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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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43/49

42*

*レイ視点

今日も一日の稽古が終わる。力強いマルクスや仲間の剣を受けて、私の体力もヘロヘロだ。

それに加えて走り込みやら、素振りやらの訓練は、結構ハードだ。

だが、疲れた体に鞭打って、次に私が向かうのは広い裏庭。ここは誰も来ないので、自主練習の場に最適だ。魔力も放出するので、万が一にも誰か怪我でもさせたら大変だし。

それこそレーディアスとの決闘に、魔力の使用が認められたけれど、周囲を巻き込むわけにはいかない。

それを心配していたら、そこはなんと、殿下が直々に結界を張ってくれるそうだ。

あの喧嘩っ早い殿下のことだ。張り切って見に来るに違いない。

もちろんメグもくるだろう。だったらなおさら、変な場面は見せられない。全力でぶつかる姿を見せるのみだ。


「――レイ」


張り切って剣を振っていた私の背後から、声が聞こえた。それが誰の声か解ってしまい、私は剣を振る手を止めた。


「……レーディアス」


私は少し険しい顔をしてしまう。なぜならあの口づけ以来、こうやって二人っきりになるのは初めてだった。


「こんなところで、自主練ですか」


私は何も答えずに、剣を下ろした。


「いつから見ていたの?」

「先程から、ずっと」


それは気づかなかった。さすが騎士団長、気配を消すのがうまい。見抜けなかった私は少し悔しいとも感じる。


「レーディアスは余裕だね」


私は決闘を前にして、必死で頑張っているのに、レーディアスが剣を振っている場面は見ていない。それほど私など、余裕な相手だと思っているのだろうか。

だが、それが私の闘争心に火をつける。そんなレーディアスに一泡吹かせてやりたいわ。


「余裕など……全然ないですよ」


だがしかし、予想と反してレーディアスは、意味深なため息をついた。そして私に近づき前に立つ。

そっと私の手を取ると、眉をひそめた。


「レイ……。あなたの手は、こんな短期間でも豆だらけだ」

「ああ、そうだね。硬くなったね」


手の平に豆ができて、潰れては硬くなり、その繰り返しでここまできた。

だがそれも私の訓練の賜物だと胸を張って言える。だがなぜか、レーディアスは痛々しげな視線を送っていた。


「なぜ、そこまで頑張れるのですか」

「そう聞かれても……単に負けず嫌いの性格だからかな」

「そうですか」

「うん、どうせやるなら勝ちたいでしょう。レーディアスは?」

「私は生まれてから記憶にあるまで、自分が何かに強く固執したことがありませんでした。騎士団長という立場も、ただ何となく、気付いたらいつの間にかこの位置にいた、その程度の感覚でした」

「それはまた、嫌味なタイプだねー」


私はあっさりと言い放った。

だって努力しなくて何でも手に入り、そつなくこなすタイプっていうの?レーディアスはまさに才能に恵まれているのだろう。


「ですが、ここにきて初めて『固執する』という感覚を知りました」


急に熱っぽい視線を投げてくるレーディアスに、いささか首を傾げた。


「そう?それは良かったね」


つい本音を口にすれば、レーディアスが目を瞬かせた。


「夢中になれることがあるということは、生きてて楽しいでしょ?」


そう、なんでもそつなくこなせるよりも、目的があってそれに向かって努力して、苦労した挙句に目的が達せた時のあの充実感は、なんともいえない。そこに至るまでの経験も、人生の糧になると思うんだ。


私がそう思えるようになった一つに、中学時代のことがある。

その頃の私は部活の剣道に、のめりこんでいた。もう来る日も来る日も部活部活で、毎日明け暮れていた。だけど、目標だった地区大会で優勝が決まった時は、師匠と抱き合って号泣したものだし。


道のりが険しくても、たどり着いた瞬間は最高で。

例えたどり着けなくても、そこに至る過程に無駄なことはなくて。

時に味わう挫折もまた、必要なこと。

それは人生にもいえることじゃないのかなと、勝手にそう思っている。


「――ええ、本当にそうですね」


レーディアスは私の言葉に耳を傾けたあと、静かにうなずいた。だが次に、勢いよく顔を上げた。

その瞳は真剣さを帯びていた。


「だからこそ、私は絶対に負けられません。あなたに勝たせて頂きます」

「そうきたか!」


レーディアスの宣戦布告に、私は自然と笑みが浮かんだ。


「私だって、絶対負けないからね!!」


やばい、なんだかワクワクしてきた。全力でぶつかるって、いつ以来だろう。頬の筋肉がつい、緩んでしまう。


「負けられないという気持ちもありますが、同時に心配にもなります」

「なにを?」


そう問う私の頭上に、レーディアスは手の平をポンと置いた。


「あまり無理はしないように」

「……ッ!」

「試合前に体を壊すことがあれば、不戦勝で私の勝ちにします」

「こ、壊さないから!!」


わめく私の頭に触れたまま、レーディアスはため息をついた。


「仮に頑張りすぎて倒れたら、騎士団は解雇ですから」

「なっ、なんで!?」

「私の一存です。では、伝えましたよ、レイ」


レーディアスは優しげな笑みを浮かべる。だが彼のいう事はもっともだと思って、少しバツが悪い。そう思って下を向いていると、頭上から声が振る。    


「あなたは、ケン……」

「ケ?」


それっきり押し黙ったレーディアスが何を考えているのか、解らなくて首を傾げる。


「いえ、今それを確認したところで、私の心臓が耐えられそうもないので、やめておきます」

「へ?」

「――では、私は先に戻ります」


それだけを言うとレーディアスは、踵を返した。

私はその背中を無言で見送っていたが、ふと気づく。なんだか、どこか元気がないように見えたけど、気のせいかな。いつも通りなんだけど、なんだか少し違和感があった。寂しそうな目をしていた。

もしかして疲れているのかな。

あまり表には見せないけど、騎士団長って大変そうな役職だしな。深夜まで部屋の明かりはついているし、帰宅だって遅い。ちゃんと寝てるのかな?


そこで私はハッと気づく。

あ、そういえばレーディアスに怒っていたんだった。つい忘れて普通に話してしまったな。


……まあ、いっか。いつまでもギスギスしているよりも、このモヤモヤを決闘当日にぶつければいいんだしな。


そのまま自主練習を続けた私だけれど、レーディアスの寂しげな瞳が、なぜだか脳裏をちらついていた。



**



そしてついに迎えた決闘当日は、雲一つない晴天だ。


私は緊張からか、通常より早い時間に目を覚ました。顔を洗い、いつもの場所で軽く朝練習をしていると、マルクスが私を迎えに来た。付添人が一人つくということで、私は彼にお願いしていたのだ。


「いよいよ今日だな。よく眠れたか?」

「おかげでばっちりよ。マルクス、今日はよろしくね」


私は改めて彼にお願いをすると、そこで軽くマルクスと手合せをしてから、決闘が行われる闘技場へと向かった。


「な、なんでこんなに観客の数が多いの……?」


闘技場は丸いドーム形状になっているが、驚くことに席はほぼ満席という形で埋め尽くされていた。

賭けをしているとは聞いていたけど、この人数は多すぎじゃないか?!私は目を丸くする。


「うん?アーシュレイド殿下が、どうせなら公式にして、見物料を取れ、って形にしたらしいぞ」

「……あんの、殿下めぇ……!!」


王子のくせに守銭奴だなんて!!いい性格しているじゃない!!


「何割か寄越すように、今のうちに、決めておかなければ!」

「そこかよ!!」


マルクスが呆れてツッコミを入れた。だが、大事なことだ。


「なに言ってるの、大事なことよ!!これはぜひ、決闘前に交渉しなければ!!」


こうなったら殿下を捕まえてやる。決闘後だったら、しらばっくれる事もあるもんね。


「早速、殿下を探しに行ってくるわ!!」

「おい、待て――」


マルクスの止める声も無視して踵を返した瞬間、柱の陰から姿を現した人物を見て、足を止めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり両想いにきちんとなっていないのにレーディアスが強引にキスしてきたことが気持ち悪い・・・。 イケメンならなにしても許されると思うなよー(笑)
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