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〈4〉向き不向き

「というわけだから、ボクは学年リーダーになることにするよ」

「……」


 アーディが精一杯顔をしかめても、エーベルは気にしない。教室の自分の席に着いてふひんふひん、と変な鼻歌を歌い出した。

 そのまま次の授業があったので放っておいたけれど、その放課後――。



「アーディ」


 綺麗な響きの女性の声。アーディがそちらに目を向けると、教室の入り口にレノーレがいた。柔らかそうな長い髪にリボンをして、プリーツスカートの裾を揺らしながら手を振っている。


「あ、レノ先輩」


 ヴィルも彼女に気づいて駆け寄った。レノーレは素直に慕ってくれるヴィルのことも可愛いらしい。ヴィルの頭をニコニコと撫でている。レノーレの出現にクラスがざわつくけれど、当人は平然としている。儚げな外見の割に肝が太いのはもうわかっているから驚かない。


「アーディ、今日は窓から寮に帰ろうか?」


 エーベルがレノーレの方を向かずにそんなことを言う。二人は幼なじみらしいけれど、常に反発し合っている。そんな二人に気に入られているアーディはいい迷惑だった。

 レノーレはあっさり教室に踏み込んでアーディの腕を取った。ざわめきがいっそう大きくなる。


「ちょっといい? やっぱり学年が違うからこうして会いに来ないと共通の時間って作れないから」


 彼女のような美少女にそう言って微笑まれても、アーディは顔色ひとつ変えない。そんなアーディの反対側の腕をエーベルがつかむ。


「二年生は教室に入るなよっ。お前性悪だから友達いないのかぁ?」

「……このクソガキ」


 笑顔のレノーレから耳を疑う低音がもれたけれど、密着しているアーディくらいにしか聞こえなかっただろう。彼女のイメージが損なわれることはなかった。

 面倒くさくなったアーディは二人の腕を同時に振り払う。二人してあーっと叫ぶけれど、アーディは構わず歩いた。ヴィルがそんなアーディを慌てて追いかけて来る。向こうの二人はまだいがみ合うのに忙しそうだった。


 階段を半分以上下りた時、ヴィルの小さな悲鳴が聞こえてアーディは驚いて振り返った。階段でつまづいたらしく、バランスを崩して体が傾いた。


「危ない!」


 とっさにカバンを放り出したアーディだったけれど、ヴィルは落ちては来なかった。


「危なかったね……」


 そう言ってヴィルの腕をつかんで支えてくれたのはフィデリオだった。ヴィルは驚きが勝ってとっさに返事ができていない。けれど、そんなヴィルにフィデリオは穏やかな笑顔で言った。


「大丈夫?」

「あ、ありがとう」


 ようやくそれを言ったヴィルに、フィデリオはうなずく。


「急いでいても気をつけないとね」

「うん、ごめんなさい」


 そうして、フィデリオはアーディにも爽やかに笑って階段を下りて行った。アーディは逆に階段を上ってやや放心気味のヴィルのところへ戻る。


「助かったな」

「う、うん……」


 そうつぶやきながらも、ヴィルは何か晴れない表情をした。きっとよほど怖かったんだろう、とアーディは思う。


「あいつ、いいヤツなんだな」


 ヴィルを助けてくれたから、アーディは素直にそう思った。学年リーダーになんて抜擢されるのだから頼りになるのは当然としても。


「そうだよね」


 そう言いながらもヴィルは別のことを考えているような、そんな印象だった。アーディはひとつ嘆息する。


「少なくともエーベルよりはリーダー向きだろう」


 ヴィルは遠慮がちにハハ、と笑った。それを見て、やっとアーディもほっとした。


「ところで、何か僕に用でもあったのか?」


 追いかけて来たように感じたのは気のせいだろうか。また苦手な魔術学のわからない部分があって教えてほしかったんだろうとアーディは思った。でも、ヴィルは苦笑して手を振った。


「えっと、今の衝撃で用事も飛んじゃった。ごめんね」


 アーディも思わず苦笑した。


「そうか。また思い出したら言えよ」


 なんてやり取りを悠長にしていたせいか、教室からエーベルとレノーレが飛び出して来た。


「あ、いたいた!」

「置いて行かないでよ」


 アーディはチッと舌打ちをしつつ階段を下りたけれど、すぐに二人に捕まるのだった。そうしてそのまま引きずって行かれた。不機嫌なアーディを心配したのか、その流れでヴィルもついて来るのだった。


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