〈12〉月夜の影
ピペルを連れてエーベルは教室へ戻った。
最初は安っぽいぬいぐるみのような容姿をしたピペルに、取り巻き連中はガッカリした様子だった。エーベルにはもっと華麗な使い魔が似合うと思ったのだろう。
けれど、ピペルを可愛がるエーベルは無邪気で、そうした一面を垣間見た面々はそれはそれでギャップ萌えだったのかも知れない。それなりに納得した様子だった。ただ――。
ぐーりぐり撫で回されているピペルは、猫らしくにゃんにゃん言いながらもふざけんなコンチクショウ的な心情でいるのだろう。
それでも、女子にちやほやされるとまんざらでもない様子だった。
結局、学年リーダーにはフィデリオがなり、フィデリオには別の使い魔が支給されたらしい。で、それと同時にクラス長とやらも取り決められたのだが、それは意外な人物だった。
抜擢されたのはヴィルである。理由がまたひどかった。
エーベルはアーディの言うことしか聞かないので、アーディにクラス長ならどうですかとまたしても打診があった。けれどそれをアーディが再び蹴ったため、ヴィルになったのである。エーベルに対抗できる唯一の人間アーディと最も打ち解けて話せるのがヴィルだからというわけだ。他の生徒ではアーディに相手にされないのである。思えば、なんとも難儀なクラスだ。
それでも真面目なヴィルは頑張るのだから、アーディがつい手を貸してしまうのも読まれているような――。
使い魔の一件が落ち着いた二日後の晩、学生寮のアーディの部屋の窓に月光に照らされた影があった。猫型の影が。ドスドス、肉球で乱暴に窓を叩く。開けろということらしい。
仕方なくアーディが窓を開けると、ピペルは堂々と中へ入って来てベッドの上に着地した。そうして、ふぃぃと息をつく。
「まったく、エーベル様と来たら部屋を散らかすことにかけてはまさに天才! ようやっと片づけ終わったわい」
愚痴を言いに来たのだろうか。
「そりゃあ大変だったな」
一応労いの言葉をかけると、ピペルはじぃっと窓際のアーディの顔を見た。
「おぬし、エーベル様の親友らしいのぅ。いやぁ、物好きなこった」
自称親友であり、アーディは肯定したことは一度もないのだが、それをピペルに言うのも複雑なところなので話題を変えた。
「お前、僕にだけ態度が全然違うじゃないか」
「おぬしがワシの可愛らしさに胸キュンするタイプならカワイコぶってやるがの、終始淡々としおってからに。それではワシが惨めになるわい」
ただでさえやってて恥ずかしいのだ。それもそうかと思う。
しかしのぅ、とピペルは言う。
「レノ嬢ちゃんが学園に通い出したらエーベル様と対等にやり合える人間がおらんくなっての、それでエーベル様は退屈だったんじゃろ。集団生活なんぞとんでもないと思うたが、おぬしのような面の皮の厚いのがおれば、まあ退屈はせんわな」
失礼な猫である。
そして。
「いやしかし、レノ嬢ちゃんはますます別嬪になったのぅ。あの弾力がなんとも――うひひ」
「……」
「それから、あのヴィルって娘な。アレ、将来は結構な美人になるぞい。いやぁ、楽しみ楽しみ」
げひひ、とぬいぐるみのような容姿で下卑た笑いをする猫である。主の笑い声もどうかと思うが、やっぱり似た主従だ。
アーディのベッドでくつろぎながら、ピペルは言う。
「おぬし、それにしても顔の割になかなかの魔力よの。エーベル様ほどではないにしてもその年の人間にしてはなかなかだ。ただ、その魔力に似たものをどこかで――」
ぎくりとしたアーディは黒猫の首根っこを捕まえて吊るし上げた。
「僕はそろそろ寝る。出てけ」
「なんと! ワシをなんだと思っとる! ワシはなぁ、こう見えて――」
ぽい。
バタン。
アーディはふぅと嘆息すると額の汗を拭った。
何やら面倒な生き物が増えてしまった。けれど、増えてしまった以上は仕方がない。これから身分がバレてしまわないようにのらりくらりとかわして行かねば。
まだまだ学園生活の先は長いのだ。
【 2章End *To be continued* 】
はい、以上で2章終了です。
さてこちら!
蒼山様の企画に参加させて頂き、「現代夏服&スイーツ」をテーマに描いて頂いた一枚です!
※無断転載等はお控えくださいますよう、お願い致します。
「どうしたのよ、それ? カラフルですごく美味しそう」
「ぜーんぶボクのだからナ。分けてやんない」
「そ、そう……」
「どうしてもって言うならアーディにだけ、はい、あーん」
「……(向けられたスプーンの先から手で奪い取って食べる)」
「あんたのうっとうしさが最近友情を越えてるわ」
「レノしゃん、寒天で簡単に作れるですにゃー。一緒に作りますにゃー」
「ありがとう。ピペルったら可愛いんだから」
「ええと、材料はフルーツと寒天とフルーツジュース、水、砂糖、リキュールって書いてあるよ」
「全部適当にぶち込めばできるのか?」
「だ、駄目ですにゃー。お菓子は計量しないと失敗しますにゃー。入れる順番も大事ですにゃー。寒天は砂糖の後に入れると溶けなくなりますにゃー」
「さすが家政夫。詳しいな」
「違いますにゃ! ボクは使い魔ですにゃ!!」
「うにゃん? そのふたつはドコが違うんだ?(もぐもぐ)」
「!!!」
「……あんたってほんとヒトデナシよね」
――なんていうSSを描いてみる(笑)
どれが誰のセリフかはご想像にお任せします!
尚、こちらにお邪魔すると不憫(?)な使い魔がいたりします↓
http://ao-san2.blog.jp/archives/62953499.html
では、ありがとうございました!