あなたを求めたい。―悪役令嬢の内心―
C国のプリンスをPとする。
A国の悪役令嬢をaとする。
B国のビューティフルな令嬢をbとする。
食わせ者をQとする。
【問1】
三角形ABC大陸に現れた三角関係Pabの問題を解決せよ。
「点a、おまえとの婚約を破棄する。求めていた真実の解を見つけたのだ。俺は点bと聖三角形神殿で婚姻届にsinする!」
C国第一王子である点Pと、B国の姫である点bの距離が縮まります。
点bは美しい黒点だ。己の整った2πrで異性の目を引き付け、落としていった。そして、私の婚約者も彼女に絆されてしまったのだ。
「俺がおまえを呼び出したのには理由がある。点aは点bを陰でいじめていたそうだな。つい先日は階乗から突き落としたというではないか。優秀な医師が線対象しなければ、点bはdになっていたかもしれないのだぞ!」
「私には身に覚えありません。証拠はあるのですか?」
「点bがそう言ってるのだ。それで十分だろう!」
「不十分すぎますわ」
私は突っ込みますが、彼は聞く耳を持ちません。何を言っても無駄でした。一方的にののしられ続けます。
「……だから、俺はおまえとは婚姻できない!」
点Pは声を荒げます。
「しかし、私たちの婚約は、線AC同盟を締結する条件。簡単に破棄することなどできませんわ。同盟をないがしろにするなんて、点P様は計算がお望みなのかしら?」
点Pが点aから点bへ移動すれば――しかも、それがB国の者ともなれば、私の故郷であるA国も黙っていないでしょう。線ACの距離が求まるどころか、新たな計算が始まってしまう。
「今さら同盟など結ばなくともこの三角形ABCは平和だということは、誰でも知っている。婚約を破棄し同盟がなくなったからといって、民に計算するよう求めても承諾しないだろう」
「しかし、線ACがxのままでは……xが明らかにならなければ、三角形の内角を明確にできません。今はまだ良いかもしれませんが、いずれ混乱を招き、和が乱されてしまいます」
「しかし、そのために土地に点数をつけるのだろう? そもそも、神の作りたもうた大地に優劣をつけることは間違っている。行き過ぎた優劣は争いを生むものだ」
議論は加熱していきます。王子の言い分も分かるのですが、私と彼とでは思想がまるで異なるのです。その相違によって、いつもこうなってしまうのです。
「やめて、争わないで。争いは何も生まないわ。どのような三角形でも、平面の上にあれば内角の和は180です。変わらないのです。計算なんてやめて! 皆が手を取り合えば、計算などしなくても、分かりあえるすばらしい世界が待っているわ」
点bのお花畑な思考が飛び出します。
知能が育つ変わりに、2πrが育ってしまったのでしょうか。残念でなりません。
「俺のことを心配してくれたのか? 点bはやさしいな。皆が難しい関数に悩まされない国を一緒につくろう」
「すてき!」
聡明な彼も、恋の前では計算不能の無限大になってしまうのでしょうか。情けない話です。
「点a、おまえがしたことは許されざることだ。しかし、点bは広い心で許すといった。次に何かあれば、婚約の破棄だけでは済まないぞ!」
「は、はぁ……」
二人の脳内では、愛し合う二人の方程式が組みあがっているようです。
「視界に入るのも不愉解だ。用は済んだ、早く消え失せろ!」
点Pが叫びます。
――その時、誰かが部屋の入ってきました。
いくら人気のない放課後の教室といっても、まったく人がいないわけではないのです。
しかも点Pの声はいちいち大きいので、これだけ騒いでいれば、誰かが来てしまっても仕方がないことです。
「おやおや、こんなところで修羅場かい?」
どこの国にも属さない点Qが颯爽と現れました。彼は外心をさすらう放浪の王だ。彼は多くの耳を持ち、王侯貴族からの信頼も厚い、敵に回したくない者だ。
「よりにもよって……なんであなたが」
ああ、問題がややこしくなること間違いないでしょう。点Qが現れて、ことが簡単に済んだことはないのです。
「同盟をないがしろにするなんて、点P様はよっぽどP´になりたいとみえる」
点Qが恐ろしいことを言います。
「P´だと。第一王子の俺がそんなことになるわけがない」
「いえいえ、王子の変わりなど、いくらでもいるものなのですよ。――わたくしはあるがままを報告しなければならない。特に点b姫、無実の人間を裁き、陥れること。模範であるべき貴族であるあなたのした行動は、法と方程式に守られた国家の因数分解を引き起こしかねない行動だ。糾弾は覚悟なさい」
点Qは不気味に笑います。
その天使のような微笑みに、点Pと点bは顔を青くして震えるばかりでした。
「さ、点a様。館までお送りします。参りましょう」
私は点Qに促され教室を後にしました。
結局、私の婚約話は白紙提出になりました。計算が始まることこそ避けられましたが、三角関数は不安定になりました。同盟の話は消えたも同然です。
点Pの点aから点bへの移動による三角関係Pab。その修羅場に乱入した点Q。
その結果、点PはP´となり辺境送り。点bは重心へ行き、神へ祈る者として「|」を着ることを許されない単なる点Oとなりました。
こじれた三角形ABCの国際問題はどうなってしまうのでしょうか。
私は、ただただこの難問を解決できる解答者が現れることを願うばかりです。
点bが点O(お祈りする人)になって、bの時よりも2πrが大きくなっていくのは、また別の話。