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ストーム ~学園の謎~  作者: 五十鈴 りく
✤12章✤

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〈8〉攫われた?

 アーディがヴィルと二人で並んで歩いていると、ヴィルのつむじが見える。

 ヴィルの背が少し伸びたように思ったけれど、そうでもなかったのだろうか。そんなことをアーディが考えていたのがわかったのか、ヴィルが笑った。


「アーディ、背が伸びたよね」

「そうか?」


 ヴィルの背が伸びていないのではなく、アーディの方がより伸びたということらしい。

 成長期なので不思議ではないのだが、自分でよくわからない。あまり急激に伸びると成長痛とやらがあるらしいが、これからだろうか。


 初めて会った時――いや、知り合ってしばらくの間、アーディはヴィルを男子生徒と間違えていたけれど、今になって改めて考えると、どう見ても華奢だった。あれから一年経って、男女差も顕著になりつつある。髪も伸ばしているみたいで、今なら間違えなかったのに。

 そんな言い訳めいたことを今更思う。


 そうしていると、視線を感じた。ひとつではない。複数の。

 アーディはため息をつきながらそのすべてを無視しようとした。――のだが、まずひとつ。追突された。


「アーディ! どこ行くの?」


 一気に場が華やぐ。学園内でファンの多さでエーベルと競えるのは彼女くらいのものだろう。


「あっ、レノ先輩も図書館ですか?」


 ヴィルがアーディの腕に抱きつくレノーレに向かってどこか気後れしたように言った。

 レノーレ=ティファート。三年生だ。


 見た目は美少女だが、実は結構|(物理的に)強いし、物言いもキッパリしている。フラれた男子生徒の数はひとクラス分よりも多分多い。弱い男は嫌いらしい。


 そんな女生徒にちやほやされるアーディが他から目の敵にされるのは仕方がないのか。

 視線が一層刺さった。


「ううん、ちょっと通りかかったら二人が見えたから来ただけ。……あのバカは?」


 満点以外を取ったことがない天才のエーベルに『バカ』と言えるのはレノーレくらいのものだ。成績の問題ではなく、幼馴染の関係であるから、エーベルの他人が理解できない紙一重の言動はバカでいいらしい。


「それが、エーベル君の様子がおかしくて……。ピペルがいなくなったせいだと思うんですけど」


 ヴィルがそれを言うと、レノーレは目を瞬かせた。


「ピペルが? 契約で縛られてるのに、どうやって解放されたのかしら?」

「魔界に帰ったんじゃないのか? エーベルが再召喚しようとしても応じなかったんだ」

「魔界に帰ったくらいじゃ召喚拒否は無理よ?」


 たしかに、ピペルは低級――いや、これを言ったら怒られるが、いかに家事に秀でていようと魔族としてはそれほど高位の存在ではない。

 エーベルが気に入って置いているだけであって、本当のところを言ってしまえば、エーベルならもう少し上の使い魔と契約することもできるはずなのだ。


 それなのに、その低級魔族が呼び出せない。このことにエーベルはプライドが傷ついたのかもしれない。

 だから急に図書室で勉強するなんて珍しいことを言い出し、真面目な顔をしているのか。


 この話をしていると、ヴィルがオロオロし出した。


「もしかして、ピペルに何かあったんじゃ……」

「何かって、なんだ?」

「わかんないけど……」


 アーディは最後にピペルと会った時のことを思い出してみる。

 いつもとまったく変わりなかった。


「魔族だし、うっかり祓魔の術でやられたとか?」


 アーディがなんとなく思いつきを口にしたら、ヴィルもレノーレもゾッとしていた。


「やだ、アーディ! 嫌なこと言わないでよ。あんな可愛いピペルに誰もひどいことしないわよ」


 可愛いのは表の顔で、実はジジ臭いのだが。それはまあいい。


「それにピペルはエーベル君の使い魔だもの。学園内でそれを知らない人はいないと思うの。危害を加えられたりしないと思うんだけど」


 ヴィルもそんなことを言う。


「じゃあエーベルの使い魔だから誘拐されたとか?」

「えーっ?」


 絶対にその可能性がないとは言わないが、あり得るとも思えない。ピペルがもし誘拐されたのだとしたら、相手は可愛い女生徒かもしれない。それなら喜んでついていく。


「まあ、あたしたちが考えてもわからないわね。あのバカのところに行ってみましょうか」


 レノーレも来てくれるらしい。一番エーベルの扱いを心得ている人物なので丁度よかったかもしれない。

 結局三人で図書室へ向かった。


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