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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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エピローグ

*メグ&レイ

今日はレイちゃんとヘボン村に帰ってきた。


「村長、これおみやげ。それに村の皆にも」


そう言ってレイちゃんは大きな袋を村長の目の前に、ずいと差し出した。中に入っているのは大量の火打石。それを村長は、にこにこ顔で受け取った。そして村長の頭には、レイちゃんからのお土産の、ラビラの帽子がフィットしていた。


「村長、その帽子、似合っているよ」

「そうかの」

「うん。寂しい頭皮も隠せるし!!」


またレイちゃんてば、口が悪いんだから。それをにこにこと笑って受け止めている村長もどうかと思うけれどね。


「じゃー、村長!しばらく村に滞在するからよろしくね!村の皆にも後で挨拶にまわるわ」

「おお、皆喜ぶじゃろう」


挨拶をしたあと、すぐに私達は家へ戻る。私が掃除をしている間、レイちゃんは畑へ収穫しに行くことになった。


「人が住んでいないけど、埃ってたまるなぁ」


私はひとりごとを呟くと早速、家の窓を全部開け、換気をする。湿った空気の家の中に、新しい風が入りこむ。

家の裏手にある井戸から水を汲み、部屋の中を掃除する。それから私は晴れた空の下、シーツを干す。お日様の下、適度な風が吹き、あっという間に洗濯物が乾くだろう。

忙しく動き回っていると、レイちゃんが帰ってきたみたいだ。


「ただいまメグ!!収穫あったよー!!甘酸っぱいパルムの実!これ食べて、ちょっと休憩しようよー!」

「うん、こっちも洗濯が終わったから、ちょっとお茶でも飲もうか」


そうして私はレイちゃんお手製の火打石をかまどに投げ入れると、あっという間に火がついた。お湯を沸かしお茶を入れると、木製の椅子に腰かけ、バルムの実を口にする。


「ああ、やっぱり、この場所がすっごく落ち着くね」

「うんレイちゃん、私もそう思う」


レーディアスさんに連れられて王都へ行った私達だけど、実はまだ王都で暮らしていた。

レイちゃんだって騎士団に所属しているし、私だって……ね。

だけど暇を見つけては、こうやって村に帰ってきていた。そうそれは、別荘みたいな感覚だ。


「だけど殿下も、メグがここに来るのを、よく許してくれるよね」

「うん、最初は渋っていたけど、お願いしたら、許可をくれたよ」

「甘々じゃない。貴重な転移石を簡単にくれちゃって。まぁ、おかげで簡単に、ここに戻って来れるんだけどね」


転移石という魔力が込められた石を使うと、一瞬で移動できる。それを使って、村へ戻ってきていたのだ。

その石は高価な物だって、後から人づてに聞いたのだけど……


「その転移石だけど、アーシュにお願いしたら、たくさん作ってくれたよ」


そう、私がアーシュに『荷物もあるし、お世話になった人にも挨拶もしたいし、一度は村に帰りたい』

と言ったら、最初は渋い顔を見せた。どうやら村に戻ったまま、王都へ帰ってこない心配をしているらしかった。

その反応にシュンと気落ちしていたら、ある日いきなりアーシュが、『これやる。いつでも作ってやるから、好きな時に帰っていいぞ。ただし、必ず帰ってこいよ』そう条件を付けたあと、大量の転移石をくれた。つまりは許可が出たのだ。


「出たよ、この天然小悪魔ちゃん。いけいけ、その調子で、殿下を操ってしまえ」


声を出して豪快に笑うレイちゃんだけど、私の方も聞きたいことがある。


「で、レイちゃんはどうなの?」

「ん、何が?」

「レーディアスさんと」

「そ、そうだね、まあ、ぼちぼち」


レイちゃんは、あまり自分からレーディアスさんについて話さない。だけどその反応は、まんざらでもないと思うんだ。レーディアスさんの猛アタックを受けていると、もっぱらの評判だし。


「でも、レーディアスさんこそ、よく許してくれたね。ここに来ること」

「ん、大丈夫」


頻繁にここに帰ってくるから、あまりよく思っていないかと思ったけど、どうやら違うらしい。レーディアスさんも、レイちゃんの自由を認めているみたいだ。


「レーディアスに、言ってないから」


ケロッと爆弾発言をしたレイちゃんに、思わず口に含んだお茶を噴き出しそうになった。


「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫。それに彼に言った方が大変になるから」


私の不安を悟ったレイちゃんが口を開いた。


「だって、あまりこの村に帰ってくると、『私といるより村の方が楽しいですか?』とか『もしや村に好きな人でもいるのですか?』とか、煩いんだもん。この村に好きな人って、誰のことを言っているのかしら。もしかして村長との関係を疑っているの?これらの点を踏まえて、レーディアスには言っていない、以上!!」


そう言いきったレイちゃんに、私の方が不安になる。


「心配してるんじゃない?」

「大丈夫、メモは残してきた」

「な、なんて……?」


堂々と言い張るレイちゃんだけど、逆に私は不安になってたずねる。


「『出かけます。ついて来ないで。そして探さないで』そう、簡潔に書いてきた」


嫌な予感が的中した!


「レ、レイちゃーん!それは今頃必死になって、レイちゃんを探していると思うよ」

「大丈夫。私が出かけるなら、ここしかないと知ってるよ」


まあ、それはそうなんだけどさ……。

そんな話をしながらも、私達はお茶を囲みながら、ノンビリしていた。その矢先、外で物音がした。そして人の気配を感じる。レイちゃんもそれに気づいたらしく、大きくため息をついた。


「思ったより、早かったわね」


そう言いながら、外へ続く扉へと手をかけた。それを開いた先にいたのは、美麗な顔を歪めて立つレーディアスさんだった。


「レイ……。探しましたよ」


眉根を寄せて、苦渋の表情を浮かべるレーディアスさんは、最初に出会った時よりも、ずいぶん感情を表に出すようになった。それもレイちゃんの影響なのかもしれない。


「早っ!!もう来たの?」

「早くありません。まったく、なぜこうも心配かけますか」

「だって、言ったら言ったで、うるさいもん」

「しかもいきなり手紙一つでいなくなるなんて、心配だからやめて下さい。きちんと顔を見てから行って下さい」

「もー心配症だな」

「誰のせいだと思っていますか?」

「そんなに小さなことで悩んでると、将来村長みたいな頭になるよ」


そう言いあいしながらも、レーディアスさんはレイちゃんに会えて、あきらかにホッとして幸せそうだ。

レイちゃんを大好きだという感情が、彼の態度から溢れんばかりに漏れている。

もうちょっと前までは、それでも隠していたようだけど、いまでは完全に吹っ切れたみたいだ。

周囲に隠すことなく、堂々とアピールしている。稀代のモテ男様は、レイちゃんを溺愛しているのだ。

そんな二人をこっそり観察する。


ああ、レーディアスさんに、レイちゃんをお願いしちゃっても、いいのかな。

彼ならきっと嫌だと言われても、レイちゃんを守るだろう。


この村に来てずっと一緒だったレイちゃん。何をするにも一緒で、お互いが一番大切な存在だった。

だけど、他にも大切な存在が増えても構わないよね。それはそれで幸せなことだよね。

ちょっぴり寂しいけれど、私がレイちゃんに向ける気持ちは変わらない。もちろんレイちゃんから、私に向けられる感情も変わらないだろう。なぜか無条件にそう思えた。


一人で感慨に浸っていると、


「おい!メグ!!」


窓の外から聞こえた声に、驚いて振り返る。


「アーシュ!?どうしたの?」


なぜ彼までここにいるのだろう。私はレイちゃんと違って、ちゃんと行先を告げてから来たのに。

私の疑問を感じ取った彼が口を開く。


「レーディアスがレイがいないって騒ぐからな、転移石を一つやったんだよ」

「じゃあ、アーシュはどうしたの?私がここに来ることは、ちゃんと言ったでしょ?」

「そっ、それはレーディアスが心配だっていうからだなぁ、俺もしょうがないからついて来てやったんだよ」


どこか歯切れの悪いアーシュに向かって、レーディアスさんが振り返る。


「アーシュレイド殿下はこの村に、来たくて来たくてしょうがなかったのですよ。それなのに一向にご招待を受けないので、拗ねていらしたのです。今回は私についてくるという名目で、やっとここに来られたわけです」

「そこ!余計な解説いらないから!」


アーシュが真っ赤になって、レーディアスさんに叫んでいる。

私とレイちゃんの二人だと、そこそこ広く感じたこの部屋の空間も、男二人が増えただけで、手狭に感じる。そう感じた私は一つ提案を出した。


「じゃあ、今日は天気もいいし、皆で外でお茶しようか?」

「いいね、メグ。風も気持ちいいし。賛成」


そうして私達は外に敷物を広げる。

晴れた空の下、皆でお茶を囲む。お茶の葉っぱは、一年前に畑で採れたリィボナの葉。乾燥させて瓶につめておいたのがあって、助かった。

温かいお茶を飲むと、心がホッとする。そして、自然の大地が広がる周囲をのんびりと見渡す。


ああ、やっぱり私はレイちゃんと過ごしたこの村が、大好きだ。


この場所は私とレイちゃんの『隠れ家』てきな感じで過ごす。私とレイちゃんで、相談して決めた結果だ。

レイちゃんは村長と話をつけ、『村民全員の火打石をレイちゃんが一生用意する』という家賃のもと、貸して貰えることになった。


今すぐにこの村に戻って来るのは無理だと解っている。

だけどいつか、歳を取ったその時に、ここに移住してレイちゃんと自給自足の生活を送るのも、素敵なことじゃないかしら。

レイちゃんに提案すると、それいいね、ってすぐにのってくれた。


私はそんな未来を夢見て、ちょっぴり微笑んだ。




****レイ*****



メグと並んで見る風景。

広大な敷地に、緑が広がる、私達の庭。

ほら、鶏のコケ子と牛のモーモーも、外に放牧されて、太陽の下伸び伸びと遊んでいる。


ここは私とメグとの出発点。辛いときは愚痴りながら、楽しい時は笑って、ずっとこの風景を見て、共に過ごしてきた。やっぱり、この村が大好きだ。


この村に戻るのも、今すぐには無理だと解っている。何より殿下がメグを離すわけがない。

周囲の人間も、メグが殿下の魔力ストッパーだと認識しているらしく、王妃様を筆頭にメグと殿下がくっつけムードだ。

私は私で騎士団に入団して日も浅いし、何よりレーディアスにいつかは勝つッッ!

だからそれまでは、王都で暮らすよ。

だけどね――


「いつかまた、ここに戻ってこようね、メグ」


私がメグに笑いかけると、可愛らしい丸顔に声を出して笑うメグ。


「……そこになぜ、私の名前がないのですか、レイ」


そして横から不満気な声と、冷ややかな視線を投げるレーディアス。


「じゃあ、俺も俺も!!」


横から殿下も口を挟むけれど、殿下が隠居するのって、いつになるのかしら。それこそ村長ぐらいの年齢になるんじゃないの?

でもまあ……人数が増えても賑やかになって、ちょうどいいのかな。メグがいるなら、もれなくセットで殿下もついてくるだろうし。


まあ、そんな殿下に、今から重大な注意点を伝えておこう――


「あ、殿下に一つ大事なことを言っておくわ。あのね、畑にいるミミズにイタズラしてかけると――」

「レイ!その先は結構です。男同士なので、私から殿下にお伝えしておきます」


私の説明を焦ったように遮るレーディアスと、


「ん?なんだ?ミミズに何をすると悪いんだ??」


不思議そうな声を出す殿下を見て、私とメグは顔を見合わせて笑う。


最近では、王都での暮らしも慣れてきた。

だけど時折、ふっとこの村に帰ってきたくなる時がある。

ここヘボン村は、優しい村長と穏やかな住民たち。

そんな人達に囲まれていると、心の疲れも取れて癒される日々だ。

それはまるで生まれ故郷に帰るような、そんな感覚。ここは私達の安らぎの場。


「ねえ、メグ。王都に戻っても、私達はずっと一緒だよね」


ちょっと恥ずかしい台詞を吐けば、メグも真顔で答えてくれる。


「うん、これからもよろしくね、レイちゃん」


メグが差し出した手を、私はギュッと強く握り締めた。


「こちらこそよろしくね、メグ」


そして私達は、この先も続く素敵な未来を想像すると、二人で顔を見合わせて微笑んだ。

Fin

お読みいただき、ありがとうございました。

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[良い点] レイとレーディアスの勝負を含めた掛け合いとメグとアーシュレイド王子の初々しいやりとりは見ていて楽しいです!
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