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〈1〉入学式

1章(12話)です。

 ここは世界の中心とも言える大国――イグナーツ王国。

 創世の頃より紡がれた歴史を持つ。そう語られるほどの大国を支えるのは、いつの時代も優秀な人材である。

 人材の育成にイグナーツ王国は力を入れて来た。まずは人あっての国なのだ。

 その最大の学び舎が、良家の子女が通う学園『アンスール』。


 アンスール学園は広大な国土の北、霊峰のそばに建設されていた。その敷地は小さな国ほどもある。川や森、豊かな自然を含む土地は、常に許可なき者を排斥する魔術で作り上げた防護壁に護られていた。良家の子女が集まる以上、警護は万全に保たれている。

 そうした場所で、礼儀作法から学問、武技、魔術、様々な分野を学ぶ。卒業生たちの多くは国の要職に就き、今も国を支えているのだ。


 就学は四年間。

 この四年間はほぼ学園の敷地から出ることはない。年に一度、年の瀬から年初めにかけてだけは許可が下りる、ただそれだけである。

 今年も多くの新入生が入学して来るのだ。


 さあ、今年の新入生はどんな子供たちだろうか――。



     ☆



 アンスール学園。

 それは建国して間もなく設けられた学びの園。由緒正しき家柄の子供たちが集う場所。

 今日は入学式なのだ。催事場に新入生は案内され、綺麗に並べられた椅子に座らされる。


 アーディ=バーゼルトはそんな新入生たちの中に埋もれていた。

 焦げ茶色の髪と瞳、十五歳という年齢に見合った身長と体型、醜くも美しくもない。要するに、ごくごく平凡な容姿をした少年である。もっと言うなら、地味なのである。

 ただ、アーディはそんな自分をよくわかっている。そのせいか、性格も淡々としていた。

 制服もいくつかパターンがあるのだが、選んだのは一番飾り気のないシンプルなもの。モーブグリーンのベストと白シャツにリボンタイ。下は編み上げブーツに黒地のパンツ。


 新入生の数は多くとも、アーディに特別な知り合いはいない。一人ぽつりと座っているだけであった。新生活に対する不安は今のところはない。

 ただ、ぽつりと座っている。

 自分から誰かに話しかけようとは思わなかった。話しかけるのではなく、こうして周囲の話し声を聞いている。新入生は良家の子女とはいえ、騒ぎたい盛りの子供たちだ。同い年の相手との会話は少しハメをはずしがちである。


「――さっき、ここまで案内してくれた先輩、すっげぇ可愛かったよな」

「ああ、スタイルもよかったし。名前、なんて言うのかな。まあ会えるかなぁ」


 ちなみにアーディはどんな女子生徒だったのか、まったく覚えていない。自分の容姿が十人並みなので、他人の容姿にも無頓着なのだ。

 うるさいと教員に注意され、男子生徒二人は肩を跳ね上げてから黙った。

 その時ふと、空いた椅子に目が行った。入学式だというのに来られなかった生徒がいるようだ。病欠だろうか。

 そんなことをアーディが考えていると、入学式は始まった。


 学園長のフォルカー=フライムートが朗々と語り出す。どこかに拡張機でもあるのか、しわがれた声がよく届いた。


「新入生の皆さん、ようこそアンスール学園へ。今日から四年間、ここは皆さんの家であり、共に学ぶ友人は家族でもあるのです。ここでの生活が今後の皆さんにとって掛け替えのないものとなりますように、我々も精一杯の協力をさせて頂きます――」


 藍鼠のローブが銀髪によく合う、気品のある立ち姿だ。顔に刻まれた皺のひとつひとつが優しげな印象を相手に抱かせる。

 学園長の言葉に真剣に聞き入っていたアーディは、学園長が退く時に周囲に倣って拍手で見送った。


 そこから、生徒会長とやらの演説になった。すっきり爽やかな容姿をした少年――少年と言ってしっくり来ない程度には青年になりかけではあるが。彼は女生徒から人気がありそうだ。現に新入生たちも憧憬の眼差しである。

 けれど、そんなものよりもアーディはあの空席のままの場所が気になっていた。何故かはわからない。



 そうして、新入生のクラスはふたつに分けられた。クラス・フェオとクラス・ウル――アーディはクラス・フェオに振り分けられた。

 クラス・フェオの担任はディルク=エッカートという短髪に丸眼鏡をちょこんとかけた童顔の男性教諭だ。

 ディルクは総勢四十人ほどの新入生を教室へ連れて行った。大きな黒板と規則正しく並んだ机。その机ひとつひとつに名前のカードが置かれている。みんなが自分の名前を探し出して席に着いた。


「はい、みなさん、これから仲良くがんばりましょうね」


 担任教諭はニコニコと人あたりよく笑っている。頼りなさげには見えるけれど、無難なタイプでアーディはほっとした。


 それから、一人ずつ自己紹介をしろと言われ、アーディも渋々立ち上がって挨拶をした。アピールポイントは特にない。まばらな拍手で締めくくられ、そうして再び席に着いたアーディは、あの空席にまた目が行った。その机の上のカードにはこう書かれていた。


 『エーベルハルト=シュレーゲル』と――。




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