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ストーム ~学園の謎~  作者: 五十鈴 りく
✤12章✤

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〈5〉職場放棄

「…………」


 アーディはどうにか五分遅れただけで二限目の授業に滑り込むことができたのだが――教室は騒然とした。


 部屋から出る前に、エーベルのリボンタイだけはどうにか探し出すことができた。エーベルのズボンのポケットにねじ込まれていたのだ。


 タイはアーディが無理やり結んだものの、髪の毛に関してはアーディは短髪なので上手く結べる気がしなくて放置した。

 エーベルはサラサラの、光を放つ金髪を下ろしたまま教室で授業を受けている――のだが、外野が。

 エーベルを輪の中心とし、そこから周囲の生徒が机の上にへたっている。


「ま、眩しすぎる……っ」

「天使が降臨なされたっ」

「きょ、今日は記念すべき日だっ」

「なんて、なんて麗しい!」


 もちろん、アーディはそんな教室で目が死んでいた。バカバカしくて授業にならない。

 ディルク先生も黒板に向き直ったものの何度も振り返り、今日は駄目だと感じたのだろう。途中から授業を諦めて猫の絵を描き始めたが、多分アーディとエーベル以外は誰も気づいていない。


 別に髪をくくっていなくても校則違反ではないのだが、エーベルだけは長髪禁止だという校則、もしくは法律を作った方がいいのではないのか。とはいえ、髪を切ったら切ったでまた大騒ぎになって授業にならないというオチが待っていないとも限らない。


 スッ、とエーベルが手を挙げた。


「なんだろう、シュレーゲル君」


 ディルク先生に発言を許されたエーベルは、至極真面目な顔をして立ち上がった。


「先生のその絵は、デマンティウスの猫でしょうか? だとするなら、その指は六本であるべきです」

「あ、うん……」


 エーベルは猫の祖とも言われる魔獣の名を告げたが、言ってやるな。

 怪物じみた猫のその絵は、きっと絵が下手なだけだ。


 その事実に気づかず、エーベルは授業中だからなんらかの意味があるものと考えて見入っている。授業態度はもしかすると一番真面目かもしれない。

 けれど、授業にならないのはお前のせいだとアーディはちょっと思った。




 やっと二限目が終わってアーディはほっとした。

 多分一番ほっとしたのはディルク先生だろうけれど。


「エーベル、そろそろ髪の毛くくったらどうだ?」


 一応言ってみた。

 そうしたら、エーベルは珍しく顔をしかめた。面倒くさいらしい。


「ところでサ、ピペルは?」


 今頃になってそんなことを言う。


「知らない。お前が何か怒らせたんじゃないのか?」


 ヴィルもアーディの背中の方からそっと近づいてきた。


「ピペル、いないの? それで起こしてもらえなかった?」


 エーベルは机に頭がつきそうなほど首を傾げている。


「ナンデ? ボクが何したってのさ?」

「いや、何もしなかったから怒ったんだろ?」


 服は脱ぎっぱなし、出したものは片づけない。全部ピペル任せでいたから、ピペルは怒って職場放棄したのではないのか。


「何も? なんにも? うーん?」


 しばらく考えた末、エーベルはケロリとして言った。


「ま、いいや。じゃあサ、アーディが髪の毛くくってよ」

「は?」

「最近自分でやってなかったから、やらない癖がついたのにゃ」

「やれよ。自分で」


 思わず低い声で突っ込んだ。

 そうしたら、エーベルはアーディをじっと見て諦めた。アーディが不器用だと気づいただけかもしれない。

 そこからヴィルに目を向けた。


「じゃあそこのちびっ子、結ばせてやろう」

「えっ!」


 ヴィルがたじろぐと、エーベルはポケットから髪紐を取り出した。


「ありがたく思え」

「えっ、えっと……」


 アーディはエーベルをどつく前に、手を伸ばしかけたヴィルの手を握って止めた。


「やめとけ、ヴィル。要らないトラブルに巻き込まれる」


 女子に限らず妬まれる。ヴィルには何の得にもならないことで妬まれるなんて馬鹿らしい。

 エーベルは不満そうに、ぶー、と鳴いた。


「じゃあもういいや。今日はこのママ」

「だから、自分でやれ!」


 そんなやり取りをしている間もヴィルの手をつかんだままでいたら、気づいた時にはヴィルが何故か固まっていた。


「あ、悪い。痛かったな」


 そこまで強く握ったつもりはなかったのだが、痛かったのかもしれない。


「う、ううん、痛くない! 大丈夫!」


 何か力いっぱい言われた。

 そして、気持ち顔が赤いように見えた。本当はエーベルの髪の毛に触りたかったりしたのだろうか。

 女子の考えはアーディにわかるものではないのだ。


 エーベルは杜撰な手入れの癖に完璧に光り輝く髪をサラリと手で払った。


「めんどい」


 本気で切ってしまえとアーディは思った。

 そして、そのまま次の授業に突入する。またしても、授業にならなかった。


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