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〈9〉追跡中

 学園長室から浮遊パネルに乗って廊下へ出る。ピペルの飛び去った方角を思い出す。


「ねえ、どうしてピペルは逃げたのかな? 知らない場所でたくさんの人に囲まれてびっくりしちゃった?」


 と、アーディの隣でヴィルが小首をかしげた。


「飼い主が嫌いなんじゃないか?」


 バッサリと言うと、ヴィルはええっと声を上げて返答に困った。

 あの学園長の態度。あれは明らかにエーベルを追跡に向かわせないようにしていた。それに、再召喚で呼び寄せることもさせないように切れ間なく話しかけていた。

 アーディにエーベルよりも先にピペルを見つけ出せと言うのだろう。それで、エーベルがいない時の使い魔の状態はどうなのか見ておいてほしいということかも知れない。

 このまま二人で一緒に探し回るべきか二手に分かれるべきか、そう考えた末にアーディは閃いた。


「なあ、ヴィル、レノーレに事情を説明して手伝ってもらうか?」


 レノーレはピペルのことも知っている風だった。もしかすると戦力になるかも知れない。

 アーディの発案にヴィルは両手を軽く打って微笑んだ。


「なるほどね。うん、じゃあ私、レノ先輩のところに行って来るね」

「頼む」


 この時間、きっとレノーレは女子寮だ。男子では呼び出しづらい。それをヴィルも察してくれたのだろう。

 チョコチョコと華奢な足を動かしながらヴィルは駆け去った。その背中を見送りながらアーディは嘆息した。正直、面倒くさい。

 けれど今更どうにもならないのでさっさとピペルを見つけ出せば片づく問題だと思うことにした。


 アーディは教員棟から出て中庭に向かった。

 ピペルには翼がある。それならば高い位置を好むだろう。中庭には高い木々も隠れるための茂みもあるのだ。

 アーディが一人で歩いている分には行き交う生徒たちも目を向けない。きょろきょろと辺りを見回していても不審がられることもなかった。


 ただ、アーディの血統を敏感に察知するのか、中庭を浮遊していた妖精がアーディの周囲を飛び回った。妖精とは言っても、小さな力の弱い妖精で、蝶ほどの大きさの翅を持った光の珠にしか見えない。妖精は忙しなくアーディの周囲を飛び回る。


「なんだ?」


 何かを知らせようとしている。アーディはそう感じたのだ。

 光の珠は飛び回ってアーディの視線を誘導し、ある一点に集めた。ああ、なるほど、とアーディは思った。


「大丈夫だ。心配するな」


 言葉が伝わるかはわからないけれど、そう言ってみた。

 白木の枝の上に黒々とした影がある。その影はきょどきょどと辺りを見回している。耳をぴこんぴこんと動かし、警戒している様子だった。このまま近づいたらまた逃げられるかも知れない。アーディはそう考えて少しだけ様子を窺うことにした。


 幸いと言うべきか、アーディは存在感が薄い。すぐに空気に溶け込んでしまう。

 ピペルもアーディに見られていることなど意識していない様子だった。木の上からそろりそろりとへっぴり腰で下りて来た。その動きはあんまり猫らしくない。むしろ二足歩行ができるんじゃないかと思う。そんな下り方をするくらいなら飛べばいいのにと思わなくもなかったが、それはそれで面倒くさいものなのかも知れない。


 茂みの下へ入ったピペルが見えなくなったので、アーディはそっと近づく。すると、とんでもなくジジくさい嗄れた掛け声が漏れた。


「ふぃぃ、どっこらしょーい」


 アーディは一瞬耳を疑った。けれど、その声は止まらない。


「んっとにまぁ、長期で留守だと思ってちーっくら油断するとすぐこれだ。いっつもいっつも目ざといというか変に勘がいいというか、顔の割に性質がねじねじ捻じ曲がっておる。……しかし、連れ戻されるのも時間の問題か。さて、どうしたものかのぅ」


 やはり、鬱憤はとんでもなく溜まっているようだ。エーベルが三歳の時からの付き合いだという。十年以上あの変人に仕えていたなんて、とアーディはこの黒猫が憐れになった。

 そろりと茂みに近づくと、アーディはその奥でだらしなくふんぞり返っているピペルに声をかけた。


「おい」

「んあ?」


 黒猫に睨まれた。ピペルはアーディが召喚の場にいたことなど気づいていないのだろうか。


「お前のことを連れ戻して来いと頼まれた」


 正直にそう言うと、黒猫はふさふさの両頬に肉球を押し当て、ひぃぃと叫んだ。

 

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