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〈2〉出会い

 学園生活というのはこんなにも窮屈なものなのかと、始まって数時間でアーディはそれを感じていた。教室という狭い空間に押し込められ、並んで座らされ、皆が同じような言葉を口にする。

 まだ始まったばかりで、今後楽しいことももしかすると増えて行くのかも知れない――となんとか、自分に言い聞かせた。家族に学園へ通うと明言した以上、早々に帰るわけにも行かなかった。帰ったら、父親に腹を抱えて笑われそうだ。それだけは耐えられない。


 全員の自己紹介が終わった時、女生徒の一人が手を上げた。


「先生、ここの席の子はお休みですか?」


 すると、ディルク先生は一瞬返答に困ったように見えた。


「ん、ああ、まあそうだね。自己紹介は今度してもらおう」


 アーディの席は陽の当たる窓際だった。ぽかぽか陽気の中、アーディはそこから学園を見下ろした。一年生のクラスは二階である。一階は二年生。三年、四年は別棟にいる。

 綺麗に新緑が映える森が遠目に見えた。この学園は小国ほどに広い。そのうち課外授業などもあるのだろうか。


「――さて、それじゃあみんな、今から一時間だけ自由時間だ。気になるところもあるだろう。少しくらいなら好きに回っておいで。でも、あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ。一時間経ったらチャイムが鳴るからね、そうしたらこの教室へ帰って来るんだよ」


 自由時間。それを聞いてアーディはほっとした。

 一人になれる。少し息抜きをしよう。

 集団生活に慣れないアーディはそんなことを思った。それが――もしかするといけなかったのかも知れない。



     ☆



 わいわいわらわら。

 皆はあまり単独行動を好まないのか、知り合って間もないというのにもうつるんでいた。アーディはそんなクラスメイトたちの隙間を潜り抜け、真っ先に階段を降りる。そして、校舎を抜けるとその裏手に回ってレンガの塀を背に茂みの陰で腰を下ろした。ふぅ、とひとつ嘆息する。

 学園生活は楽しかったなんて誰が言ったのだったか。全然楽しくない。

 などと今頃後悔しても遅い。卒業まで先が長すぎて、すでに嫌になっていた。


 さて、どうしたものか、とアーディがもうひとつため息をつくと、背にした塀にトン、という軽い振動があった。ん? と上を見上げた瞬間、自分の上に影が落ちた。降って来たのは靴底である。


「!!!」


 とっさに顔だけは庇って転がったものの、あまりに無防備な姿勢だったためにすべてを回避することはできなかった。

 ズドン、と流星のごとく落ちて来た人物には悪意を感じた。背中を踏まれ、ぐえ、とアーディが呻くと、その人物は澄んだ声で平然と言うのだった。


「おや、こんなところに人がいる。人の多いところは避けたつもりだったのにな」


 いいから早く退けと言いたい。ただそれだけである。

 その気持ちが伝わったのかどうなのか、その人物は軽やかにアーディの背中から降りた。アーディが痛む背中を摩りながら見ると、そこにいたのは背に光を受けた少年――。


 他人の外見など気にしないアーディでも、眼前の少年が並外れた美貌の持ち主であることだけは理解できた。その顔立ちは人形のように整い、危うい美しさを保っている。癖のないまっすぐな金髪をひとつに束ね、そのほっそりとした肢体を学園の制服で包んでいる。シンプルなデザインを選んでいるが、それがまた彼の容姿をよく引き立てていた。


 しかし、ロングブーツを履いたあの華奢な足がアーディを思いきり踏みつけたのだ。

 長い睫毛に縁取られた薄青い瞳。憂いを帯びたそれがアーディに向けられ、アーディは一瞬返答に困った。

 すると、その類稀な美少年は何かを勘違いした。


「なんだ、まだ足りなかったか?」


 ぐりぐりぐり。

 額にブーツのかかとを擦りつけられた。

 あまりのことにアーディがぽかんと口を開けて――いる場合ではなかったので、ここは怒った。


「何だお前! 失礼極まりないだろ!!」


 すると、美少年はきょとんとして言った。


「うん? ボクの下僕志願者じゃないのか? じゃあなんでわざわざボクに踏まれに来たんだ?」


 この美貌が少年の性根を腐らせているらしい。そのことだけはよくわかった。


「踏まれに来たんじゃない! ここで休んでたらお前が僕の上に降って来たんだ!」


 美少年はぽん、と手を打った。


「なるほど」

「まったく――」

「いや、ボクの気を引くためにいろんな策を練ってるんだなぁ」


 ――駄目だ。

 アーディはそう瞬時に判断した。これは人の話を聞かない人種だ。関わってはいけない。


「よし、その努力に免じて教室まで案内させてやろう」

「知らん!」

「フハハ、使いの者がへっぽこで少々寝過ごしてしまってな」


 お前も十分へっぽこだと言ってやりたいところだが、その言葉通りに受け取ってもらえる気がしなかったので諦めてその場から逃走した。


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