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〈5〉言うなれば密会

 もう一度、内緒であの実習生に会いに来た。ヴィルには何やらそれが疚しく感じられた。

 何故と言われても困るけれど、内緒と言う言葉の効力だろう。


 この段階でまだ、アーディが一緒に来てくれていたらと思ってしまう。そうしたら、こんな心細い思いはしなくても済んだ。とはいえ、内緒だと言われた以上、そうする必要があって、よくわからないままにアーディを巻き込んではいけない。


 ただでさえ、何かあるとはいつもアーディに頼ってしまう。アーディは口数が少ないけれど、優しいから手を貸してくれる。ただ、彼の優しさに甘えすぎてそれを当然と思うようにはなりたくなかった。

 特に今回のことはヴィルが何かをしたわけではない。あの実習生も話を聞かせてほしいと言っただけだ。

 他愛のない話で終わればそれでいい。


 そうは思うけれど、やはり緊張を隠せずにヴィルは茂みを割って彼と出会った場所へ向かった。

 すると、そこにはすでに彼がいた。すらりとした立ち姿だ。彼は光を放つ小さな妖精と会話を楽しむようにしてうなずいていた。その仕草は柔らかかった。

 もしかすると、そう怖い人ではないのかも知れない。

 彼はすぐにヴィルが来たことに気づいた。


「ああ、来たね。約束をちゃんと守るとは感心な子だ」


 自分が来いと言ったのに、そんなことを言う。けれど、来ないという選択肢も自分にはあったのかとヴィルは今更ながらに思った。何故だか彼には人を従わせる何かがあるのかも知れない。


「あの、お話ってなんでしょうか? 私に何を訊きたいのでしょう?」


 結局のところ、それが気になったから来てしまったのかも知れない。性急にそれを訊ねると、青年はくすりと笑った。


「まあ、少し座って話そうか」


 そう言って芝生の上に長い脚を折って座る。ヴィルもまた仕方なく腰を据え、青年に膝を向けた。それで満足したのか、青年はまたうなずいた。


「ええと、まずは名乗ろうか。私の名前はカイ――ファミリーネームはまた追々」

「はあ。私はヴィルフリーデと言います」


 青年カイが謎めいたことを言うから、ヴィルもファミリーネームは名乗らなかった。少し調べればすぐにわかることで、特に隠す必要もなかったのだが。

 そうして、彼はヴィルに問う。


「ところでヴィルフリーデくん、君はクラス・フェオの生徒だね? 宿題の用紙にクラス名が入っていた」

「え、ええ、そうですけど」


 それがどうしたというのか。ヴィルはドキドキとしながらその先を待った。

 するとカイは、整ってはいるものの、エーベルよりも人間味のある顔立ちでじっとヴィルを見つめて言った。


「クラス・フェオにはエーベルハルト=シュレーゲルという生徒がいるね? 彼とは親しいのかな? どんな子だい?」


 ああ、とヴィルは妙に納得してしまった。入学して間もない頃からエーベルは学園の中で有名人である。あの美貌と才能があれば当然ではある。ただ、その出自を正確に知る者はごく僅か。ヴィルは偶然にもそのごく僅かであるのだけれど、それを知り合ったばかりの実習生に教えるつもりにはならない。


「えっと、とても楽しい? ――賑やかな男の子、です。あの黒猫は彼の使い魔ですよ」


 それくらいのことならば教えてもいいだろうと思った。エーベルの性格については説明するのが難しく、それくらいしか言えない。もっと言うなら、その美貌を台無しにする言動が多いとでも言うべきか。


「あの使い魔が? あんな低級魔族をとは意外だな」


 心底驚いた風にカイは髪を掻き上げるけれど、ヴィルは可愛いピペルがそんな風に言われるのは嫌だった。あんなにも健気で一生懸命なのに。


「エーベル君が三歳の時に召喚して、それ以来の付き合いなんだそうです」

「三歳か。それはすごいな」


 と、今度は素直に賞賛する。

 どうやら、カイはエーベルに興味があるらしい。けれど、ヴィルに訊ねたところでそれほどの情報は引き出せない。ヴィルが答えられるのはこの程度だ。

 ヴィルがそう思ったことが手に取るようにわかったのか、カイは澄んだ瞳で微笑んでいた。妖精が、そんな彼の周りをふわりと飛んだ。


「そのシュレーゲル君がご執心の生徒が一人いるそうじゃないか」

「え?」


 ドキリ、とヴィルは今日一番の心臓の高鳴りを覚えた。

 カイはそんなヴィルににやり、と笑ってみせた。


「アーディ=バーゼルト。彼は君の目から見てどういう人間だい?」

「あ、あの……」


 何故かしどろもどろになってしまうヴィルに、カイは笑顔を絶やさない。けれど、ヘビに睨まれたカエルのようだと、ヴィルは自身をそう思った。それでもカイは容赦なく畳みかける。


「同じクラスのはずだ。いくら地味でも見かけたことくらいはあるだろう?」

「もちろんです。その、あの……」

「うん?」


 アーディのことを何故だか彼に語ってはいけないような、そんな気がした。何故だかはわからないけれど、ヴィルは妙に不安な気持ちになったのだった。

 

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