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レイ視点(2/2)
そんな時、突然、叫ぶような声が聞こえた。
「レーディアス様!なにをなさっているのですか!!」
声のした後方を振り返れば、レ―ディアスと同じような騎士の服装をした女性がこちらに向かって来ていた。真っ直ぐな黒髪をボブで切りそろえ、キリリとした顔立ち。きつめの顔立ちの美人だと感じる。
「ミーシャ」
レ―ディアスのたしなめるような声色も、ミーシャと呼ばれた女性の耳には届かない。
私の目前まで来ると、指を差して糾弾を始めた。
「そこの女!!誰に何をやらせているのか、わかっているのか!!」
「は?ただ手伝ってもらっていただけよ」
いきなりわめかれて、思わずムッとしてしまった私は即答する。
「恐れ多くも、レ―ディアス様は、王宮に仕える騎士を束ねる、騎士団長なるぞ!!騎士団長ともあろうお方に、このような作業をさせるなど、お前は自分の犯した過ちに気付いているのか?」
「はぁ……」
何度も言うが、私はこの世界に来て三年だ。接してきた人は村人だけだし、私の行動範囲はこの村だけ。
そんな私に王宮の騎士団長といわれても、いまいちピンとこない。しかし、凄いレベルだということだけは、解った。うん、王宮騎士団長凄い、凄い。……多分凄いのだろう、この女性の剣幕からいって。
「貴様のそのふてぶてしい態度。お優しいレーディアス様に付け入り、このようなことをさせて……」
ミーシャと呼ばれた女性は、怒り心頭といった様子で、拳を握りしめ、ふるふると震えている。
そんなこと言われても、手伝うってあっちから言ってきたし。私はその申し出を、ありがたく受け取っただけだし。思わず不満顔になってしまう。
「ミーシャ、これは私が望んでやっていることだ」
その時、見かねたレ―ディアスが声をかけた。
「しかし!!」
当の本人がいいって言ってるんだからさ、別にいいじゃんかー。めんどくさいこと言わないでよ。
しかし、彼女の中で納得できないらしい。レ―ディアスは尚も続けた。
「この作業は、私にとって初めてだ。このように己の知らない初の体験をするということは、人として大きく成長するのだ」
「レーディアス様……」
ミーシャは恍惚とした表情で、レ―ディアスを見上げていた。
あのー、もしもし。ただのジャガイモ堀りですよ?そんなことぐらいで、そこまで感動なさらなくても……。むしろ邪魔ですから、あっちでやっていただけませんかね?面倒なことになるぐらいなら、お手伝いは結構ですから。レ―ディアスもろとも、退散願いたい。
「ミーシャは村長宅に戻り、荷物をまとめてくれ」
「はい!!」
レ―ディアスが指示を出すと、ミーシャと呼ばれた女性は敬礼をし、勢いよく村長宅にかけて行った。私はその後ろ姿を呆然と見送る。
「何あれ……」
「気を悪くさせて、すみません」
「別にいいけど……。あの人、あなたのこと好きなのね」
いや、好きというより、陶酔していると言った感じだろうか。このレ―ディアスのどこかに、そんな魅力があるのかと、横目で見た。
確かに女性と見間違うほど綺麗な整った顔の造り。切れ長めの瞳を涼しげに細めて私を見ている。
私の視線を受け止めて、静かに笑うところを見ていると、自分に見惚れる女性が多くいると、気付いているのだろう。
こりゃ、相当慣れてるな。
やっぱりこの男は危険だと感じた。メグによーく言って聞かせよう。ただでさえ、ぼやぼやしているのだから、この手の何を考えているのか、よくわからんタイプの男に狙われでもしたら大変だ。丸顔で目がくりくりとして可愛い童顔のメグは、この手の男に狙われでもしたら、それこそイチコロだろう。まさにチョロイ。
そうならないためにも、メグとレ―ディアスが二人っきりになるのを、なるべく避けなくては。
私の監視の目を光らせておかないと。
レ―ディアスの新緑の瞳と、しばし見つめ合った。隣に並んで見上げている姿勢なので、改めて背も高いのだと感じた。
「あなたはどうなのですか?」
「へ?」
そんな時、急に話の矛先を向けられて、私は素っ頓狂な声を出す。
「――あなたには、そういったお相手はいるのですか?」
「私?」
レ―ディアスの視線を不思議な気持ちで受け止める。私の色恋など聞いてどうするというのだ。特に出会いもなければ、それを寂しいとも思わず過ごしていたが。
風が吹いて頬をさする。レ―ディアスの涼しげな目元から放たれる熱い視線を感じて、私は口を開く。
「ひみつ」
そう、言う義理もないし。だいたい関係ないでしょ。そんな相手がいないと宣言するのが悔しいからとか、言うなかれ。
この話題に、これ以上踏み込む必要はないと判断する。お綺麗な顔をして、私を見つめるレ―ディアスに背を向けた。
「ほらほら。手を動かして」
時間が限られているのだから、無駄話している時間はなし。そう判断して、レ―ディアスに指示を出しながら、私は残りのイモを全て掘るべく奮闘した。
最後には、服が泥まみれになったけど、全て終えると清々しい達成感があった。
「あー、終わったね」
「終わりましたね」
私達が掘り出したイモは、大きなカゴ三つ分にもなった。そして、私は背筋を伸ばしたあと、腰をさすった。
「変な姿勢だったから、腰が痛いわね」
「中腰でしたので、さすがに疲れましたね」
見ればレ―ディアスの服は、裾の部分が泥だらけになっていた。これには少し見直した。軽い気持ちで手伝ってくれたのかと思ったけど、服が汚れるのが気にしないで付き合ってくれたんだ。
「でも、ありがとう。すごく助かったわ。なかなかやるじゃない!」
そう言って何気にメグにするみたいに、レ―ディアスの背中をバンと叩いた。その瞬間、ハッと我にかえる。私は何を気安い態度を取っているのだろう。それに何より――
「……あ、ごめん、レ―ディアス」
「どうかしましたか?」
私は声のトーンを落とした。
「背中に、泥の手形がついてしまったわ」
そう言った時のレ―ディアスは一瞬目を丸くした後、珍しいことに声を出して笑った。
**
そうしてあっと言う間の準備期間の三日は過ぎた。荷物をまとめ、村の皆に挨拶をしてまわる。
「では、お世話になりました。行ってきますね」
「すぐ帰って来るから、それまでの間、よろしくお願いします」
出発の日、不覚にも涙が出そうだった。すぐ帰ってくるのに、私としたことが、なんて涙もろいんだ。こんなことじゃ、いけない。メグが不安になるじゃないか。自分自身を叱咤しながら、メグの手を取った。
「行くよ、メグ!王都で王子にほんの少しの時間だけ顔合わせして、『お前じゃない』って言われて帰ってこよう!!」
「レイちゃんったら……」
そこで私は、隣にいるレ―ディアスに向き合った。
「これでいいんでしょ?」
「――ええ」
微笑んだあと、ゆっくりと頷いたレーディアス。あれから三日間、なんだかんだといって私の側にいるこの人が、少し面倒だった。
私がいつからこの村にいるのかなど、いろいろ聞いてきたので、よほど私の魔力に興味があるのかもしれない。年齢から食の好みまで、そこまで必要なのかと思うほど。
本当はそれは口実で、実は逃げないように見張っているのかな、とも思った。まあ、メグと二人でいられるより、私の側にいてもらった方が、目が行き届くから、いいのか?
その後方で、常に私を睨むミーシャの存在は無視をしていた。
「土産は元気な姿と、都会で流行っている帽子を買ってきておくれ」
「もー村長ったら、ラビラの皮で作った帽子ね。はいはい、解ったから」
ラビラという動物がいて、その皮で作ったおしゃれな帽子が王都では、流行っているらしい。
とは言っても、一年前に流れの行商が言っていたので、今は廃れているだろうな。
けど村長は、それをずっと言い続けているので、よほど欲しいに違いない。よし、絶対土産にして持って帰ろう。
「確かに村長の頭は薄くて寒いだろうしね」
「レ、レイちゃん……!」
正直に口にすればメグが焦ったのか、私の袖口を引っ張る。そして私は続けた。
「では、いざ行かん!!王都への観光の旅へ!!」
背後ですかさずミーシャの「それは違うだろう!!」というツッコミは無視をした。




