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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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メグ&レイ視点

「ミランダさん、こっちは虫よけネット張りましたよ」

「ありがとう。じゃあ、少し休憩しましょうかしらね、メグさん」


私は早朝から、王妃様――ミランダさんの温室に籠り、ガーデニングを楽しんでいた。

二人で大きなエプロンを着用して、土をいじる。

愛情を込めた分だけ育ってくれるハーブ達は、見ているだけでとても癒される。

それがここ最近の日課でもある。

正直、王都に来てまで、こんな土いじりをする機会があるだなんて、嬉しくてたまらない。


しかもミランダさんは喜んで作業をする私に、温室の一角のスペースを自由に使っていいと言ってくれたのだ。もちろん喜んでスペースを借りて、私好みの花やハーブを栽培し、今に至っている。


「考えたんですけど、今度市場へ出荷してみませんか?こんなにたくさんあるし、世間に、ハーブの良さを知ってもらいたいですよね」

「それもいいわね。今度誰かに聞いてみるわ」


楽しい計画を口にしていた私達の耳に、鍵の開く音が聞こえた。そして粗野とも思える足音が聞こえてくる。


「メグ、またここにいたのか!」

「アーシュ。今日の訓練は?」

「休憩時間だ」


こうやって温室にいると、必ずと言ってもいいほど、アーシュがやってくる。他愛もない会話をしていると、ミランダさんが咳払いをした。


「あらあら。息子の目には、私は映っていないのかしら?」

「そ、そんなことはッ……!!」


そう言われた途端、真っ赤になって狼狽えるアーシュを見て、声を出して笑うミランダさんは、とても美しい。


「じゃあ、私は先に作業に戻るからね。メグさんとお話したあとは、あなたも頑張るのよ、アーシュ」


ミランダさんはそう告げると、温室の奥の方へと移動した。


「お前、最近母上とばっかり仲良しだな」


そんな私に、アーシュは少し面白くなさそうに呟く。まるで子供のように口を尖らせる彼を見て、私はクスリと笑って告げた。


「あのね、ミランダさんがハーブを好んで植える理由を知ってる?」

「……いや?」


首を横に振った彼を見て、私はたまらず教えてあげた。


「ハーブには、人の心を癒す作用があるの。だから、少しでもアーシュの心が落ち着くようにと願ってハーブ栽培を始めたんだって。毎朝、アーシュが飲んでいるハーブティーは、ミランダさんお手製よ」

「……知らなかった」


そう、これはこっそりミランダさんが私に教えてくれたこと。


『破壊の王子』と異名をつけられるほど、感情が激しくて魔力の制御できなかった息子に、なんとかできることはないかと考えた一つが、ハーブで心を少しでも鎮めようという策だった。

周囲からは、くだらない、意味のない、と言われたこともあったけれど、彼女はやめなかったらしい。

そして結局のところ、はまってしまったらしかったけれど、このハーブの温室は、いわば親心だ。

こっそりそう告げると、アーシュは少し照れたように鼻先をかいた。

そしてポツリと呟いた。


「昔な、それこそ『体に良いから食べなさい』と言われて出された母の手料理が、いろんな葉っぱがごちゃ混ぜになった一品でな、あれは料理と言える品物じゃなかった」

「……」

「なにかの隠し味なんてもんじゃなくてな、あれは葉の料理だ。その味がお互いを主張しあって、見事な破壊力だった。母の目には、俺が虫に見えているんじゃないかと、疑ったほどだ」


そう言えばミランダさんが、以前言っていた。


『料理は苦手なの』って――

だが、破壊の王子に破壊の料理。シャレにならない強さだわ。


「それ以来、料理で出されることはなくなったが、俺の部屋には常にハーブが飾られているな。その効果だけじゃないとは思うが、俺は最近、魔力の暴走をしないし、物も破壊していない」


そう言って自身の手を強く握り締めたアーシュは、強い決意を秘めているように見えた。

人にはそれぞれ得意とすることがあって、もちろん苦手なことだってある。だけど短所は長所で補えるようになることが、まずは目標かしら。


「母のハーブもそうだが……何より俺は、お前に出会った時から、風向きが変わってきた気がする」


アーシュがいきなりそんなことを言いだしたので、私も頬が真っ赤になって熱い。

この人は時折、こっちが赤くなるようなことを平気で口にする。


「俺はもう、破壊の王子と、呼ばれることのないよう努力する。この力を守るべき力に変える。俺は自分の持つ力から逃げない」


彼は今までの自分とは変わろうとしている。それはとてもいい変化の兆しだと思う。


「そう。じゃあ、まずはね――」


目の前に立つ彼に、私は微笑みかける。出会った時より、少し大人びて見えるのは気のせいではないだろう。


「火打石を作らないとね、たくさん」

「またそれかよ!!お前それ、好きだな」


そう言ったあと、アーシュと私は、声を出して笑った。




****レイ****




「勝負よ、レーディアス」


私は勢いよく扉を開け、レーディアスの部屋に顔を出す。レーディアスはそんな私を見て、にこやかに笑うと、持っているペンを机に置いた。

そして練習用の剣を片手に、立ち上がった。


「いつでも受けて立ちますが、私が勝ったら、膝枕してもらいますから」

「……くっ……!!いいわ」


そうよ、負けず嫌いの私は、レーディアスに勝つまで勝負を挑んでやる。

今では十日、いや、五日に一度は戦いを挑んでいる。


「次こそは、絶対勝つ!!」


意気込む私にレーディアスは、


「本当の勝負では、とっくにあなたに負けていますよ」


いつもそう言って笑う。そして次に大きなため息を落とす。


「あなたが私に勝った時点で、もう私は用無しとみなされそうです。そして次なる相手を求めて、私のもとから飛び出すような気がしてなりません」

「それは考えすぎだって!!」


いつからかレーディアスは、こんな後ろ向きな言葉を吐くようになった。


「ですから私は負けられません。もっと強くあらねばなりません」

「そんなこといったって、今でも負け知らずじゃない!」


そう、いまのところ私の完敗。彼が本気を出せば、私は到底敵わない。

それが腹が立つほど悔しくて、時折叫びたくなる、だけどちょっと楽しい――


「では、レイ。このまま私が50勝連勝したら、次なる段階へと進んでもいいでしょうか?」

「次なる段階……?」


レーディアスの言葉に首を傾げる私。そんな私に彼はにっこりと、そしてうっとりと極上の、誰もが蕩けるような笑みを浮かべた。


「ええ、毎朝、手を繋いで庭園を散歩するという特権です」

「断る!!」


即答で返事をすると、


「それは、自信がないということですね」

「くっ……!!じゃあ、受けてたつわ!」


ここで引いては、自信がないと認めているようで、悔しいじゃない。それに50勝の前に、私が勝てばいいだけだしね!

そう意気込んで叫ぶと、


「ああ。私はあなたに、ますます負けられなくなりました」

「次に勝つのは私だから!」


指を突きつけ、高らかな声で宣言したのを聞いたレーディアスは、すごく嬉しそうな顔で笑った。

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