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〈11〉試験日

 試験当日――。

 取り巻き連中五人は、朝から真っ青な顔をしていた。


「寝てないのか? 体調を整えるのも勉強と一緒くらい大事だって言っただろ」


 アーディが突っ込むと、五人とも頭をブルンブルン振ってみせた。


「ちゃんとベッドに入ったけど、寝れなかっただけだ!」

「そうだ! 我々はお前と違って繊細なんだ!」


 ブーブー言われたが、アーディだってエーベルに比べたらかなり繊細なつもりだ。


「やることはやってきたんだから、大丈夫。皆で二年生に上がれるように頑張ろうね」


 ヴィルがこのギスギスした空間を爽やかに塗り替えてくれる。

 エーベルはというと、席に着いて鼻歌を歌っていた。踊り出しそうなくらい機嫌がいい。テストが楽しみなのだろう。リズムに合わせてペダルようにピペルを踏むから、ピペルが今にもキレそうだ。確かにあれはうっとうしい。


「ああ、ありがとうな、ヴィル」


 ちっさいのが礼を言った。ヴィルには素直だ。

 出っ歯もうなずいた。


「もし誰かが落第しても、我々の友情は変わらないから」


 縁起でもないことを朝から言わない方がいいと思う。それを聞きつけた太いのが顔面蒼白になったから、顔がモッツァレラチーズにしか見えなくなった。


 ヴィルが慰めの言葉を探り当てる前に始業のチャイムが鳴った。



「皆、おはよう。今日は大事な進級試験の日だ。一年の成果をぶつけて無事に乗り切ってくれることを祈っているよ」


 ディルク先生もにこやかに激励してくれた。

 そうして、筆記試験は厳かに執り行われたのだ。


 ヤクシェの術式が最も有効な時期は――この問題が出た。あの連中も一問はちゃんと書けたと思いたい。その後はアーディも無心で問題を解き続けた。



 試験終了後の表情を見ると、できたともできなかったとも取れない。燃え尽きたのか、無の表情で座っている。五人、答え合わせをするのが嫌なのだろう。各自が大人しく机に座っていた。


 テスト中、ピペルは教室から閉め出される。この時だけはエーベルから解放されるのだ。どんなに喜んでいることだろうと思うけれど、多分この程度の時間は部屋の片づけでもしていたら終わってしまうのだ。終了のチャイムが鳴って、今頃愕然としていることだろう。


 続けて実技試験がまだある。

 これは廊下で行うとのことだ。一人が教室から出ていって戻ってきたら次の生徒が廊下に出るというふうに一人ずつ行うと。


 隣のクラスでも同じことをしているのだから、隣を見たらいいのかと言えば、廊下には即席の壁が出来上がっていた。先生が魔術で出したのか、分厚い石の壁だ。


 順番は、席順だった。右から順に始める。エーベルが中ほど、しばらくしてアーディ、その次にヴィルが行くことになる。ヴィルを見遣るととても緊張していた。


「こういう時はエーベルを見習ったらいい。あれくらい図太かったら絶対失敗しないから」


 アーディがボソリと言うと、ヴィルは気が抜けたように笑った。


「本当だね。ありがと、アーディ」


 エーベルの自然体はいついかなる時も崩れない。あのマイペースさは試験では重宝するだろう。私生活は別として。

 次々に実技試験を終えた生徒が教室に戻ってくる。エーベルも上機嫌で行って、戻ってきた。


 多分、グラスのデザインは変えずにこなしただろう。その後、持て余した力をピペルに向けるかもしれないが。


 アーディの番が来て廊下へ出ると、ディルク先生がニコニコと笑顔で待ち構えていた。


「バーゼルト君は成績優秀だから心配していないけど。さあ、始めよう」


 ディルク先生は机の上のグラスをカナヅチで叩いて割った。思ったより細かく砕かれていたが、アーディは難なくグラスを元通りにした。ディルク先生はグラスを確かめ、チェックボードにサラサラと成果を書き留める。


「うん、優良だ。おめでとう」

「ありがとうございます」


 淡々と返し、アーディは教室へ戻る。チラリと見た取り巻き連中は借りてきた猫のように大人しい。緊張するのも無理はないが。


 程なくしてヴィルも実技試験を受けに廊下へ出た。戻ってきた時の顔は落ち着いていたから、及第点以上は取れたのだろう。そのことにアーディもほっとする。

 けれど、自分以外に心配の種が五つ。全員が試験を終えるまで、ヴィルは気が休まらなかっただろう。


 終了のチャイムが鳴ると、クラス中の生徒が脱力した。


「や、やるだけのことはやったんだ。後は天に身を任せるのみ!」


 太いのが大げさなことを言っていた。

 今回は最下位にさえならなければいいのだ。ただし、二年生から三年生への進級はもっと難しいらしい。

 二年生ではもっと勉強しないと、三年生になった時にこの五人はいないかもしれない。

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