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〈3〉バカ

 一年生のクラスは、クラス・ソーンとクラス・ラドのふたつ。

 もし本当にレノーレの弟が来たのなら、次にレノーレと顔を合わせた時に何か言うだろうか。

 昼食時に食堂ですぐに会うと思った。

 そして、レノーレは、食堂へ来るなり浮かない顔をしていたのだ。


「なんだコレ? 体重を測ったらそんな顔になるくらい太ってたのカ?」


 エーベルがレノーレの憂鬱そうな顔に向けて言った。

 当然だがその発言が気に入らなかったらしく、レノーレはエーベルを長椅子の上に突き飛ばし、空いた場所――アーディの正面に座った。ピペルが笑いを噛み殺してニヤつている。


「どうした?」


 いつも朗らかなレノーレにしては様子がおかしい。アーディはとりあえず訊ねた。

 すると、レノーレはため息交じりに軽くうなずいた。


「あのね、一年生の中に弟がいたの」

「ああ、ヴィルがそれっぽいことを言ってた」


 やはり弟らしい。

 ちなみにヴィルは今日、女友達と向こうの方で昼食を取っている。ここにはいない。

 レノーレは整った顔をしかめて見せた。


「あたし、知らなかったのよ。入学式まで」

「内緒にして驚かせたかったですにゃん?」

「そう……だといいけど」


 レノーレの父親は領主だったはずだ。それなら、その弟は後継ぎなわけで、勉学に励まなくてはならないのは当然だ。そうなると、国内で最高学府であるこの学院に入学したのは自然な成り行きのように思える。


「貴族の子女は大多数がこの学院を選ぶだろう? 来ても不思議じゃないはずだ」


 アーディが言っても、レノーレは納得できないようだった。

 内緒にされたのが腹立たしいのかもしれない。


「このバカの時もそう。どいつもこいつも勝手に来るんだから」

「ばか?」


 エーベルがきょとんとした。

 彼が、馬鹿という言葉とはまったくもって無縁のはずの天才児であることは認めよう。

 それなのに、何故だか馬鹿と言ってやりたくなるのも事実なので不思議だ。

 レノーレはメトロノームほどに首を揺らしているエーベルを睨んだ。


「あんた、わかってる? ルッツはあんたのことを知っているのよ。いつペロッとバラすかわからないんだから」


 ルッツというのが弟の名らしい。


「ボクが天才美少年だってことは周知の事実だ」


 レノーレが机の下で拳を握りしめたのがわかった。殴りたい気持ちはよくわかる。


「あんたね、やっと二年生でしょ。あと三年あるのよ?」

「反省文をあと三回書けば学園生活は終わるぞ」


 そうしたら退学だ。ちなみにそれはアーディも同じではあるのだが。


「うにゃん? ボクは別に卒業したくてココに来たわけじゃないんだケド?」


 衝撃的な発言である。

 皆、卒業するために来ているのだから。

 アーディとレノーレが愕然としていても、エーベルはご機嫌でオムレツを頬張った。


「たのひへればそれれいいのら」


 遊びに来ているのと変わりない。

 しかし、こんなヤツに誰も勝てないのである。

 凡人には理解できない。ついでにいうと、したくもない。


 卒業できなかったらできなかったでいいやと思っているからこそ、エーベルにはなんの緊張感もないわけだ。納得したが、それに巻き込まれるとアーディまで卒業できなくなる。


 アーディは卒業できないと困る。

 家族に啖呵を切ってここに来たのだから、尻尾を巻いて帰りたくはない。


「ヤダ、あたしは卒業したいし。皆そうよ。問題起こすな」


 レノーレも理解できないらしく、身震いしている。アーディは彼女のマトモな感覚にほっとした。


「とにかく、ルッツには釘を刺しておくけど、あんたも気をつけなさいよ」


 気をつける――無理だな、とアーディは即座に思った。

 エーベルはなんにも気にせず、ただ好き勝手にそこに存在するのだから。


「いまうつれむお」

「コイツ……っ」


 そういえば、誰も幼少期のエーベルに関わろうとはしなかったところ、レノーレだけが違ったというようなことを言っていた。レノーレの弟は、悪の魔術師ツヴィーベルの子孫であるエーベルに寄りつかなかったのかもしれない。

 今後も極力関わりを持たないという方向でいてくれることを祈りたかった。


 ――しかし、この時、アーディはエーベルの心配をしている場合ではないことに気づいていなかった。

 アーディもまた、身バレしては困る自分であることを忘れていた。


 一年生の中に見知った顔がいたことを後日知ることになる。

 

レノーレは幼馴染なので、エーベルの発言の意味はちゃんとわかっております(*´ω`*)


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小説家になろう 勝手にランキング ありがとうございました! cont_access.php?citi_cont_id=952058683&s
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