表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/49

45*

*レイ視点

あの決闘から三日が過ぎた。


私は、体を休めるようにと言い渡され、お休み中だ。それが何よりも助かっている。

だって恥ずかしくて騎士団の皆に、顔を会わせられない。なにより、レーディアス本人とが一番きまずい。

大勢の観客が見守る中、求愛されたんだから。


いきなりだったので心の準備が正直、まったくなかった。

そもそもレーディアスが私のことを好きだってことは、全然気づかなかった。


だけど今考えれば、全部納得がいく。

私が彼の為を思って婚約解消を言い渡した時、あんなに不機嫌だった理由は、これだったんだ。


……傷つけちゃったのかな。そう思うと、途端に罪悪感が出てくる。


いやいや、でもでも、だからっていきなり口づけは、ないわー。ありゃ引くわー。

そもそも、もっと態度で示しなさいよ、全然気づかなかったわよ。

部屋で一人、籠っているとノックがする。それと共に嫌な予感。


「レーディアス様がお呼びです」


ああ、ついにきたご対面の時間。

だけど、いつまでも逃げていてはいけないわ。そう、ここは意を決して対面する時なのよ。逃げて解決する問題でもないし。私は自分にそう言い聞かせて、扉の向こうに声をかけた。


「今、行きます」


**


「失礼します」


レーディアスの部屋の扉をノックすること三回で、扉向こうから低い声が聞こえた。私は意を決して入室すると、レーディアスは窓辺に立ち、外を眺めていた。

私が部屋に入ってくると、ゆっくりと顔を向けた。相変らず整った顔をしているが、少しだけ眉間に皺が寄っている。


「なぜ、部屋に籠っているのですか?」


いきなりの直球に、言葉にぐっと詰まる。


「それは……」


レーディアスに会うのが気まずかったからだよ!そう伝えたいけれど、言えるものか。


「どこか体調でも悪いのですか?」

「それは大丈夫」


そう答えた瞬間、レーディアスが安堵のため息をついた。


「それは良かった。あの決闘で、もしや体を痛めたのかと、心配でならなかった。やはり自分のやり方が悪かったのだと、深く反省をしていました」


レーディアスに心配かけていたんだと思い、申し訳なくなった私は努めて明るい声を出した。


「体は全然大丈夫。しかし、レーディアス強いね、さすが」


向き合ったレーディアスの瞳を見つめ、私は力強く語った。


「やっぱり騎士団長なだけあるわ。今回の件で、どれだけ自分がうぬぼれていたのか、よくわかったわ」


そう、力じゃ到底敵わないと実感した。


「あの剣裁きをまともに受けていたら、私の骨が粉砕されていたわね、きっと」


それも恐ろしいぐらいに、粉々だったに違いない。ふりかけ状態だわ。

私ももっと訓練しないとな。自主練習の時間を増やすか。そう心の中で検討していると、低い声が聞こえた。


「それよりも、あの時の返事を聞きたい」

「え?」

「言ったはずです。私を一人の男として見て欲しいと」


真剣に見つめられ、それまで決闘について熱く語っていた私は、我にかえる。


「本当は、あの無理矢理口づけをした時、このまま本物の婚約者になって欲しいと告げようとしたのです。それなのにあなたは、婚約を解消して欲しいと言ったので、頭に血がのぼり、ついカッとなりました。今では深く反省しています」

「あれは……」


だからレーディアスは、あんなに不機嫌になったのだと、今なら解る。


「例え、ドレスや宝石を贈っても、あなたの心には響かない。だとすれば、力を見せて惹きつけなければ、私には興味も持たないでしょう」


レーディアスが若干、自嘲気味にそう語る。そして一度机の方まで戻ると、白い花束を取り出した。


「あ、サラディ」


思わず白い花の名前を口にした私だったけれど、部屋に入った時に感じた甘い香りは、この花束から香っていたんだ。

レーディアスは私の目の前に、その花束を差し出した。


「この花を好きだとお聞きしました。あとは体を動かすことと、甘い焼き菓子も好んで食べていると、屋敷の者から聞いています。そしてメグさんのことは、とても好きだ。――あなたが好むものの中に、私も入れて頂けませんか」

「ええ……っと」


部屋に漂い始めた甘い空気は花束のせい?違う、絶対にそれだけじゃないはず。

困惑する私に、なおもレーディアスはたたみかける。


「考えられませんか、私とでは」

「そ、そういうことではなくて……」


彼に真正面から見つめられ、私はさらに動揺する。男として意識しているかと聞かれれば、男だと思う。……手もでかいしな!


「あなた相手に回りくどい手は通用しない。だからそのまま伝えます、何度でも」

「な、なにを?」


つい腰が引けてしまうのは、レーディアスが放つ雰囲気、それが部屋中に広がっている気がする。なんていうか砂糖にピンクに、とっても甘々なイメージ。

私にとって得意ではない雰囲気。慣れないし、あまり縁のない空気に、私は混乱して変な汗をかいてくる。


「――好きです」


そらきた!!

得意じゃないムードな上に、私をもっとも混乱させる言葉だよ、これは!!

思わず瞳をさまよわせてしまう。本音を言えば、笑ってなんとかこの場から逃げたい。

だが、レーディアスの様子は真剣で、とてもじゃないけど冗談でかわせる雰囲気ではない。


「言いたい事を言い、裏表がなく、自分の感情を素直に口に出す。だけど、人にも気を遣える人だ。そうかと思えば、危なっかしいあなたを見て、ハラハラするし、活動的で行動が読めない。どこにいても気になるし、同じぐらい自分のことを考えていて欲しいと願う私がいます」


いつも冷静なレーディアスが、珍しいことに、頬を赤く染めている。

そして瞳から感じる真剣さに、それは冗談ではないと私も感じている。ここは笑って誤魔化してはダメだ。


「自分でも驚いています、こんな感情を私が持つことに。それこそ最初こそ戸惑いましたが、途中で吹っ切れて、自分の気持ちを認めました。レイのことを想っているのだと認めた時、すごく心が楽になりました」

「……レーディアス」

「そこで、あなたの気持ちを知りたいのです」


いつも冷静なレーディアスだけど、本当は凄く緊張しているのだろう。だって、瞬きを繰り返しながらも、私の一挙一動に集中している。そして、耳たぶまでが、ほんのりと赤い。


「私は――」


意を決して顔を上げると、レーディアスの表情が一瞬弾かれた。まるで何かに脅えているようで、私は少し笑ってしまう。


「本音を言えば、すごく驚いた。けれど、正直嬉しいと思う」


人から好かれて嫌だと思う人は、いないんじゃないでしょうか。これは本心だ。


「だけど、レーディアスは知らないと思うけど、私、意外に嫉妬深い性格で、不誠実な人は嫌いだから、他の女性の影がちらつくのはダメだと思う」


レーディアスは女性に人気があるという話だけど、私は私だけを見てくれる人がいいの。

まずは、そこからだ。


「あなた以外、必要ではありません。むしろ、そんな感情を私に見せてくれたら、私は歓喜するでしょう。それに――」

「それに?」


一瞬、言葉に詰まったレーディアスは下を向いた。思わず私が聞き返すと、レーディアスはうつむいていた顔を上げた。


「嫉妬深いといえば、私の方が十分嫉妬深い」

「え?」

「あのマルクスという男は何なのですか?いつもあなたの側にいて、時には付添人になって……。挙句の果てには誰の断りもなく、あなたの頭を撫でまわし、楽しそうに会話を交わして。あなたはあの男が好きなのですか?」


目を細めて薄ら寒い微笑を浮かべるレーディアスに、私は必死に弁解する。


「そ、そんなマルクスは友達だよ、異性とか思ったことない。だ、だけど、気が合うから仲良くはしていきたいと思っている」

「……では、次の人事でマルクスを、西のカルーダ地方へ飛ばしましょう」


ちょっと、待ったぁぁぁぁ!!それ、職権乱用だよ!?

すぐに、それは冗談ですが、と付け加えたレーディアスだったけれど、まったく笑えない。


「メグさんを守るためと言いつつ、あなたは騎士団に入ると同時に、とても楽しそうで。まるで私のことは眼中にないという態度で、毎日充実して過ごしていましたね」

「だ、だってそれは名ばかりの婚約者だったし、これ以上迷惑はかけられないと思って……」

「あなたがすごく生き生きとしていたのを、私がどんな思いで見ていたかは、知らないでしょう。それに、知っていますか?」

「な、なにを?」


レーディアスの苦々しい表情を見て、本当は尋ねちゃいけない気がする。だけど聞かずにいられない。


「あなたが入隊して、騎士団の士気が驚くほど上がっています。こっそり手紙など書いて渡そうとしている奴らもいましてね、あなたに届く前に、すべて没収です」


初めて聞かされた事実に、私は数秒間、口を開けて固まった。

それに何より驚いたのが――


「……レーディアス」

「なんでしょう?」

「イメージが、違うんですけど……」


冷静で、頭の切れる美麗なる騎士団長様は、どこ行ったー!!


「そうですね、この変化に、自分でもすごく驚いています。だけど、私はなぜか幸せです。それに直球じゃなければ、あなたに響かない。今後は、グイグイいかせてもらいますから、覚悟して下さい」

「え……ええ!?」

「もう色々吹っ切れたんです」


これ以上、押せ押せでくるっていうの?思わず逃げ腰になる私に、レーディアスは笑顔を見せた。


「だから、早く私で決めて下さい」

「そ、そう言われましても……」


なに、このまさかのキャラチェンジ。いろいろ吹っ切れすぎでしょ!


「いきなりそんな告白も、心がついていかないし、まだ知らないこともあるし……」

「私はあなたに興味があったのですが、あなたは私に対して、全然でしたものね」


にっこりと微笑むレーディアスだけど、なぜか微妙に責められている気持ちになる。


「いいでしょう、私という人柄を知ってもらうために、期間を設けましょう。その間は、食事を共にし、眠る前は話をしましょう。そして休みの日は共に行動し、何をお互いが好むのか、そうやって少しづつ仲を深めていきましょう」

「は、ははは……」


やけにぐいぐい押してくるレーディアスに、乾いた笑いしか出てこない。


「なんなら、部屋を共にしても構いません」

「お断りします」


さらっと言ったけど、レーディアス、あなたねぇぇ!やっぱり要注意だ、むっつり疑惑!そして、そこ、隠れて舌打ちするな!!


「いいでしょう、これからまだ時間は長い。メグさんがアーシュレイド殿下の側にいる以上、あなたもここから離れないでしょうし。本当、あの二人には仲睦まじくしていて欲しいものです」

「……」


あれ、何だか私、外堀埋められてないか?

だが、私も思うことがある――


「まあ、私もレーディアスのことは……嫌いじゃない。むしろ好意は持っているよ」


……だって強いし!!

彼はどちらかといえば細マッチョで、私の好む筋肉ムキムキとは少し違うけれども。


「だけど一番大事なのはメグ。これは変わらない。レーディアスのことを異性の好きに変わるかどうかは、これからのレーディアス次第」


正直に伝えた瞬間、レーディアスが口を少し開ける。


「……レイ」


私の顎を少し待ちあげたと思ったら、瞳を潤ませたレーディアスの顔が近づいてくる。

甘い吐息が頬にかかったと感じた瞬間、私は唇に柔らかな感触を感じる。

腰と背中に回された手は、容易に振りほどけない。

驚いて体が硬直していると、私が了解していると判断したのか、柔らかい感触が唇から侵入してくる。

背筋がゾワッときた瞬間、私は我にかえって叫んだ。


「だけど勝手にするな――!!」


レーディアスは整った顔を横に背けて、小さく舌打ちをしたのを、私は見逃さなかった。

まったく油断も隙もありゃしない!!

真っ赤になって騒ぎ始めた私にレーディアスは微笑むと、


「あまりにもレイが可愛らしかったので、つい」


しれっと言うレーディアスの爽やかな笑顔が憎たらしい。

このまま流されるわけにはいかない。そう判断した私はレーディアスの腕の囲いから必死に逃げ出そうとするも、離れない。それどころか、引っ付いてくる。


「ち、近いから!離れて」

「今後、勝手に口づけをしないと誓うので、抱きしめるぐらいは好きにさせて下さい。それぐらいいいでしょう」

「で、でもっ……!」

「私を男として意識して欲しい。そう言ったはずです」


私の耳元でささやく、レーディアスのキャラチェンジが恐ろしい。


「だ、ダメ!!私から了解を得ないとダメだから!!」

「では、了解を下さい」


ああ言えばこう言うレーディアスは、かなり手ごわい。こうなればもう――


「さて!私はメグのところに行こう!!」


逃げるが勝ちと言わんばかりに踵を返した。


「では、私もご一緒しましょう」


しかし相手もひるまない。


「いい!一人で行く!」

「私もアーシュレイ殿下に用事があるので」


そう言うと、すかさず私の腰に手を回し、私の手を握り締めるレーディアスは、本当に女の扱いに長けている。

それがちょっと面白くなくて、つい言ってしまった。


「レーディアスってば、やっぱり、こんな場面に慣れてるね」


回された腕に視線を投げたあと、レーディアスを見れば、彼は微笑んだ。


「そんな可愛く嫉妬をされてしまうと、今すぐにでも部屋に引き返して、ベッドへ押し倒したくなるので、止めて下さい」

「そっちこそ、その思考止めれ」


余計な発言は控えるべきだ。レーディアスの色気のある表情を見て、そう心に誓ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ