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〈3〉フィデリオ

 一年生のクラスはふたつ。『クラス・フェオ』と『クラス・ウル』。

 アーディたちはフェオ。フィデリオはウル。

 クラス・ウルの担任は女性で美人だから羨ましいというクラスメイトもいるけれど、クラス・フェオのディルク先生は温厚で人当たりがよく、アーディは嫌いではなかった。


 隣のクラスまで行くのにトイレと階段を挟む。その短い距離を歩くだけでもエーベルは目立つ。もっと離れて歩けとアーディは引きずられながら思った。

 『クラス・ウル』の扉のそばにいたひょろりと背の高い男子生徒にエーベルは声をかける。


「おい、そこの。学年リーダー候補ってヤツを呼んで来てくれ」

「ははは、はい!!」


 のっぽは顔を真っ赤にしてすぐさま教室に飛び込んだ。

 アーディだったら、僕は『そこの』なんて名前じゃないと突っぱねただろう。なんて心が広いんだと思いたいけれど、多分そうじゃない。


 教室の中がざわざわざわざわぞわぞわぞわぞわ、嫌にうるさくなった。面倒くさい、とアーディは嘆息するも解放されなかった。ゆっくりと勿体ぶった足取りでフィデリオがやって来た。

 勿体ぶったというよりも警戒しながらというのが正解かも知れない。エーベルみたいなのに急に呼び出されればそれも仕方ない。


「えっと、私に何か用が?」


 フィデリオはエーベルほどでないにしても整った顔立ちに均整の取れた体つきをしていた。額の中央で分けた髪をサラリと揺らし、微苦笑してみせる。アーディには自分を『私』と言うところも気取って感じられた。

 ちなみに、エーベルはどうとも思っていない風である。平然と言った。


「ああ。学年リーダーになると使い魔が使役できるというのは本当か?」


 まっすぐなエーベルの視線を受けてもフィデリオは他の生徒のように陶然とはしなかった。アーディはそれをさっきとは違って好ましく思った。上辺だけでなくちゃんと中身を見れるのかと。

 フィデリオは軽くうなずく。


「うん、そうだよ。でも、私はまだ使い魔を召喚していないからね。それはいずれ――」


 エーベルは丁寧に答えてくれていたフィデリオの話の腰を遠慮なく折る。


「そうか。まだなら丁度いい。ボクにその座を譲ってもらおう」


 ぽかん、と口を開けてしまったのはアーディとフィデリオだけだった。他の生徒たちはおお、と顔を輝かせている。お前らはクラスメイトを応援してやれ、とアーディは自分のことは棚に上げつつ呆れた。


「え、えっと、それはどういう――」


 フィデリオは落ち着いて対応した。けれどその言葉も遠慮なくへし折られた。


「ボクも使い魔を呼びたい。学年リーダーなんてそれ自体は面倒だからどうでもいいんだけど」


 さっきの取り巻き志願者たちの言葉のせいか、エーベルはやたらと使い魔にこだわる。面倒くさいことになったな、とアーディは渋面になるけれど、フィデリオはアーディを空気のように扱っていた。


「そ、そう言われても、ね……」


 困惑するのも無理はない。不躾にもほどがある。

 アーディはすでにフィデリオの味方だった。渋々口を開く。


「いい加減にしとけ。戻るぞ」

「ふげ」


 アーディが首を抱えるようにして締めると、エーベルは品のない声を上げた。


「邪魔したな」


 とフィデリオに詫びると、アーディは来た時とは逆にエーベルを引っ張って教室に戻った。その雑な扱いに周囲はざわめいたけれど、アーディは聞こえないフリをした。

 にゃー、とエーベルは騒ぐ。


「アーディ、アーディ、ボクが使い魔を召喚してもボクたちの友情は変わらないんだよ?」


 ぞわ、と鳥肌が立った。アーディが使い魔にヤキモチを焼くという発想がどこから湧いて出たのか。

 エーベルの頭を放り出すとアーディは仏頂面で凄んだ。


「むしろ変わるなら呼んで来い」

「照れ屋さん」

「どこのどいつがだ?」

「ア――へぶっ」


 うるさいので手の平でとりえの顔を潰してやった。周りはぎゃあっと悲鳴を上げたけれど、本人はケロッとしていた。


「だってさ、学園に入る前はずっと使役してたんだ。やっぱ、いないと不便なんだよぅ」


 白皙の顔に手の平の跡を残しながらエーベルは平然とぼやく。


「朝起こしてくれないし、着替えも出しといてくれないし、部屋も散らかるんだ」

「家政婦扱いか」


 王子のアーディですら自分で何とかしている。エーベルがこうなったのは、その使い魔がちやほやしたせいだとすると、いない方が本人のためなのではないかと少し思った。


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