った。


「みなまで言うな、ディルク」

「えーと……」


 ポリポリ、と頭を掻くことしかできなかった。ディルクは学園長の娘の子である。ファミリーネームが違えばあまり気づかれないのであえて言わないでいる。ディルクも血統による特別扱いが嫌だと思うから、アーディの気持ちもわからなくはない。まあ、規模が違うのだけれど。

 祖父である学園長は白い髭を撫でてため息をついた。


「心配されておられるというのはわかる。けれど、アーデルベルト殿下のためを思うのなら、しばらくはそっと見守って頂きたいものだ」

「そうですね。それから、シュレーゲル君と鉢合わせた時、多分すごく合わないような気がしますよ」

「だろうなぁ」


 学園長室の中に沈黙が続いた。ディルクは思わず苦笑するよりない。


「けれどまあ、偵察に来られたわけですし、しばらくは平和だろうということで」

「しばらくは、な。学園の秩序を乱さずにいて下されば助かるのだが」

「……」



     【 4章End *To be continued* 】

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング ありがとうございました! cont_access.php?citi_cont_id=952058683&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ