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〈5〉ピペル

 エーベルとレノーレを両方に侍らせ、ヴィルを引き連れているアーディは、他の生徒たちから羨望と嫉妬の眼差しを受けた。けれど、当の本人にとっては迷惑以外の何ものでもない。

 中庭の芝の上に連れて行かれた。日が暮れる前には帰りたい。

 そこでエーベルはアーディを解放すると得意げに胸をそらした。


「よし、作戦会議だ」

「なんの?」


 アーディは思わず顔をしかめたけれど、特に気にした風でもなくエーベルは更にふんぞり返る。


「ボクを学年リーダーにするための!」

「……」


 それを聞いたレノーレはアーディの腕に寄り添ったままで言った。


「何、あんた学年リーダーになんてなりたいの? 学園征服でも企んでるわけ?」

「それも面白そうだな」


 面白くない。他の生徒にとっては面白くない。

 アーディはボソリとつぶやく。


「さっきフィデリオに会ったぞ。ヴィルが階段から落ちそうになったところを助けてくれたんだ。悪いヤツじゃないな」


 すると、エーベルはガン、とショックを受けた仕草をした。


「アーディが他人を褒めた……」


 失礼極まりない発言である。アーディはイラッとした。

 エーベルはそれでも喚くのだ。


「アーディはボクの友達なんだから、ボクの味方じゃなきゃ!」

「なんだその子供みたいな言い分は」

「この子、根っから子供よ? 今頃気づいた?」


 なんて、レノーレはフォローでもなんでもない言葉をささやく。けれど、それもそうだとアーディは密かに思った。

 エーベルはすねてぷぅっと膨らんだ。


「とにかくボクは使い魔を召喚したいんだ!」

「部屋の片づけのためにか?」


 すかさず突っ込んだアーディに、レノーレは訳知り顔で言った。


「ああ、そういうことね。あんたが学年リーダーなんておかしいと思った。要するに、ピペルを呼びたかったわけね」

「ピペル?」


 大人しく聞いていたヴィルがきょとんとする。レノーレはうなずいた。


「そう。エーベルの使い魔の黒猫――ほんとの猫じゃなくて、猫の姿をしてる何か? だけど、可愛い子よ」


 エーベルは機嫌を直して目を輝かせた。


「ボクが三歳の時に初めて召喚した魔族だ。能力はへっぽこぷーだけど、ボクに従順で可愛いヤツなんだ。アーディにも会わせてやりたい!」


 エーベルの言い分だけを鵜呑みにはしたくないけれど、レノーレもそう言うのなら実際に大人しい使い魔なのだろう。


「ピペルはあんたが学園にいる間、どうしてるわけ?」


 そんなレノーレの問いに、エーベルはうなずく。


「部屋の掃除、虫干し、庭の草刈……」

「すさまじく雑用だな」


 魔族を家政婦のように扱うエーベル。そのピペルとやらに鬱憤は溜まっていないのだろうか。アーディはなんとなくそれを訊ねたくなった。ヴィルも同じことを考えたのか、ぽつりと言った。


「私も会ってみたいな」

「お、ちびっ子、お前なかなか素直だな。よし、褒美に魔術で身長を三十センチ伸ばしてやろう」

「やめろボケナス」


 ヴィルもさすがに三十センチは嫌なようでアーディの背に逃げ込んだ。そこで小動物のようにプルプルと震えている。

 エーベルはにゃししと不気味に笑うと反り繰り返った。


「じゃあ、どうしたらボクが学園リーダーになれるか考えるのだ!」

「お前、天才なんじゃなかったのか? 自分で考えろ」


 手始めに突き放してみたところ、何故かレノーレが慌てた。エーベルの味方をするのかと思いきや、納得の発言が飛び出す。


「駄目よ。こいつに自分で考えさせたらそのフィデリオって子、再起不能になっちゃう」


 とんでもない過ちを犯すところだった。アーディも言葉に詰まってしまう。


「ふむ。じゃあここは正々堂々と決闘だにゃ」


 にゃ、じゃない。


「私闘は禁止だ。校則にそうあるだろ」

「ボクの辞書にはない」

「今すぐお前の辞書を出せ。書き足してやる」

「ぷぅ」


 コイツは、とアーディは思わず拳を握ったけれど、なんとかしてそれを収めた。城での毎日の中でこんなにイライラするヤツに出会ったことはない。世間は広い。アーディはそんなことを思った。

 あのぅ、とヴィルがアーディの背中から言う。


「学年リーダーにならなくったって、使い魔の使役を先生に願い出たらいいんじゃないの? ちゃんとした理由があれば許可が下りるかも……」


 その言い分は的を射ていた。なるほど、とエーベルも手を打った。


「ちびっ子、なかなか冴えてるじゃないか。やっぱり褒美に身長を四十センチ伸ばしてやろう」

「ヒッ」

「……それはもういいから、行くぞ」


 背中で震えるヴィルを庇いつつ、アーディはそう嘆息した。

  

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