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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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メグ視点に戻ります

朝食を食べ終えた頃、レイちゃんが私に会いに来てくれた。

顔を見ただけで忙しそうに部屋から出て行ったけれど、最近レイちゃんは忙しい。

騎士団の訓練は充実しているようで、その楽しげな様子がレイちゃんを見ていると伝わってくる。彼女から聞く話は私にとって未知の世界なので、とても興味深い。それに友人も出来て満喫している様子がうかがえる。

もとより社交的な性格なので、周囲にもあっと言う間に溶け込んでいるだろう。

それが少し寂しくもあるけれど、彼女が楽しければ私も嬉しい。

今はこれでいいのだ。そう思うことにして割り切っている。


そして私は城内の廊下を歩く。こっそりレイちゃんの様子を見に行くためだ。

一人ではあまり行動範囲の広くない私だけど、ちょっと勇気を出して足を伸ばしてみようと思った。

長い廊下から出て、庭園を横切り、お目当ての闘技場へ向かっていると、向かい側から歩いてきた人物が目に入る。

両手に花を持つ少女―― あれはロザリアさんの侍女のラティナだ。


「お、おはようございます」


私に気付くと挨拶と共に、頭を下げてくれた。


「あら、ラティナ。綺麗な花ね」


ラティナは色とりどりの花を両手いっぱいに持ち、笑顔で微笑んでくれた。


「ロザリア様が好きなので、部屋に飾ろうと思って摘んできました」


そう言ったラティナの表情はとても柔らかくて、それを見ているだけで感じることがある。


「ロザリアさんが大好きなのね」

「はい。大好きです」


そう言って照れたように笑う彼女が可愛い。


そうだよね、ロザリアさんは大人びた印象で、美人なのにそれを鼻にかけた風でもなく、優しい。知的な会話もできて、気配りも上手。ラティナじゃなくても、ロザリアさんを好きになると思うわ。


「私、ロザリア様のお側にいれて幸せなんです」


そう言って笑うラティナの瞳は、キラキラと輝いている。慕っているのだと、感じ取った。


「メグ様はどこかへ行かれるのですか?」

「うん、ちょっと時間があるから、騎士団の練習でも見に行こうと思って」


城内ばかりは息がつまる。せっかくなのでレイちゃんの奮闘する姿をこっそり見に行こうと思っていたのだ。


「おい!!」

「わっ!!」


そうラティナと会話をしていると、いきなり背後から声がかかり、私は驚いた。すぐさま声の主を振り返る。


「またお前は、ふらふらと!行先を告げてからいなくなれよ!!心配するだろうが!!」


見ればアーシュが息を切らせて背後に立っていたので、驚いた。ラティナもその声に驚いて、目を丸くしている。


「ご、ごめんなさい」


どこか気落ちした声で謝れば、彼もハッと我に返る。


「い、いや。俺はお前になにかあってからでは遅いと思ってだな……」


急にしどろもどろになるアーシュをじっと見つめると、何かを思い出したように彼は手を叩いた。


「ああ、そうだ。お前にも関係あるから伝えるが、先程、フィーリアが候補者から辞退を申し出た」

「え……?彼女が?」

「ああ。体調が良くないらしい。だから家に帰した」

「え……」


最近まであんなに元気に、私をネチネチといたぶってきたのに?体調不良だなんて、どこが悪いのだろう。

自分が絶対選ばれるんだとばかりに、自信満々だった彼女が!?

もしやアーシュの魔力を目の当たりにして、恐れをなしてしまったんじゃないでしょうね?

しかも彼本人が、婚約者候補の件は、一度決めたことは覆せないとか、なんとか言ってなかった?

頭に浮かんだ疑問を口にしてみる。


「だって簡単には覆せないって……」


そう口にすれば、アーシュが何かに気付いたようにハッとなり、表情が固まった。

そこから先は、私と視線を合わせようとしない。


「ああ。まっまぁ、体調不良じゃ仕方ないだろ。健康第一!!」

「……」


その態度、怪しい。

命の危険があるかもしれない私はここに留まり、フィーリアはあっさり帰る。

そこには何らかの思惑があるとみた。


「アーシュ。あなたもしかして、わざと彼女の前で力を見せた……?」

「はっ!?何のことだ!」

「……目が泳いでる」


この人、嘘がつけない人だ。ばればれだ。目を細めて見ていると、


「お前を守るためだ。しょうがないだろう!!」


思いもよらない言葉を聞き、私は驚きで瞬きを繰り返す。私の表情を見て、アーシュは徐々に首まで赤くなっていく。


「あっ……いや、これは……」


もごもごと口ごもるが、私に追及する勇気はない。それに伝染したかのように、私も頬が赤くなってくる。

どうしよう、熱が出てきたかのように熱い。


その時、か細い声が横から聞こえた。


「あの……私、そろそろ失礼します」


どことなく所在なさげなラティナは小さな声を出したのち、頭をペこりと下げる。


その声を聞いて我にかえるのは私達。完全にラティナのことを忘れていた。

年齢的にまだ幼い彼女の前で、大人げない場面を見せてしまったことに気付いた私とアーシュは押し黙った。


「……」

「……」


会話のなくなった私達、正直きまずい。恥ずかしい空気が周囲を包む。

横目でチラリと視線を向ければ、そこに気まずそうにしているアーシュと目があった。


「なんだよ」


強気な口調と裏腹に、顔をほんのり赤く染めているアーシュ。私の視線に気づいた彼は口元に手をやり、動揺を隠すかのように言葉を発した。


「で、お前はどこへ行こうとしていたんだ?」

「私はレイちゃんの練習を、見学に行こうかと思って」

「まーたお前は口を開けば『レイちゃん』だな。それしか知らないのか?」


アーシュの言い方に、思わずムッとする。


「レイちゃんは私の友人で、家族同然なので」


そう吐き捨てると、サッと背中を見せて、この場を去ろうとする。


「あ、待てよ」

「何でしょう?」


私は思わずきつい口調になって振り返る。


「そう怒るなよ、俺が悪かった」


彼がそう謝ってきたので、私は正直驚いた。この人、根は素直なんじゃないの?最初の印象は高慢だと思い、思ったことをすぐ口にするけど、裏表がないのかもしれない。

やっぱり、ちょっと、レイちゃんに似ているかも――

だけど、きっと二人に言ったら

『冗談でしょ!!』

『冗談言うな!!』

そう言って二人で叫びそうな気がする。そう思った瞬間、私は口に手をあてて、思わず吹き出した。だめだ、笑いが止まらない。


「なんだか知らないけど、機嫌が治ったみたいだな」

「ええ。ところで、何が御用?」


すぐに自分が悪かったと認めた相手に、いつまでも怒っている訳にはいかないもの。


「いや、用事というより……ちょっと時間が開いたからな……」


いきなり挙動不審とばかりに、視線をさまよわせ始めるアーシュに不思議になる。


「ちょっと、そこまで散歩しないか?」


顔を上げてそう誘ってきたアーシュの顔は、気のせいか、まだ少し赤かった。


**


そこからは、他愛もない会話で進む足取り。


「それで、何か情報は掴みました?私の命が狙われている理由」

「相手がわからない。けど、俺が守るから」

「あ、ありがとう……」


そう言った瞬間、真っ赤な顔をして目を逸らす様子が、何だか可愛いと思ってしまう。もしや照れているの?よく顔を赤くして瞳をそらすのは、照れやの証なのだろうか。

私はそう思ったら、自然に笑みがこぼれた。それに気づいた相手から、すかさず指摘される。


「なんだよ、いきなり笑いだすなよ」

「だって……そう言われても」


アーシュの耳飾りが太陽に反射して光輝いている。ふと前から気になっていたことを直接聞いてみた。


「たくさん着けているのね」

「あ?これか?」


アーシュは私の視線の先に気付いたようだ。


「これは、魔力制御の装飾品だ。俺はこれで抑えている」


ただ単に、その身を飾っているわけではないのだ。


「装飾品で魔力を抑え込む場合もあれば、体の一部に刻印をする場合もある。後者は魔力を永遠に封じることになるが、前者は制御できるようになれば、外すこともできるんだ」


だが、これだけの数の装飾品で抑えているなんて、よほど膨大な魔力なのだろう。

私は一度見た光景を思い出す。爆発音と共に、城の窓ガラスから黒い煙がもうもうと吐き出していたのを――


「ねえ、アーシュは大事な人っている?」

「はぁ!?お前はいきなり何を……!!」


私の唐突な質問に、焦った彼は瞳をさまよわせた。


「暴走しようとする前に、大事な人が側にいると思えばいいんじゃないかしら」

「大事な人……」

「そう。いるでしょう?大事なひと」


その相手は友人でもご両親でもいいと思う。

私は真っ先にレイちゃんの顔が浮かんだ。自分にとって傷つけたくない人が側にいるとイメージすれば、少しは制御がきくんじゃないかしら?


「もし仮に、俺にとってお前が大事な存在だとしたら……ずっと側にいるか?」

「え?」


思いもよらなかった言葉で、私は瞬きを繰り返した。


「べ、別に特別な意味なんて、ないけどよ。お前、弱っちいだろ?お前が側にいて、仮に俺が暴走なんてしたら、お前すぐにあの世に行きそうだし、それを頭に入れていたら暴走も抑えられるかな――なんて」


そこで私の反応を横目で見るアーシュだけど、一度でも暴走したら側にいる私の命は保障できない状況ですよね?――いまのところ。


「それじゃあ、ダメだと思う」

「ダメなのかよ!?」


いきなり大きな声を出すものだから、私は思わずビクリと肩を揺らす。


「もう少し制御できるようになって、私の命の危険がなくなってからじゃないと……」


でないと身が持ちません!


いつ爆発するかわからない起爆装置じゃないですか。

一度でも大爆発かましたら、私はサヨウナラじゃないですか。それは無理です。


「――解った、俺はやる」


いきなり背筋を伸ばした彼は、どうやら、スイッチが入ったようだった。

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