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〈10〉水遊び終結

 エーベルが水のドラゴンの上で魔法陣を描く。嬉しそうにはしゃいでいるが、お前以外は誰も楽しくないとアーディは毒づいた。

 エーベルの描く魔法陣がもたらす効果は要するに水に襲われるものである。アーディもそれに対応するべく水払いの魔法陣を展開した。

 指先が素早く、的確に文字を刻む。


 アーディの先祖とエーベルの先祖もこうして戦ったんだろうか。結果としてアーディの先祖が勝ったけれど、魔力はエーベルの先祖ツヴィーベルの方が勝っていたのではないかと少し思う。なら何故ツヴィーベルは負けたのか。

 何かツヴィーベルがエーベルと同じような性格をしていたように思えてならない。どこかがズレていた、そんな気がする。


「にゃは、完成!」


 水柱がドゴンドゴンと湖面に立ち昇る。悲鳴がうるさいほどに響いた。


「っ……ラーグ・イス!」


 水払いの術のおかげでアーディの上に降り注ぐ水はすべて弾かれる。ガラスの球に護られているようなものだ。その中でもうひとつの術を完成させる。

 水の魔術だけではあのドラゴンに吸収されてしまう。だからそこに冷気を加え、水を凍らせた。氷塊がドラゴンのどてっぱらに集中する。


 水と氷とがぶつかり合う音が湖に響いたかと思うと、ドラゴンが傾いた。多少のダメージがあったようだ。

 エーベルの魔法陣による召喚契約は一時的なもの。水精霊も無理をしない。ドラゴンの形が保てなくなって歪んだ。


「お?」


 腕を組んでふんぞり返っていたエーベルもドラゴンの崩壊と一緒にずり落ちる。水柱は落ち着いた。

 バシャン! とひと際大きな破裂音がして、ドラゴンはただの水に還った。乗っていたエーベルも当然のことながら落ちて来る。受け止める気のないアーディはそのまま見送った。エーベルはそのまま湖に落下し、沈む。ごぼごぼごぼ、と大きな泡が浮いている。


「ぶわっしゃ!」


 よくわからない声を上げて水面から首を出した。

 が、エーベルに構っている場合ではない。

 崩れたドラゴンの余波が水面を押し、湖が荒れたのだ。アーディはいい。水払いがきちんとできている。

 けれど、そういえばヴィルはどうしただろう。

 カッとなってエーベルの相手をしてしまったけれど、ヴィルは石を探していたのではないか。アーディは少し焦って周囲を見渡し、ヴィルを探した。ピペルのことは頭になかった。


「ヴィル!」


 呼んでみたけれど返事はない。もしかすると流されたのかも知れない。水払いの術はこうなると邪魔だ。アーディは術の展開を止めて水を掻き分けて泳いだ。先生たちも一応ついているのだから、大事には至らないと思うけれど、ヴィルが無理をしていないといい。

 アーディがザブザブと泳いでいると、それに気づいたのか、湖の淵にいたヴィルが大きく手を振った。


「アーディ! ここ!」


 飛び跳ねる様子が元気そうでほっとした。そうして、隣を見るとフィデリオがいた。尾羽が乾いたのか、肩に使い魔の鳥を停まらせている。その目がじっとアーディに向けられていた。

 アーディはそれでもあまり気にせずにヴィルのそばへ向かった。


「悪い、少し我を忘れた」


 真顔で、けれど正直に言ったアーディにヴィルはクスクスと笑った。


「うん、びっくりした。アーディもすごいね」


 すると、そこでフィデリオは濡れた前髪を搔き上げて、それからアーディに細めた目を向ける。


「君……アーディ=バーゼルト君。君はグライフ領のバーゼルト伯の次男だったよね?」


 一応そういう設定である。

 地味に過ごすアーディの名前を知っていたことに驚いたけれど、問題はそこではない。

 バーゼルト伯に本来息子は一人しかいない。その一人息子はアーディにとってハトコという遠い間柄になるのだが、設定上は兄である。


「それが?」


 アーディはぽつりと返す。

 伯爵家の次男にしては魔術慣れしすぎているとでもいうのだろうか。それを言ったらエーベルはどうなるのだろう。

 フィデリオはそれ以上問い詰めるつもりはなかったのか、肩をすくめて苦笑した。


「いや、バーゼルト家に優秀な人材がいたんだなって」

「……」


 褒められているけれど、何かが引っかかるのはあの使い魔の鳥の目つきだろうか。まるで威嚇するようにアーディを見据えていた。

 ヴィルは二人が認め合い、仲良く離している風に見えたのか、嬉しそうだった。

 

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