表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/49

3

扉を無理矢理しめたレイちゃんは眉根をしかめ、私に忠告した。


「メグ、あり得ないわ」

「レイちゃん……」


レイちゃんの表情は、これ以上ないぐらいに険しい。


「初対面の人間に世継ぎを産めとかって言う?ありえない、詐欺よ、これは。夢見がちな乙女を狙っての犯行かしら。それともこの世界では、これが普通なの?

いやいや、詐欺師なのはこの男なだけであって、常識人もいるはずだよね。この村の男性は優しいもの。でも、メグわかった?どんなに顔が良くても、笑顔が爽やかでも、変態かもしれないわ。だとしたら一番危険よ。わかる?綺麗なのは表面だけで、裏の顔は何を考えているか、凡人の私達には想像もつかないことを考えているのよ、きっと。趣味は深夜に裸で村探検とか、想像を絶する系かもしれないわ。だから理解しようなんて考えちゃダメ!!初対面で子供を産めなんて発言、ありえない」

「レイちゃん……」


そう言って彼女は、両腕をさすり始めた。きっと鳥肌がたっているのだろう。

私は扉向こう側で聞いているであろう男性の反応が怖い。

しばらくわんわんとレイちゃんが叫んでいたら、扉の向こう側が静かだと感じた。

それを伝えようと扉に視線を投げると、レイちゃんもそれに気づき、一瞬押し黙る。


「やけに静かだね」

「まさかレイちゃんの発言を聞いて、ショックで帰ったとか?」

「それならいいけど、なら何しに来たのよ。詐欺師が早々にあきらめたか?」


首を傾げるレイちゃんと私は、しばらく不思議な気持ちで扉の前に突っ立っていた。

そして足音が戻ってきたと感じると同時にトントントンと、扉が叩かれる音がした。


「やっぱり来たわね。このまま大人しく帰る訳がないと思ったわ」


レイちゃんと私が同時に息を飲む。それと同時に勇敢なレイちゃんがノブに手をかけて開け放ち、一気に叫んだ。


「変態も詐欺行為もお断り……!!って、あれ!?」


勢いよく開いた扉の先にいたのは、私達の恩人である村長が杖によりかかり、膝をがくがくといわせている姿でした。まるで産まれたての小鹿のよう。

レイちゃんの怒声に、驚いて腰を抜かしているに違いない。


「そ、村長~!!」


案の定、レイちゃんが慌てた声を出す。


「わ、わしゃ、ちょこっと話があって寄ったんじゃが……」

「大丈夫!?大きな声出してごめんなさい、村長!」

「わ、わしは……変態か……」

「もー違うってば!間違ったの、ごめんなさい!村長すねないで!!」


駆け寄って村長を抱き起すレイちゃんは、その後方にいた男性を睨んだ。


「このままでは、話すら聞いていただけないと思い、村長に話を通してもらうことにしました」


何事にも動じない様子で説明をする男性の態度は、私達が村長に恩があると知ってて、この態度なんだ。これじゃあ、追い返す訳にはいくまい。この男性はともかく、村長を無下には出来ない。レイちゃんは二人を、しぶしぶ家の中に招き入れた。

……だってもとはと言えば、村長の持ち家だしね。


「レイちゃん、私はお茶淹れるね」

「うん、お願い」


レイちゃんはこの男性にお茶を出すのは渋った様子だったけど、村長がいるならそうはいくまい。

お湯を沸かそうと思って火打石を缶から取り出す前に、レイちゃんが無言で釜戸に視線を投げた。その瞬間、火がついた。

それを見ていた男性の顔が、驚いたように一瞬見開かれた。


「いつもここで、メグからご馳走になるお茶がうまくてのう」

「ありがとうございます」


私は村長からお手製のお茶を褒められて嬉しくなり、いそいそと用意を始める。

畑で収穫して乾燥させて瓶につめておいたハーブを取り出した。


「で、お話とはなんですか?」


レイちゃんは尖った姿勢を崩さない。あんなことを言われたあとは、誰だって警戒して当たり前だろう。どこか緊迫とした空気が流れる中、村長が先に口を開いた。


「お前さん達が、この世界に来てもう何年になるかの?」

「三年ですが……」


村長が懐かしむかのような声を出す。村長は、レイちゃんのピリピリした態度にも気づかない。ある意味幸せな人だ。


「もう三年か……。それがの、異世界からの迷い人を保護したら、王都に報告する義務があったんじゃと」

「は!?」

「それがまあ、こんな村にそんな前例がなくての、わしもうっかりしておったわい」


カッカッカと笑う村長だけど、そんな義務は初耳だ。それにいまさら言われても困るし、私とレイちゃんの間に困惑した空気が流れる。

そしてこの部屋に入って初めて、レ―ディアスと名乗った男性が口を開いた。


「最悪の場合、この村長は、異世界人の報告義務を怠った件で、罰せられるかもしれません」

「ちょっと待ってよ!!村長はなにも悪くないわよ!!」


レイちゃんが声を荒げると、すかさず村長がフォローに回った。


「まあ、そう心配するな。わしゃ、見てのとおり、この老いぼれ。先行き短いが、更に短くなっただけじゃ」


わ、笑えないから、村長!!青ざめる私の表情を見て、男性はにっこりとほほ笑んだ。


「――では、私の話を聞いていただけますか?」


そこで、まるで交換条件だとばかりに、彼は切り出した。


「改めて、自己紹介から仕切りなおさせて頂きます。私は王都で騎士団長を務めております、レ―ディアス・ファランです」


柔らかな物腰で挨拶をしてくれたレ―ディアスさんを見た女性は、誰もが一度はドキッとするだろう。

新緑色の涼しげな瞳に、さらさらした金の髪。口元にあるホクロが、なんだろう、異様な色気を発していると思う。否応なしの美麗なお方だ。この部屋にいることじたい、違和感を感じる。黙っていても絵になる人だ。それに騎士団長だなんて、強いんだろうな。

彼に話しかけられた女性なら誰もが、きっとポッと頬を染めて恥ずかしそうにうつむくのだろうな。なんだかすごく想像がつくわ。

その時、目の前に座っていたレイちゃんが、口を開いた。


「……私はレイ」


おおっと!!

こんな滅多にお目にかかれない美形を前にしての、素っ気ないこの態度。女性なら誰もが見惚れると思ったけれど、早速例外がいたよ。

レイちゃんはレ―ディアスさんの美貌に頬を染めることもなく、もちろん媚びるわけでもない。あくまでもレイちゃんはレイちゃんらしい態度だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ