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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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44*

*レイ視点

心の中で気合を入れて両手で剣を持つ。

まったく隙のない相手。だけど私の強みはこの魔力。たとえ半減してるとはいえ、これを使わない手はないだろう。


次の一撃で決める――


迷っている暇はない。徐々に動きのスピードも落ちてきている。体力切れの前に、一気に片をつける!

そう意気込んで、切りかかった。剣の先から炎の魔力を噴出させれば、相手が一瞬ひるんだのが見てとれた。

やった!レーディアスの無表情が崩れた。ここは一気に攻めるのみ。

隙を見つけたことで、私は勝負に出た。


「これで決まれ!!」


気合一発、かけ声と共に、渾身の力で振り下ろした剣。

その時、レーディアスの剣先から、凄まじい炎の渦が私目がけて向かって来る。

驚きで息を呑むと同時に、剣を持つ手が緩んでしまう。

相手はその隙を見逃さなかった。


しまった……!


一瞬の行動の遅れを感じた次の瞬間、金属と金属の擦れ合う激しい音が鳴り響いた。腕に強烈な痺れを感じる。

それと共に、両手が何かから解き放たれ、軽くなった。

それはレーディアスによって私の剣が、振り払われた瞬間だった。

ああ――――!!

私の手から弾かれた剣は金属音と共に、地面に転がった。それを目で追い、地に落ちたのを確認すると、私は瞼を閉じた。


負けた。


あの炎は私の魔力を吸って出来た炎だ。いつも私が練習相手に出す幻覚の炎だ。触っても熱くはないと口にしているが、こんな状況だと忘れてしまう。

相手が同じ方法を使わないと、勝手に決め込んでいたんだ。なんて思い込みだろうか。その過信が負けへと繋がったのだ。

よりによって、いつもの自分の作戦に引っかかるだなんて、すごく惨めな気持ちがこみ上げる。


私は潔く負けを認めると、唇をぎゅっと噛み締めた。血が出るほどの強さを加えたが、今は気にならない。

そのまま体勢を崩して地面に寝転がった。息が荒い私は、私を見下ろすレーディアスの顔を見ながら、息を整える。


「――参りました」


口に出して認めた瞬間、周囲からは歓声が沸きあがる。


ああ、負けた、負けた!! 悔しいけど認めるしかないわ!!


「くっそーー!!」


やっぱり強いわ、レーディアス。伊達に騎士団長の名を掲げてはいないね。

利き手と逆でさえ、負けてしまうんだから、利き手だったら、ここまで引き伸ばすことさえ不可能だ。

勝負には負けてしまったけれど、どこか清々しい気分だ。


精一杯戦った自分は、汗と土にまみれた姿勢のまま、レーディアスに笑顔を向け、とりあえず上半身だけを起こした。

息が荒く、体のところどころが痛むので、すぐに立ち上がることは出来ない。髪も体も汗と土埃でぐちゃぐちゃだ。

しばらく休んでから立ち上がろう。

そう思っていると、レーディアスは片膝を地面につき、私と視線を合わせる。


「こんなにボロボロになって……」


痛ましそうな目を向けてくるけれど、こうやったのはレーディアスじゃないか。それに勝負とは、こんなもんでしょ?


「いい女でしょ?」


おどけた口調で、私はちょっと笑ってしまった。

そんな私に向けるレ―ディアスの表情は、どこか硬い。


「ケガは?肩の痛みは?」

「ん、これぐらいなら大丈夫」


本当は少し痛かったけれど、なんだか彼の鬼気迫る表情を見て、そう答えるしかなかったのだ。後で冷やそう。

私がそう告げると、レーディアスは安心したかのように、盛大なため息をついた。


「本当はもっと早く決着をつけるつもりでした。だが、予想以上にレイが強かったので、手こずりました。痛い思いをさせました。すみません」

「別にいいよ」


案外あっさりと答えると、レーディアスはどこかホッとしたような表情を浮かべた。


「ではレイ。約束通り、私の望みを聞いて下さい」


え?今この場で言うの?


いつになく真剣な様子のレーディアスに口を挟むこともせずに、呼吸を整えながら、ただ見つめていた。

彼のグリーンの瞳から、その真剣さが伝わってくる。

これから伝えることは、きっと真面目な話だ。少なくともふざけて聞く話ではないと、そう思えた。

強い意思がうかがえるその瞳にとらえられたまま、私はうなずく。

薄い唇が一度だけきつく結ばれたあと、レーディアスは静かに口を開いた。



「レイ、私を恋愛対象として見て欲しい」


「………………は?」


あれ?なんか、私の耳おかしい? 明らかな聞き間違いをしたような気がする。

眉間に皺をよせ、首を傾げて不審そうにレーディアスを見ると、彼は唇を噛んだ。


「私はあなたが好きです」

「……………」


告げられた言葉に返す言葉はなかった。それだけ、予想もしていない言葉だったのだ。

そんな私に相手は尚も続ける。


「そしていつの日か、正式に私の婚約者になって欲しい」


私は瞬きを一度だけすると、返せる言葉は一つだけだった。



「……………マジですか?」



思わずそう問えば、そこにいるレーディアスは頬を染めたまま、こくんと一度だけうなずいた。


「ど……」


どうしてそうなっているの!?それにいつから!?


そんな思いがぐるぐると脳内を駆け巡るけれど、言葉にすることは出来なかった。

それぐらい私は混乱していたのだ。

呆けていた私に向かってレーディアスは、一瞬だけ何かを探るような鋭い目つきを見せた。

そして次にまた、意を決したように口を開いた。


「それに……私は『ケンタ』という相手に嫉妬します」

「健太?なぜここでその名前が出てくるの?そもそも知ってるの!?」


私はその名前がレーディアスの口から出てきたことに、すごく驚いた。


「ええ。メグさんから聞きました」


悔しげに唇を噛むレーディアスだけど、どうしてその反応!?


「そりゃ健太は長い時間を共に過ごした、私の大切な――」

「やめて下さい!」


私の言葉を鋭く遮ったレーディアスの顔は、苦渋に満ちていた。



「あなたの口から、その名すら聞きたくない!!」



激しい感情を見せたレーディアスはそう言い放つと、スッと立ち上がる。その顔は忌々しげに歪んでいる。


「あなたの屈託のない笑顔が、素性もわからぬケンタなどという輩に向けられていたと思うと、私の心はかき乱され、夜も眠れずに――!!」

「ちょっ……ちょっと!!」


激しく健太を糾弾してくるレ―ディアスの様子に戸惑いつつも、私はそれを片手で制した。


「ま、まずは落ち着け、レーディアス」


私は焦りながらも口を開いた。


「えっと……とりあえず、健太は犬だけど?」

「…………」


健太とは、実家で子犬の頃から飼っていて、私がこっちの世界に飛ばされるちょっと前に、老衰でなくなった忠実なペットだ。散歩に行くのも私の役目。私が家に帰って来ると、喜んで出迎えてくれた可愛い犬。

大好きな私の親友であり、家族だったのだ。


それを告げた瞬間、レーディアスの目が瞬きを繰り返す。

そして次に、レーディアスが観客席へと、素早く顔を向けた。私もつられてその先を見ると、そこにいたのはメグだった。

レーディアスの視線が向けられたメグは、瞬時に顔を横にそらした。だけど遠くからでも解ったのは、メグが少し笑っていたこと。

なんだろう?この二人の間で、どんなやり取りがあったのだろうか?

呑気にそう思っていた私に視線を戻したレーディアスは、急に潤んだ眼差しを私に向けてくる。


「ああ……良かった……!!」


そう言いながら、素早い動作で私を捕まえると、そのままギュッと強く抱きしめた。ちょ……苦しいってば!!

私が彼の胸の中で、もがいていることに気付いた彼は、しばらくするとその拘束から私を解き放つ。

レーディアスは口を開けて固まる私の手を取る。そしていきなり引き寄せたかと思うと、私の唇を奪った。


「!!」


急に感じた唇の柔らかさに驚いて、逃げようにも頭を抑えられ、逃げられない。

そして激しく、私を貪るかのように、深く侵入してくるレーディアス。

周囲から沸き起こる盛大な拍手に、私は何が何だかわからずに、混乱する。

レーディアスの胸を押してみても、びくともしない。何とか顔を横に背けてみても、執拗に追ってくるレーディアス。


気が付けば私は、右手に魔力を込めていた。


「この……いい加減にしろ――!!」


そう叫んだ次の瞬間、盛大なアッパーを、レーディアスの顎にくらわせていた。


それは狙い通りに決まり、油断していたレーディスは綺麗な弧をかき、遥か彼方へと飛んで行く。

大きな音をたてて、地面に墜落する姿が見てとれた。



「では、決着がついた。皆は持ち場に戻れ!!」



そこですかさず、殿下の声が周囲に響き渡った。

声に笑いが含まれているのは、決して気のせいではないだろう。


興奮冷めやらぬ場内だったけれども、その一言により、皆が解散を始める。

なまぬるい視線を四方八方から浴びていると感じた私は、顔を上にあげることが出来なかった。


私の脳内は興奮と混乱で乱れている。そんな私に声がかかる。


「レイちゃん!!」

「メグ!!」


私目がけて必死の形相で走り寄ってくるメグを見て、我にかえる。


「レイちゃんが生きてて良かったよー!!」


その瞬間、まるで子供みたいに泣きじゃくり始めたメグに、私が動揺する。


「大丈夫!無事だから!」

「だ、だって……!いくらレイちゃんが強いとはいえ、あんなに本気になって戦うだなんて、ケガでもするんじゃないかと、滅茶苦茶心配したじゃない!!」


レーディアスは利き手じゃなかったし、それに相手が本気で力を出していたら、私の肩の骨は彼によって粉砕されていたと思う。ここは悲しき男女の力の差だと思う。

私は興奮して涙目のメグの頭を、慰めるために撫でた。しばらくすると、幾分落ち着きを取り戻したメグが口を開いた。


「けど……結果的には勝利じゃないかな」

「どういうこと?」

「だって、あのレーディアスさんが公衆の面前で求愛するなんて……。それは暗に、レイちゃんに余計な虫が付かないための牽制もあると思う。自分のプライドを捨ててまで求愛するだなんて、きっと必死なんだろうな。そう思ったら、ちょっと笑えてきちゃった」


あ、そう言われたらレーディアス……

婚約者って……本当に言っているのか。しかしまたもや強引な口づけ!それも皆の前で!!

私はそれを思い出すと恥ずかしくて、一人で悶えた。

**おまけ**



決闘後の観客達の話す声が聞こえた。


「いまのって……結局騎士団長は勝ったのか?」

「決闘には勝ったが……飛んで行ったぜ?」

「ああ、飛んだな…… 綺麗な弧を描いて、な……」


観客の男達は遠い目をしていた――

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