〈7〉仲良し五人組
エーベルの、取り巻けていない取り巻き衆五人組のうち三人は、アーディにタワーを崩されて痛い目に遭っていた。
タワー不参加の二人は、崩れるタワーを広い胸で受け止めるような度量はなく、サッと身を翻した。よって、今回ばかりは結束が崩壊気味である。
「と、友達なのにひどい!」
一番痛い目を見たのは、一番下敷きになったでっかいのだろう。
いや、それともサンドされた二番目の出っ歯だったか。
一度は木に飛び移ったものの、結局力尽きて落ちたちっさいのだったか。
太いのとメガネは明後日の方を向いていた。
「い、いや、でも僕たちじゃ支えきれないし……」
「じゃあ下敷きになってくれたらよかったんだよ! イステルならいいクッションになっただろ!」
ちっさいのが暴言を吐いた。
太いのは贅肉があるので、確かにクッションにはなっただろう。
「そ、そんなっ」
面倒くさいいざこざが発生した時、メガネは駆け去るアーディの背を見送っていた。
「なあ、一番悪いのはバーゼルトだ。僕らは誰も悪くない!」
そのひと言で皆が復活した。
「ほんとだ!」
「危うく我らの友情にヒビが入るところだった!」
「バーゼルトのヤツめ!」
これが当人の耳に入ったら――いや、聞き流しただろうから、どんな至近距離でもアーディの耳に入ることはなかったかもしれない。
メガネは一人冷静沈着を装い、つぶやく。
「バーゼルトのヤツ、妙に必死じゃないか? もしかして、あの手紙に返事をするつもりだとか」
「手紙をもらったら返事はするだろう? 礼儀だし」
「そうだけど、ラブレターだ。つき合ってくださいって言われて渡したとすると、ゴメンナサイかイイヨか、どっちの返事だ?」
「結構可愛いコだったけど、ヤツはレノ先輩のお気に入り……それから、エーベル様と毎日スキンシップ、そしてヴィルとも仲がいい。目の保養だらけのヤツがいきなりポッと出てきた一年生を選ぶか?」
皆して少し考えた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「なんか殺意が芽生える」
五人、うんうんとうなずき合う。
「これは邪魔をするしかないな!」
「そうだそうだ!」
「ヤツばっかり青春を謳歌させて堪るか!」
――というわけで五人は手短に計画を練ることにした。
「三人はあの手紙を追いかける。あとの二人はあの一年生の女子を突き止めてヤツの欠点を並べ立てる。これで行こう!」
「完璧だ!」
「よし、僕が一年生のところへ行く」
「僕も」
「僕も」
「僕も」
「僕も」
全員が手を挙げた。
「お前らが話しかけたって、『こんな素敵な先輩がいたなんて、わたしったら早まってしまったみたい』ってな展開にはならないんだよ!」
「じゃあ何か? お前、その出っ歯を隠したまま喋れるってのかぁっ?」
「別に僕はあの一年生に興味があるんじゃなし! バーゼルトのヤツが反撃してくるのが目に見えてるから追いかけたくないんじゃないし!」
「反撃してくるって、じゃあ友達行かすなよ!」
「もう! 時間がないってのに!」
仕方なく、五人は平和的な解決法――じゃんけんによって振り分けられた。
手紙を追うのは、でっかいの、太いの、メガネ。
一年生のところに行くのは、出っ歯、ちっさいの。
こうなったわけであるが、どう考えても追いつけるわけがない割り振りである。
「……まあ、とりあえず動こう」
五人はうなずき合って別れた。
追いつけなかったら蹴られないで済むからまあいいか、と三人はちょっとだけ思ったのである。
別れた五人は、何かあったら互いのせいにしようと心に決めた。