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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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44/49

43*

*レイ視点

「レーディアス……」


相手も私に気付いたようで、私に視線をスッと投げた。心なしか視線が鋭く、戦う前から闘争心丸出しだ。それに気づいた私はゴクリと喉がなった。


「いよいよ今日ね」

「…………」


声をかけた私をチラと見るが、不機嫌なオーラは相変わらずで、返事もしない。

私は正直ムッときた。だって、いくら戦う相手だといっても、その態度はないんじゃないの?

挨拶ぐらいしなさいよ!

私はつい堪えきれずに文句を言おうとした。


「あのねぇ……!!」

「――また、あの男ですか」


呟かれた言葉の意味がわからない。私は首を傾げたまま、彼の視線の先を追う。見れば私の付添人のマルクスが、レーディアスの視線を受け、表情は青白く固まっていた。


「ああ、マルクスね。彼は私の付添人よ!」

「……付添人ですか」


意味深に言葉を吐き捨てたレーディアスは、よりいっそう鋭い視線をマルクスに投げた。


「マルクス、先に控室に戻っててくれる?」


たまらず私はマルクスにこの場を去るようにお願いをすると、マルクスが礼をしたあと去った。彼が去ったので安心してレーディアスに向き合う。


「いつも思うのですが、仲が良すぎませんか」

「まあ、気が合う相手だけど?」


それは認める。

だって私を女扱いしないし、対等に接してくれる。あまりにも良くしてくれるので、一度だけ冗談で、『マルクスってば私のこと好きなんでしょ?』と、おどけて聞いてみれば、『いや、俺は大人しくて清楚な感じの女性が好きだ』と素で答えてきたもんだから、それはそれで喧嘩になった。


「レーディアス、殿下を知らない?」

「いえ。まだここへはいらしてません」


そっか、残念。まだ来ていないのか。それじゃあ、しょうがない。交渉は後からだわ。

私は一人で納得すると、レーディアスに向き合った。


「まあ、今日はよろしくね、負けないから!!」


時間も限られている。私はスッと手を差し出すと、レーディアスがそっと手を取った。

ふとした拍子、例えばこんな時に感じる。やっぱりレーディアスは男の人なんだなぁ、って。女性と見間違えるぐらいの綺麗な顔立ちだけど、私の手を掴んでいる彼は、男性の手そのものだ。大きくて包み込まれる感触が、どこかくすぐったい。

少しだけ照れて笑った途端、その手をギュッと力強く握られた。


「私も負けません」


そう宣言したレーディアスの瞳は、真剣な色を宿していた。


「そうこなくっちゃね!じゃあね!」


そう言って微笑み、手を離して走り去ろうとしたけれど、レーディアスは私の顔を見つめたまま、手を離そうとはしない。

横に振ってみても、上下にゆすっても、離れる気配がないのだ。不思議に思って彼の顔を見つめると、いまだに真剣な表情で私を見つめていた。


「こんなか細い手ですが、私は容赦しません。勝利して、必ず手に入れます」


そう宣言したあと、ゆっくりと手が離された。その仕草はまるで名残惜しいと感じているような錯覚を覚えた。


「じゃあね」


だけども私はそれを振り払う。一瞬だけ何かを言いかけたレーディアスに背中を見せて、私はそのまま走り去った。


「レイ!!」

「マルクス、お待たせ」


控え室として与えられた一室に入ると、先に待機していたマルクスが駆け寄ってきた。


「あーなんか、ごめんね。騎士団長が不機嫌なのに、巻き添え食らってしまって」


思うにレーディアスも決闘前に気が高ぶっていたのだろう。彼に代わって私がやんわりと謝ると、マルクスが首を横に振った。


「いや、あの目はどう見ても、巻き添えじゃなくて、俺個人を狙ってだと思うわ」


マルクスがぶつぶつ呟いている。だから私は一つ提案をする。


「マルクスも不満があるのなら、騎士団長に決闘申し込んでみれば?」

「は!?バカか!お前は!!これ幸いとばかりに、騎士団長は俺の命を散らすに決まっているだろうが!!」


真面目な顔して叫ぶマルクスに、私が優しく肩を叩き、声をかける。


「大丈夫よ、マルクス」


そして私は静かに微笑んだ。


「骨は拾ってあげるから!」

「全然大丈夫じゃねぇだろーーー!!」


ひとしきり笑ったあと、私は立ちあがる。今の笑いで、少しは体の緊張が抜けた。あとはリラックスして、練習の成果を出すのみだ。


「さあ、行こう!!」


そうして私とマルクスは連れだって、決戦の場へと向かった。


* *


闘技場の中へと足を進めると、土の感触が足につく。

ついにここでレーディアスと――

緊張もしていたけれど、この胸の高ぶりは、どう伝えたらいいのだろう。ああ、全身の神経を張り巡らせて、体が高揚してくる。

闘いの場は私の出現により、観客達が湧くけれど、その声すら耳に届かない。


そして向かい側、ちょうど私から対極の入り口から出現した人物を見て、私は喉をゴクリと鳴らした。


レーディアスだ。


今までに私には見せたことがない表情と、身にまとう雰囲気は威圧感を放っていた。

その表情を見て、彼もやる気だと察した。

私は全身から魔力が溢れ出てくるのを感じる。勝負前の高揚感からか、気持ちが高ぶっているのだ。

どちらともなく、視線を交わすのみで、言葉など必要ない。

介添え人達は去り、私とレーディスのみが対面する。

無言で剣を構え、視線を投げた。彼もそれを受け、剣を構えたあと、静かにうなずいた。


始まりの合図に言葉などは必要なく、私は一度目をつぶって深呼吸をすると、目をカッと見開く。

駆けだした足は、彼を目がけて一直線に向かった。


「行くよ、レーディアス!!」


その言葉を合図に、闘いが開始されたのだった。


真正面から剣を繰り出すと、レーディアスは易々とそれを受け止める。それも涼しい顔をしているものだから、悔しい思いをする。なぎ払われ、力で押され、私は後退する。


まずは小さく魔力を刃先に込めて飛ばせども、それを剣によって受け止められ、払われる。私は反動で後方へと飛びのいた。

こっちは余裕なんてないっていうのに、冷静に対処してくる相手が憎たらしい。私の剣さばきは、すべて見切っているのだろう。

汗の一つもかいていないじゃない。それが悔しくて腹立たしくて、そして楽しい。


私の剣は軽い。力じゃ敵わない。では、速さでは?脇腹めがけ、剣を繰り出すけれど、たやすく受け止められる。

突きを繰りだせば、ひらりと身軽にかわされる。

くー!いい反射神経しているなぁ!

思わず唸ってしまうけれど、いけない、いけない。見とれている暇はない。

だけど、そうこなくっちゃ!!こっちだって全力でかかっていくからね!!


私は全力でぶつかっていけることに、心の中では狂喜していた。


興奮状態になり、私の体内で暴走寸前の魔力を剣の先から放出する。

だがしかし、それは私の予想よりもはるかに小さい炎だった。内心あれっと思い、拍子抜けした。


おかしい。


魔力を放出しているのに、なぜか勢いが半減している。ちゃんとコントロールできているはずなのに。


「まさか……!!」


私はハッと気づいて顔を上げる。それを見たレーディアスは、静かに微笑んだ。


「そのまさかです」


しかも私の読みが当たっているなんて、さ、最悪じゃない!


「レーディアス、ずっるーい!!」


思わず叫んでしまう。そう、レーディアスの剣、それは――


「私の魔力を吸っているでしょう!?」


彼の手にする剣、それは相手の魔力を吸収し、自分の力へと変える厄介な剣だ。その証拠にほら、レーディアスの持つ剣に意識を集中してみれば、私の魔力の匂いがする。うまくかすめ取ってるな、私の魔力を!!


「あなたの魔力は膨大です。しかも興奮した状態で、万が一のことがあれば、私が焼け焦げになってしまう」


悔しいけれど、レーディアスの言うことは一理ある。

そんなことはないと言いたいけれど、万が一、魔力の塊が観客席まで飛んで行ったら大変だ。暴走して周囲に迷惑をかけるよりは、賢明な判断なのかしら。

ま、殿下ほど暴走する危険はないと言い切れるけどね。


でもピンチになると、どうして人って燃えるんだろうね?なんでだろうね?

この状況で勝てたなら、私ってば天才じゃない?


「よーし!天才かどうか、判決が下るってわけね」


魔力吸収の剣なら、私が魔力によって与える威力は半減する。だけどレーディアスの剣を持つ手は利き手とは逆だ。ならば、力任せにいってみるしかないし!


真正面から切り込むけれど、簡単に受け止められた。やはり、ここは力の差。

真っ向勝負を挑んでは、力では負けてしまう。そして魔力も半減ときた。では、あとはどうやって?


考え込んでいるとその隙をついて、レーディアスの剣が私を狙う。

遅れを取った私は、一瞬だけ避けるのが遅れた。そしてその剣は最悪なことに、私の左肩をかすめた。


「……ぐっ!」


一瞬、息が止まりそうになり、顔を歪めた。

いくら決闘用の切れない剣だとはいえ、打たれたら結構痛い。いや、結構どころか、かなりの痛みだ。だがその瞬間、レーディアスの顔は驚きに目が見開かれた。

そして苦痛に歪んでいた。――それも私以上に。


あれ、おかしいな。私の攻撃は当たっていないはずだ、残念ながら。

なぜ、そんなに苦しそうな顔をしているの――


私は打たれた左肩が痺れる。やばいな、これ。結構ジンジンくるよ。

やはり実践経験の差だ。それに悔しいことに、私の息が上がってきた。体力切れが心配になる。じゃあ、もう、あれだ――


今出せる魔力を全放出して、真正面から切りかかるのみだ。

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