表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/49

41

▼久しぶりのメグ視点になります。

昨日、レイちゃんが部屋を訪ねてきてくれた。そして『決闘することになった』なんて、ケロッとした顔で言うものだから、聞かされた私の方が驚きで、その場で倒れるかと思ったわ。

どういった経路でそんなことになってしまったのか、まったくもって意味が解らない。

レイちゃんに聞いても、あまりピンとくるような返事が返ってこない。

ならばもう一方の相手に聞くだけだ。――私は意を決して部屋から飛び出した。


そして向かう先は、城の一室、ここにはレーディアスさんもいるはず。今日は騎士団との会議があるって、アーシュが言っていたもの。ここの廊下で待ち伏せしていたら、お目当ての人物に会えるはず。

しばらく待つと、一室から廊下へと出てきた人物が目に入る。大勢の人の中、人の目を惹きつける美貌は、私のお目当ての人。私はそのまま小走りに、彼に近寄った。


「レーディアスさん」

「メグさん」


近づいた私に気付いた相手は爽やかな笑顔を見せ、新緑色の瞳が優しげに輝いた。

その整っている顔で微笑まれたら、確かに夢中になる女性は多いだろう。

けれど、最近その余裕がなくなってきたんじゃない?誰かさんにはその魅力がなかなか伝わらなくて、焦っているんじゃなくて?


「レイちゃんと、決闘するんでしょう?」


私が面と向かって尋ねると、困ったように苦笑して、何も答えないレーディアスさんだけど、そんな態度のまま逃がすものか。大事な親友のことだから、余計なお節介も焼きたくなる。


「ちょっと庭でも散歩しませんか?」


そう言うと彼は、静かにうなずいた。


**


そうして私とレーディアスさんの二人で庭に降り立つ。珍しい組み合わせだわ。


「このサラディの花、今が満開ですね」


私が花の美しさを口にするけれど、彼はなぜここに連れて来られたのか、勘づいているはず。

ならば、早速――


「レイちゃんの行動はサバサバしていて男っぽいけれど、この白い花だけは好きなんですよ」

「花……ですか?」


そう言って不思議そうに花に視線を向けるレーディアスさんだけど、本当にレイちゃんのこと、解っているのだろうか。そんな彼に少しだけ、ほんの少しだけ、助言をこぼそうと思う。


「あの、私の独り言なのですが――」


私はしゃがみ込み、サラディの花を数本、手折る。少しだけ部屋に飾りたいと思ったのだ。その体勢のまま、レーディアスさんへ背を向ける。彼の表情は見えない。


「レイちゃんは恋愛ごとに鈍いの。自分のことになると、なおさら。けれど、一度火がつくと純粋に相手を想うの。それこそ裏切ることなんて考えないぐらい、相手に夢中になる」


私が花を手にして立ち上がると、ゆっくりと私の顔を見るレーディアスさんは何かを言いたげだ。いろいろ聞きたいのだろうが、それを彼のプライドが邪魔するのかしら。

けど、なりふり構わず手に入れようと思うぐらいじゃなければ、レイちゃんは任せられないと思っている。


「……それは、どういう意味でしょうか」


!!

きたーー!!


冷静さを装ってはいるけれど、気になるでしょう。食いついてきたレーディアスさん。瞳が真剣な輝きを放っているよ。そうこなくちゃ。

これはまるで、村の近くを流れる小川で、釣竿を垂らしていた時の気分に似ている。

今まさに、大物が喰らいついた瞬間。確かな手ごたえを感じる。


「レイちゃんは真っ直ぐなの。だから、その……今までのレーディアスさんのやり方じゃ、絶対伝わらないと思います」

「……」

「回りくどいやり方では、彼女は気づかない。性格も一本気だけど、好きになった相手には、愛情も真っ直ぐに注ぐの。昔、それを側で見ていたから、私には解ります」

「……」


次の台詞は言うべきか黙っているべきか迷ったけれど、彼の今後のためにも口にした。


「レイちゃん、昔、精一杯の愛情見せていた相手がいるの。――健太ケンタに」


健太のことは、私しか知らないレイちゃんの過去だ。

レイちゃんだけを見て、真っ直ぐな愛情を注ぐ彼と比較すれば、レーディアスさんの態度は真逆だ。若干、いやかなり回りくどい。

何事にも真正面からぶつかっていくレイちゃんに、恋の駆け引きは通用しない。


これじゃあ、レイちゃんの心にいつまでたっても響かないと思う。

これが最初で最後の私からのアドバイス。これを聞いて彼はどんな態度になるのかしら?

それとも恋に百戦錬磨のレーディアスさん。恋愛経験のない私の助言なんて、『へっ』って鼻であしらうかしら。その時は、もう知らないよ。


相手のためにどれだけプライドを捨てられるのか。それが恋というもの……


そう語っていたのは、ヘボン村の村長さんだったな。確か。


私なりに伝えたけれど、うまく伝わったのかしら。

相手の反応がないのが逆に怖い。恐る恐る顔を上げれば、レーディアスさんは、瞬きをすることも忘れ、口を少し開けていた。


「ケンタ……?」

「あ、でも、過去のことなので……それにもう、こっちにきて3年にもなるし」


最初は呆然としたのち、徐々に思いつめた表情に変わり、眉間に皺が深く刻まれていくのを見て、逆に私は焦った。

これはちょっと、いじめすぎてしまっただろうか。思っていた以上の衝撃を与えてしまったようで、少し罪悪感が胸を占めるが、思い返せばレーディアスさんには、私も色々と思うところがあるので、これぐらい大丈夫さ、きっと。


「じゃあ、もう行きますね」


そう告げると、そそくさとその場から立ち去った。

それにしても、あんな表情を見せるだなんて……レーディアスさんも私が思った以上に本気なんだ。

さあ、どうでるかな。今の時点では、健太のスタート地点にも立っていない気がするけれど、どう頑張るかしら?

これでもまだ、澄ました顔してレイちゃんを振り回すなら、レイちゃんを任せられないからね。


「メグ!」


険しい顔をして考えていると、いきなり声をかけられて、驚いて振り向いた先には、息せき切っているアーシュがいた。


「窓からお前の姿が見えたから、焦って来たんだが……なんでレーディアスと庭を歩いているんだ?」

「うん、ちょっとね」


今のは私の勝手な行動、いわばお節介だから、アーシュにわざわざ言うべきことでもないかな。それに教えたら、引っかきまわしそうな気もするし。


「もしかしてメグはレーディアスのことを好……」


喉をごくりと鳴らしたあとのアーシュの発言を聞いて、一瞬、キョトンとして目を瞬かせてしまった。

もしかしてアーシュは、たったそれだけで不安になって、ここまで走ってきたの?

レーディアスさんと歩いているのを見かけただけで?


か、可愛い人なのかもしれない……!

その考えにたどり着くと、思わず笑ってしまった。


「それはないかな」


思わず大笑いをすると、青空の下、声が響いた。鳥たちが驚いて、いっせいに飛び立った。


「レーディアスだって、メグの柔らかな手を握って庭を散歩したいとか、思っているかもしれないだろう!」

「はいはい。それはないと思うけどね」


レーディアスさんのその相手は、私じゃないでしょう。アーシュってば、こんなに周囲が見えなくなるものなの?


「つまりアーシュは私と庭を散歩したいの?」

「べっ、別に……!!」


そこで言葉にぐっと詰まるアーシュを見て、私から一つ提案をした。


「少しだけ庭を歩かない?」


それを聞いたアーシュは弾かれたような顔を見せたあと、赤い顔になって、そわそわと落ち着きがない。そしておずおずと手を差し出すか迷っている様子の彼に、苦笑する。

そこで私は迷いながらも、自分から手をスッと差し出した。


「行こう……か」

「おっ!おお」


アーシュは自分の手を、胸元で拭いた。そんなことしなくても、汚れているなんて思わないのに。

それが彼の優しさなのだと、最近では解ってきた。

この人、言葉遣いは乱暴なんだけど、根はすごく優しい人だと思う。

――やっぱり、そんなところがレイちゃんと似ている。

だけど握られた手はギュッと固く、結ばれた手は大きくて、男性の手だと感じた。


「……レイちゃん、大丈夫かしら」

「ん?なんか言ったか?」


赤い顔をしながらも聞き返してくるアーシュに、なんでもないと首を振った。やばい、私も顔が火照ってきたじゃない。

それからしばらく私達は、会話をしながら散歩を楽しんだ。もっともお互いの顔は赤く、会話には集中できなかったけれど、握られた手の温かさだけは鮮明に感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ