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レーディアスさんは、いつになく真剣な表情をしている。一体、何を言い出すのかと、聞いている私にも緊張が走った。そんな外野の心中は知らずに、彼は口を開いた。
「あなたはメグさんをとても大事に想っている。その対応は、少し過保護とまで思えるほどです」
「んー。そうかな。まあ、メグには甘いかもね」
あっさりとそれを認めたレイちゃん。
「そんな過保護なまでのあなたが、この王都までメグさんを連れてこようと思った訳はなぜですか?連れてきた私が聞くのもなんですが、本当に阻止しようと思えば、あなたにはそれが出来たはずです」
「………」
一瞬だけ、レイちゃんの息が詰まった。
「そうね。……メグと外の世界を見てみたいと思ったから、かな」
「それはどういう意味で?」
呟いたレイちゃんの言葉を、レーディアスさんが拾い上げた。
「レーディアスも知ってると思うけれど、私とメグはあの村に住んで三年。最初の頃は生活に慣れるのが大変で四苦八苦したわ。それこそ慣れてくればこそ、あそこでの生活を楽しんでいた。メグには私しかいない状況で、私にはメグしかいない」
「そうですね、二人で生活していたのですから」
「私は直球勝負で物事を進めるけれど、もしかしたらメグは、そんな私にどこかで遠慮しているのかな?とも感じていたんだ。基本、言いたい事をため込んでしまう性格なんだよね」
「だからここまで連れてきたと?」
そこでレーディアスさんの視線が一瞬、鋭くなる。
「ええ、そうよ。環境が変われば、メグも殻を破れるんじゃないかなと思ったわけよ。しっかしメグに怒鳴られる日が来るなんて、いい意味でびっくりだわ!!」
そう言って豪快に笑うレイちゃんだけど、私は顔が火照るばかりだ。さ、さっきの啖呵は、ちょっと忘れて欲しいかな、なんて。
「では、あなたはメグさんを――」
そこまで言って口をつぐんだレーディアスさんに、レイちゃんが話を続けろと、視線を投げた。
「恋愛感情での『好き』ではないのですね……?」
「レーディアスのアホたれ」
真面目な顔して聞いたレーディアスさんに、レイちゃんが呆れたように口を開けた。
……そんなことあるわけないでしょうが!!そこは私もツッコミたい。
「そんなことないわよ!!」
「そうですか」
即座に否定の言葉を吐いたレイちゃんと、それを聞いたレーディアスさんは胸に手を当てて、明らかに安心していた。
「レイのメグさんに対する態度を見て、もしや恋愛感情が含まれているのではないかと思ったのです」
「そんな訳ないでしょ!!」
「今、はっきりしました。勇気を出して聞いてみて良かったと心から思います。おかげで私は今夜からよく眠れそうです」
「それは良かったわ。……よくわからないけど」
レーディアスさんは自分になびかないレイちゃんが、私を好きなのかもと疑っていたのだろうか。そんな訳ないのに!!
しかしそれほどまでに、レーディアスさんも周囲が見えなくなっていたということ?
女性から人気のある彼でも、こんな風になるんだ。突拍子もない考えにまで、たどり着くなんて……恋の力は恐るべし。
だけどね、レーディアスさん。私なりにアドバイスをするのならば、レイちゃんには直球を投げなきゃダメだと思う。真正面から堂々とね。
それこそ変化球で勝負を挑んでも、彼女の心はうまく掴めないと思う。
「そうゆうわけよ、メグ」
「レイちゃん」
レイちゃんが私に、爽やかな笑みを向けた。
「私としては、メグが殻を破るきっかけがあればいいかなと思っていたわ。まあ、王都に来てみたかった理由もあるけどね」
彼女の想いを聞いた今、私も本心を告げよう。
「私はレイちゃんとあの村で過ごせて、本当に幸せだった。一人でこの世界に迷い込んでいたら、不安で狂っていたと思う」
「メグ……」
「私にとってレイちゃんは、友人というより、もう家族だよ」
レイちゃんと私は、時には喧嘩もした。言いたい事を我慢しているかもとレイちゃんは心配していたみたいだけど、私なりに伝えていた。
それはレイちゃんが、食べっぱなしの食器をいつまでも放置しているからだらしないとか、寝坊してばかりとか、ほんのささいなこと。まあ、しょうがないかな……なんて思ってあきらめて、最初は何も言わなかった。
だけどある時、『メグは言いたい事を我慢するな!』そう言われてからは、少しづつだけど言葉にするようになった。
言葉でうまく言えない時は、手紙にして伝えたりもした。
言い合いになった時は、しばらくお互いの部屋に入って冷却期間をおいた。そうすることで、あれだけ頭にきていたのに、自分も悪かったのかもしれないって思うの。不思議だね。時間を空けると色々な視点から考えることが出来るの。
だから、仲直りも自然な形でしていた。私からは『レイちゃん、お菓子作ったけど食べる?』これが仲直りを誘う言葉。レイちゃんの機嫌はこれでだいたい治る。
レイちゃんは、
「メグのバカ!ちょっとは考えなさいよ!」
そう叫んで部屋に閉じこもることもあった。
でもしばらくすると、部屋の扉がカチャリと少し開くのだ。その隙間からそっと顔を出して、「言い過ぎちゃった。メグ、ごめんね」そう言ってくるのがいつものレイちゃんのパターンだった。
この世界にきた私達だって、最初からうまくいっていた訳じゃない。
慣れない生活に、ストレスを感じることだってあった。直に不満を口にするレイちゃんと、我慢してしまう私。だけど、そんなことではダメだと、いつも言われていた。だから私なりに、少しづつ、ストレスはその場で解消するようになったのだ。
レイちゃんは、根に持たない性格だ。豪快で真っ直ぐな気性だから、ここまでやってこれたのだ。
そうやって生活してきたレイちゃんは、私にとって、大事な家族だよ。
レイちゃんに言ったら、『私の方がお姉さんで、メグは妹ね』って、言うんだろうな。
「けどね、レイちゃん。私はてっきり1000ペニーにつられたのかと思った」
お金にがめつ……いえ、しっかりしている彼女のことだから、飛びついたな、と肩を落としたっけ。
だけどどうやら違ったらしい。私を思っての行動だったのだ。胸が熱くなり少し感動していると、
「うん、そうね。確かに1000ペニーも魅力的だったわ」
続いたレイちゃんの言葉に、私がガクッと肩を落とした。そんな私を見てもレイちゃんは、悪びれた様子はない。
「しょうがないじゃない。生きてく上でお金は必要じゃない」
「ソウデスネ」
あっさり認めるレイちゃんに、私は棒読みで答える。そんな私の態度に、レイちゃんが素早く反応する。
「怒らない、怒らない。でもほら、これで村長にラビラの帽子も買って帰れるよ!あとはコケコとモーモーの毛づくろいの専用ブラシも!!」
レイちゃんの弾んだ声を聞き、私も素早く反応した。
「それって村長が欲しいって言ってたの!?」
「うん。ずっと言ってたじゃない。『ラビラの帽子が欲しいんじゃ』って!あの調子じゃ、死ぬまで言い続けるよ!」
力説するレイちゃんだけど、え、縁起でもないから、それ。村長の年齢考えると笑えませんから。
「だからさ、最初の約束通り、街に行こう。美味しい物を食べて、いろいろ見て歩こう」
「レイちゃん」
「そして観光して、たくさん買い物して、気がすんだらさ――」
「うん」
「――あの村へ帰ろう」
レイちゃんからの魅力的な申し出に、私は笑顔になった。




