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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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「もうメグを狙う奴もいないだろうし、これでめでたし、めでたし。さあ元の生活に戻ろう!!」

「そうだねレイちゃん……私達の村へ帰ろう!」


私は力強い意思を持つ、レイちゃんの瞳を見つめた。

優しい村長を筆頭に温かな村民たち。それに、コケコとモーモーも私達を待っているはずだ。

そう、あの村で私達は二人、手を取り合っておばあさんになるまで暮らすのだ。自給自足のハッピースローライフ。それもすごく素敵なことじゃないかしら?

さぁ戻ろう、心落ち着く私達の居場所へ――


「帰りましょう、メグ!!」

「帰ろう、レイちゃん!!」


差し出されたレイちゃんの手を握りしめようと、私はスッと手を伸ばした。


「ちょっと待った!!」


突如、いきなり目の前に飛び出てきたのは、焦った表情を浮かべていたアーシュだった。私とレイちゃんの間に割って入った。


「おいおいおいおい!お前ら、二人で自己完結、美しい友情エンドを迎えようとしているがな、それはちょっと待て!」

「なんでよ、いいじゃない!」


視界を遮られたレイちゃんがムッとした声で叫ぶと、アーシュが背後を振り返る。


「いいから、ちょっと待ってくれ!!」


そう言われてレイちゃんも押し黙る。

次にアーシュが私に顔を向けた。アーシュが唾を飲みこむと、私の顔を見つめた。それは何かを決意したかのような真剣な表情で、それに対する私も背筋を伸ばし、身構えてしまう。


「このまま、お前を村に帰してたまるかよ」

「え……」


あっけにとられて瞬きを繰り返す私に、横からも声が聞こえた。


「殿下の考えに激しく同意です。私と殿下の気持ちを軽く無視して帰るだなんて、断じて見逃せない行為です。まだこれからだというものの――」


見ればレーディアスさんまでもが、不満気な顔でうなずいていた。


「そうだ、ここにいる男二人を忘れていないか?」


アーシュが私に詰め寄るけれど、そ、それは忘れていたわけじゃない、決して。お世話になった感謝の気持ちを、きちんと伝えて帰ろうと思う。


「あの――」

「お前、鈍い。鈍すぎる!!」


私が口を開こうとすると、アーシュはそれを遮ったあと、深くため息をついた。


瞬きを繰り返した私の瞳をアーシュが見つめる。心なしか潤んで見えるその瞳を、私も見つめてしまう。彼が何かを口にしたいのだと気づき、私は押し黙った。

改めて見るアーシュの瞳は大きく、鼻筋もスッと高い。涼しげな口元は、きつく結ばれている。まだどこか幼さの残る顔つきだけど、あと2,3年もすれば、今以上に魅力的になることだろう。

やがてアーシュが、意を決したように口を開いた。


「レイの協力もあって、犯人を特定することが出来た。お前を危ない目にあわせてしまって、本当に悪いことをしたと思っている」


一瞬目を伏せた彼の表情を見て、本当に私に申し訳ないことをしたと感じているのだと、悟った。


「だが……俺はお前に出会って、初めて自分の魔力と向き合おうと思ったんだ。今は魔力封じの装飾品で抑えている状態だが、近い将来、完璧に制御できるようになる。それを誓う」

「アーシュ……」


私と出会ったことで、彼も考えることがあったのか、成長したようだ。

それぞれ生活する場は違うけれど、彼も頑張って欲しい。私は村に帰っても応援しているから――


「あのね……」


私はそう伝えるべく口を開くと、


「もう誰も傷つけないし、魔力だって制御できるようになる。将来的には、この国のためになる」

「ええ」


彼がそんな風に考えるようになっただなんて、成長したのだと感じて、力強くうなずいた。

そんな彼は将来、力のある素晴らしい王になることだろう。もう大丈夫だろう。


「そう思えたのも、お前がいたからだ」

「……あ?……えっと……」


最後の台詞に私は困惑する。

あれ?ここでこの流れはおかしくないか?『もうお前を解放する。じゃあな!元気でな!』そうくると思っていたのですが。

困惑して眉をしかめた私に、アーシュは咳払いを一つして、顔をそらして横顔を見せた。そしてそこからのアーシュの台詞は、私の斜め上をいくものだった。


「処罰は軽減するにしても、こんなことになった以上、ロザリアは候補者から外れることになる」

「え……」


フィーリアが辞退、ロザリアさんも候補者から外れる…… つまり残るのは――


「私!?」

「そういうことになる」


アーシュは横を向きつつも、チラチラと私を横目で見る。まるで私の反応をうかがっているかのように見える。


「えー!!」

「……なんだよ、その不満そうな声」

「だ、だって……!!」


そんなこと、思いもよらなかったのだけど!!だって最初にアーシュは『周囲がうるさく言わなくなるまで、『ふり』でもいいから、していろよ!』確か、そう言っていたじゃない。

いわば私は仮の状態でしょ!?それとも違うの……?


そう口にしようとする前に、アーシュが大きくため息をついた。

そして次に、私と真正面から向き合った。


「まどろっこしいのは無理だな。直球でいかせてもらう」


堂々と宣言したあと、続けられた言葉は――


「好きだ、メグ」

「はっ!?」


なにいまのは、アーシュの冗談?思わず首を傾げてしまうけれど、そんな時、目があった。


「候補者がお前しかいなくなったとか、そんなこと、どうでもいい。――俺はお前がいいんだ」


その瞳に宿る色は、真剣だった。こんな表情を向ける彼を見て、決して冗談ではないと悟る。


「え……ええええっ!!」


直球すぎるアーシュの告白に、私は驚いて変な声を出してしまう。思わず一歩、後ずさる。


「だから、ずっと側にいてくれ。村に帰るなんて言うな」

「え、あ、ええっ!!」


私は真っ赤になって視線をさまよわせると、レイちゃんと目があった。彼女ならこの困った状況に、救いの手を差し出してくれると思って、自然に目で訴えてしまう。レイちゃん、助けてー!

だがレイちゃんの対応は、私の予想とは違った。にっこりほほ笑むと、


「ちょっと、もう少しムードを考えなさいよね?いくら流れのまま勢いづいたからって言って、見ている私達は、どうすればいいのよ?」


レイちゃんのその落ち着いた反応を見て、私は驚いて目をひんむいた。


「レ、レイちゃん、し、知ってたの?」

「知ってるもなにも、知らないのはメグだけじゃない?殿下の恋心は周囲に駄々漏れだったわよ」

「う、嘘!!」


全く気付いていなかったのは私だけ?それを知ったら、ますます恥ずかしさがこみ上げる。

そして強い視線を感じる方向に、おずおずと顔を向ける。

そこにいたのは、熱い視線を投げてくるアーシュだった。


「で、お前の答えは?それが聞きたい」


い、今ここで!?

堂々と、しかし逃がさないとばかりに私に向けてくる視線の強さに戸惑う。

いきなりそんなこと言われたって、私の心は動揺するばかり。それにたった今、村に帰ると決めたばかり……。

で、でも、村には帰って欲しくないって……


「か……」

「か?」


かろうじて私が一声発すると、じりじりと歩みよって来るアーシュが怖い。眼力もそうだけど、鼻息も荒いような気がするのですが!これは絶対気のせいじゃない!!


「か、か……」

「なんだ、それは?お前、さっきから、『か』しか言えてないぞ。まさか『帰ります』じゃあ、ないよな……?」


そうして徐々に距離が近づいてくるけれど、私は気持ちがいっぱいいっぱいだ。背中を変な汗が伝う。

こうなれば私がとる手段は一つ――


「か、考える時間を下さい!!」

「あっ!おい!待て!!」


きっぱりと言い切って、くるりと踵を返した私は、そのまま背中を見せて、脱兎のごとく逃げ出した。

走れ、走れ!まずはこの恥ずかしい場面から、一時退散だ!


背後から響く、レイちゃんの笑い声を聞きながら、私は必死に駆けて行った。

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